夏の朝の風景


「おい、起きろ。朝だぞ。」
「ううーん、あだでずね・・・、おはようございます。」
「おー、はよ。」

呂律が回ってないままの妹を起き上らせると、挨拶をしたまま布団に突っ込もうとするので、
軽すぎる妹を持ちあげる。

洗面所で下ろして、「タオル置いとからな。」と一言掛けると、辛うじて開いている目で蛇口を捻っていた。



自分の分の朝ご飯をつくった後に、自分の分より六か七分の一くらいの量の朝ご飯をつくる。

(目玉焼きはの黄身は半熟・・・と。)

蓋をしつつも、黄身を気にかける。

急にテレビのチャンネルが変わる。
蓋を開けると、丁度柔らかそうな黄身が顔を出す。

「・・・うげぇ。・・・うおう。おうふ・・・え、あ・・・すげぇ。」

(何のニュースを見てるんだよ・・・。)

目玉焼きを皿に盛り付けていると、服を引っ張られた。

「たいが・・・。」
「何だよ。」
「・・・うーん。」

考え込むの様子は、どこぞのハチミツ好きの黄色いクマのようだ。

「からあげ食べたい。」
「…材料ねぇな。たぶん。お前が買ってくるならいいぞ。」
「コロッケ食べたい。」
「…両方食べる気か?」
「食べたい。」
「腹壊すだろ。やめとけ。」
「たいがじゃ、あるまいし。」
「人のコトバカにしてんのか。」
「正直に言ってるだけですー。あ、私のもってくー。」
「何飲む?」
「野菜ジュース!」
「んー」

名前はペタペタと足音を立てながら、自分の朝食を慎重に運ぶ。


「…へぇーテンアゲだって。」
「なんだそれ。」
「テンションアゲアゲの略…?らしい。」
「ふぅーん。変な言葉だな。」
「たいがの敬語も変だよ。」
「…俺は…いいんだよ。」
「今日英語の小テストあるね。」
「別に簡単だろ。単語だし。」
「うーん…チッチッチ!」

名前は人差し指を縦に振る。

「油断はいつしか身滅ぼすことになるんだよ。」
「へー。」
「…たいががいじめる。」
「虐めてねぇよ。」



「たいがー待って待って!」
「早くしねぇと、遅刻するぞ。」

バタバタと騒がしい足音を立てて、名前は玄関に向って走ってくる。

「スカーフかせ。」
「はぁーい。」

黄緑色が特徴的なスカーフをつけてやる。
名前も料理、洗濯…家のコトは人並みに出来るが、どうしても折り紙とか、裁縫系が苦手だったりする。
指先が不器用なのか…?

「よし。はい後ろ向け。」
「らじゃ。」

夏が近づき、暑い暑いと文句を言うので、長い髪を一つに結んでやる。
ポニーテールにしても、長い髪は結局首元を隠してしまう。
俺的にはやけに白い肌が目に着かない方が安心である。

名前は指定の鞄を使わず、リュックを使用している。
身体が小さいから、指定の鞄だと重い荷物を運びにくいのだ。

「髪持っとけ。」
「うーむ。」

やけに白い肌が目に入り、思わず目を逸らす。
髪がリュックに挟まれて引っ張られないよう、リュックを背負わせてやる。
カーディガンと色を合わせて買った、白を基調とした布に大きな黒の水玉模様のリュックはお気に入りだ。

名前は中三ぐらいから、やっと普通に通えるになった。
今でも倒れるし、熱は出すけど、一週間熱が下がらないってことは少なくなってきている。
…それでも、真っ白で雪の様な肌を見ると、死んだように目を閉じている名前を思い出すので、…苦手だ。

「よし、準備OK!学校行こうぜ!」
「準備したのは俺だけどな。」
「はやくはやく!」
「はいはい。」

名前は学校が好きらしい。
幼馴染の東城とクラスが一緒なのが主な原因だろうが。
今でも人見知りは健在である。

「今日はーからあげねっ!」
「ちゃんと飯代もったか?」
「おう!」

首から下げる猫のガマ口の財布が沙良はよく似合う。
東城曰く、『本来なら似合っちゃいけないけど、名前は可愛いからいいの。』
…まあ、高校生が使うような財布ではない、たぶん。
俺と違って実年齢より若く見られる名前はそこがコンプレックスらしいけど、本人の性格時自体も幼いと思う。

証拠にその財布似合うな。と口にしたら、そうかなっ?!と嬉しさで興奮したように騒いでいた。
お気に入りなのだろう、その財布は。



「ここの方が安いな。」
「うん。じゃあ、ここで買えばいい?」
「ああ。」

チラシを見ながら、今日の夕食の相談。
朝が早い所為か、通学路は人通りが少ない。

「火神ー!」
「あ、降旗。」
「降旗くん、おはよう。」
「おー名前、おはよ。」

後ろから来たのは、同じ一年の降旗だった。
人見知りな妹が珍しく、ニコニコと笑って挨拶を交わしている。
しかも名前呼び。

「たいが?」
「いや、お前ら知り合いだったのか?」
「え、知り合いも何もクラス同じだもん。ねえ、降旗くん。」
「おう。」
「ふぅん。」
「名前はたいがと区別つからないから。ね、降旗くん。」
「そうそう。」

妙に会話のテンポいい。

「仲いいんだな。」

そう言うと、二人は目を合わせて、面白そうに笑い合う。

「だって、私と降旗くんはチキン同盟だもん!」
「不本意ながら…。」

「…あー…なるほど。」

しっくりくるほど、似合う同盟である。

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