桃井と青峰と再会桐皇と対面


「ふ、ふわあああ」
「迷子になるといけないから、手離しちゃダメだぞ」
「ふわあい!」

ちょこちょこ後ろを必死で付いてくる彼女は微笑ましい。

ここは試合会場。
今日は桐皇のメンバーと霧崎第一対誠凛の試合を見に来た。

俺は試合前に用を足しておきたかったので一人でトイレに行った。
その後今吉たちの元へと向かおうとしたとき、鳩尾より下ら辺に小さな衝撃が走った。

「ふぎゃっ」
「ん?」

俺の身体に当たった小さくて柔らかいものは跳ねかえって、尻もちをついてしまった。

「悪い、大丈夫だったか?」

痛みを耐えるようにう〜と唸っている小学生くらいの女の子にしゃがみ込んで手を差し伸べる。
ん?この制服…

その小さな女の子をよく見てみると見覚えのある制服に身を包んでいた。
この黄緑色のスカーフのセーラーって…確か、誠凛の監督と同じ…
記憶の中にある誠凛の監督とセーターは違うけど、…確かに制服は誠凛のもので間違いなかった。

ってことは…高校生?

一人そんなことを考えていると、彼女が顔を上げた。

「あ…え、っと」

どこか見たことあるような顔だな…この濃い赤い髪…可愛らしい目元だが少し釣り目がち…

「あ、立てるか?」

気まずそうに目を逸らす彼女に再び手を近づける。
彼女はぎこちなく俺の手を取って立ち上がった。

「あ、ありがとうございます。すみませんでした…前も見ずに…」
「いや、こっちこそごめんな」

小さい身体でぺこぺこ頭を下げられて、少し良心が痛む。

「あ、あの…」
「うん?」
「誠凛と霧崎第一の試合会場ってどこか、分かりますか?」

…小さっ!改めて立って見下ろすと彼女の小ささが余計に目立つ。
子犬のような目が俺を見上げる。
首をほぼ真上にやっている彼女に俺も合わせて腰を少し曲げる。

「知ってるよ。良かったら一緒に行くか?」
「いいんですか?」

彼女は助かった!とでも言うように目を輝かせた。
俺はいいよ、と笑みを作った。

「あ、そろそろ始まるな。行こうか」
「はい!」

冒頭に戻る。



「諏佐ー遅いでー…ってなに、幼児誘拐しとるんや」
「誤解を招くことを言うな」

すでに会場の席に座っていたメンバーは俺の後ろ…いや、足元で不安げに俺のブレザーの裾掴む彼女に視線が注がれていた。

「ちょっと迷っていたから案内してただけだ」

訳を話していると、桃井が身を乗り出して彼女に近づいた。

「…ん?んー?あー!あのときの小さい子!」
「あ…お、お久しぶりです」

彼女は桃井を見て少しぎこちなく笑って、ぺこっと頭を下げた。

「やーん!相変わらず可愛い!ねえ、青峰君!青峰君!あのときの子だよ!ねえ!」
「あん?」

だるそうにコートを見ていた青峰が振り向いて彼女を見た途端、いつも仏頂面が珍しく驚いた顔になった。

「あんときのちびんこじゃねぇか」
「あ、あのときはありがとうございました」

ぺこぺこ、とまた彼女は頭を下げる。

「ふふ、久しぶりだね!…あれ?ん?あれ?その制服どこかで…というか、どうかで似たような顔を見たことがあるようなぁ…」
「…お前、火神の妹なんじゃねぇーの?」
「ふえっ?!」
「えっ?!」

彼女の驚いた声と、俺たちの驚いた声が重なった。

「え、火神ってあの火神?」

若松がコートの中の火神と彼女を見比べる。
…確かに、濃い赤い髪も釣り目がちな目…そして、誠凛の制服。
合点がつく。

「火神くんの妹ってほんとうっ?!」
「は、はい…たいがの、妹の火神名前です」

あの今吉でさえ驚いているようで興味深そうに彼女を見つめる。
桜井はどこかわくわくさせた様子で彼女を見つめていた。

さっきよりも注目度が増えた彼女は桃井に自己紹介をしつつも、じりじりと俺の背中へと隠れようとしていた。

「でも、青峰君よくわかったね!」
「いや、見れば分かるだろ…似てるし、つーか誠凛って小学生とか中学生か知らねぇけど、そんなんあったか?」
「ううん、ないよ。だって去年出来たばっかりの新設校なんだよ?一年生と二年生しかいないはずだし…あれ?でもその制服誠凛のものだよね?」
「え、えっと、私誠凛の一年生なんですけど…」
「え、でも火神の妹なんだろ?」

若松に見下ろされた彼女はひいっと小さい悲鳴を上げて俺の背中に完全に隠れる。
そして、頭を少し出すと、小さい声で言った。

「私とたいがは双子なんです」

「えっ?!」

その言葉にまた俺たちの声が重なった。
俺たちの様子に彼女は気まずそうに目を逸らした。

「ふ、ふたー」

桃井が口を開こうとしたとき、今吉がそれを渡った。

「試合始ってまうで、とりあえず席着こうか」
「は、はい」

今吉の声でそれぞれが座る。
否、俺は座れなかった。

「あ…」

彼女は焦ったみたいに周りを見回すが、運が悪いことに俺らの周りの席は全部埋まっていた。
今更移動したら試合が始まってしまうだろう。

「名前ちゃん」
「ふえ?」
「俺の膝の上でよかったら座るか?」

半泣きの彼女に今吉が話しかけて、いつもとは違う笑みが作って自分の膝をぽんぽん叩いた。
その言葉に彼女は顔を赤くして戸惑ったように目を瞬かせた。

「あ、あの、でも」

何故か彼女は俺に救いを求めるように俺をチラチラと見て来た。
本能的に今吉は危険だと悟ったのかもしれない。

「今吉、名前…ちゃんは俺の膝に乗せる」
「えーそうなん?振られてしもうたわー…まあ、先に知り合った諏佐の方がええか」

今吉は面白くなさそうに言うが、俺は彼女が安堵したように息をついたのを確かに聞いた。
俺は元々取っておいた席に座って今吉と同じように膝をぽんぽんと叩いた。
彼女は恥ずかしそうに俺の開いた足の右足にちょこん、と座った。

「す、すみません…案内までしてもらったのに…」

小さい身体を余計に縮こませて肩身を狭そうに言う彼女の頭を軽くぽんぽんと叩く。

「気にするな。お兄ちゃんの試合見たいんだろう?」
「は、はい…あの」
「うん?」
「お、重かったら行ってください。いつでも退きますから」

彼女は赤い顔のままぼそぼそと言った。

俺はその言葉に目を見開く。
重い…ありえない、彼女は見るからに細くて小さくて軽そう…というか、実際軽い。

「大丈夫。全然軽いから」
「…そう言ってもらえると助かります」

彼女はやっと安心したように小さく笑った。

※おまけ

「こんなに小さいなのにちゃんと敬語使ってる…のに、青峰は…はぁ…」
「(絶対見た目で判断されてるよ、私)」
「(髪綺麗だな…可愛い小さい…後で話しかけてもいいかな)…」
「(…何か、可愛い男の子…から視線を感じる)」
「(諏佐…ロリコンだったんやな)」
「(ちげぇよ…お前の方こそロリコンじゃないのか)」

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