ぱっとしない、二度目まして
「…ん?んん?」
少しだけ涼しく感じる風が肌に触れたような気がした。
せみの鳴き声やよく聞くボール独特の音がして、なんとなく自分が居る場所が
どこか分かった気がした。
瞬きを繰り返して、ぼやけていた視界がどんどんとはっきりしていく。
「名前、だいじょうぶ?」
「…んう、…ふりはたくん」
まだどこか眠そうにしている彼女の頬を撫でてみる。
やぁだ、とくすぐったそうに、目を細める彼女の表情がいつもより、可愛く見えて
俺は思わず手を引っ込める。
ぞわ、と肌の表面が波を立てるように、逆立った気がした。
「たいがは?」
「あっちだよ」
木陰のベンチで横になっていた彼女は体を起こして、俺の身体に凭れ掛かるように
座りなおした。
「ね、あの見ない人たちが海常の人たち?」
「ああ、…金髪のイケメンが黄瀬で、緑間とかたちと同じの、キセキの世代だよ」
「…ふぅん」
「あんまり興味ない?」
「んーん、ちょっと…眠気が取れなくて」
「そっか」
「うん」
ぽつりぽつり、と会話をしていると、そのうちゲームが終わったようで、
汗を流しながら、荒い息をした火神たちが戻ってくる。
火神は意識が戻った彼女の姿を見ると、目を見開いた後に、眉を下げる。
「だいじょうぶか?」
「だいじょうぶそうに見えるなら、そうじゃない」
火神を見上げながら、彼女は意地悪そうに笑う。
しかし、彼女は幼い顔をしているので、その表情は拗ねているようにも見える。
そんな彼女に火神はバツが悪そうに、頭をかく。
しゃがみこんで、彼女の視線に合わせる。
「悪かった。置いてちまって…飲み物買ってやるから、機嫌直せよ」
「…ふぅん?」
「起きたばっかで、渇いてるだろ」
「…まあ、いいけど」
普段は絶対合わない二人の視線が合って、彼女は妥協したように、やっと頬を緩めた。
「へえ、火神っちって、妹ちゃんに頭上がんないっすね」
「そうですね、名前さんには大分甘いですよ」
なんて、会話が火神の後ろから聞こえて、彼女は慌てて目線を上げる。
「えっと…?」
「二度目まして?っすよね、改めて、黄瀬涼太っす。よろしくね」
にっこり笑う黄瀬に、彼女は首を傾げながらも、こくりと頷いた。
「あれ、俺のこと覚えてない?」
「…覚えてるけど…」
「何か僕と再会したときと、リアクション違いますね」
「いや、ただ名前は寝起きが良くないんだよ。ぼーっとしてるだけだろ」
「…あ、ね!ねね、たいが!私のこと助けてくれた人知らない?」
「あっ」
しょぼんとしている黄瀬を、どこか申し訳なさそうにぼけぇっと見つめていた彼女は
いつもの調子を取り戻すように、大きく目を見開いて、きょろきょろと辺りを見回した。
しかし、まだやはり眠いのか、いつもより覇気がない。
俺たちの様子を見守るように、水分補給をしていた笠松さんたちが
空気を読んで、こちらに近寄ってくる。
「気分は大丈夫かな?」
火神と同じように、ベンチに座る彼女との目線を合わせて、かがむ森山さん。
安心させるように笑う森山さんに、彼女もぎこちないながらも、同じように笑う。
「はい、だいじょうぶです」
「笠松ー、お前も来いよ」
「ほら、呼んでるぞ」
「…ああ」
笠松さんは女子が苦手らしい。
最初彼女のことを小学生だと思い込んでいたおかげで、普通に接することができていたらしい。
でも、高校生と知って、苦手意識を持ってしまったらしい。
小堀さんに軽く背中を押されて、笠松さんはいつもより険しい顔をして
彼女を見下ろした。
「あ、えっと…助けてもらって、ありがとうございます。
助かりました」
「…お、おう。気にすんな…あ」
彼女は立って、ぺこりとお辞儀をした。
立ったのがダメだったのか、彼女が頭を上げた途端に、ふらりと彼女の身体が右に傾く。
「おっと…」
「…」
「…ね、てる?」
丁度近くに居た森山さんが彼女を受け止める。
屈んだままでも、受け止めることができる彼女の小ささに少し、
驚きながらも、森山さんは器用に抱き上げる。
「…ほんとに、コイツは体力ねぇなぁ」
「まあまあ、そんなこと言うなって」
「フリはコイツに甘いんだよ」
それはお前もだ。
「火神っちの妹って言うより、娘みたいっすね」
森山さんにすみません、と謝る火神を見ながら、黄瀬はそんなことを言う。
森山さんはいつもより、決まった顔で、役得だから気にするな、と笑う。
「おい、ロリコン!」
「笠松!名前ちゃんは高校一年生だぞ!俺じゃなくて、名前ちゃんに失礼だ!」
「な、あ…ああん?」
「じゃあ、あれっすね!合法ロり!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ森山さんたちに、おろおろする俺たち一年生。
火神はその中心で、彼女を抱えながら、面倒そうな顔をしていた。
「ほら名前、ちゃんの具合が悪くなるかもしれないだろ。
今日はもう休ませてあげた方がいいんじゃないか?」
海常の良心、小堀さんのおかげは収拾がついた。
火神はもの足りなそうに、こちらを見ていたけれど、
そこは黒子が火神くんが名前さんを置いてきたの悪いんですよ、と説教したので、
大人しく帰った。
***
翌日の部活のお昼休憩にて。
携帯を握ったまんまの、火神を発見。
「ん?どうしたの火神」
「フリか」
「…なんだよ、辛気臭い顔して」
「名前が昨日の夕方から寝て、まだ起きないんだよ…どんだけ寝る気だ」
「えっ」
「電話出ねぇし、ぜってぇ家に帰ってもアイツ寝てる」
学校以外に、長時間外出すると、バカみたいに眠る体力不足の妹に、
今日も体力自慢の兄は頭を悩ませます。
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