ラッキーパーソン
「どうして、こんなことに…」
大坪さんという安全地帯に居ながら、私は震えながら、たいがの迎えを待っていた。
「気分は悪くないか?」
「だいじょうぶです。本当にすみません」
「いや、こっちこそ…緑間の所為で、悪いな」
「だいじょうぶです」
今にも白目を剥きそうなくらいに顔色が悪い。
長い赤い髪は今日は下ろされておらずに、ポニーテールにされていた。
「もうすぐ終わるから、ここで待っていてもらえるかな?」
「はい、分かりました」
大坪さんが去っていくのを見計らって、俺は笑顔で彼女に近づく。
「やっほー、元気?」
「高尾くん…元気に見える?」
「…うーん、見えない?」
「帰りたい。お家が恋しいよ、高尾くん」
「ちょいちょい!俺今汗かいてるから!くさいから!」
むぎゅう。
そんな効果音が付きそうだな、なんて考えながら
抱きついてくる小さい彼女の頭を撫でる。
火神名前ちゃん。
火神の双子の妹で、かなりの人見知りらしく、しかも引き篭もり。
長時間の外出は身体にも障る上に、本人にとっても苦行らしい。
「はぁ…あつい」
「抱きついてきたの名前ちゃんだけどね」
「いや、つい、申し訳ない」
「別にいいけど」
彼女と俺は連絡先を交換していて、
主に俺からだけど、二週間に一回くらいの
のろのろとしたペースで連絡をとっている。
彼女はとても返信が遅い。
曰く、そういう細々としたものは面倒らしい。
パンチラ防止のための、膝にかけているタオルケットを
彼女は面倒そうに直していた。
涼しそうなノースリブワンピに身を包む彼女は今日何度目か分からない、帰りたいという言葉をこぼしていた。
「いや」
「そこを何とか」
「むり」
火神に比べると、あまり物をはっきり言わない子だなーっていう印象だった。
しかし、NOと言える日本人らしい。
真っ青な顔で頼み込む真ちゃんに対して、頑なに首を横に振っている。
その横では、火神が呆れた顔をしながらも、もぐもぐと朝食を食べている。
その量を見ると、食べていないのに、胸やけを起こしそうだった。
「最近のおは朝は…ラッキーアイテムではなく、ラッキーパーソンというものあるのだよ。
そこで、今回俺は最下位な上で、二卵性双子の弟または妹が、ラッキーパーソンだった。
俺にそんな知り合いは居ない。…しかし、火神の妹ならば、条件に当てはまるのだよ」
だから、名前ちゃんを一日貸してほしい
と、真ちゃんは頼み込みに、朝一で火神の家に訪問してきたのである。
当の本人は本当に嫌そうに、首を横に振っている。
「…知らない人たちがたくさんいるとこに、一日居ろって?しかも、体育館でしょう?
暑いでしょう?無理だよ、熱中症で倒れるのが目に見えてる。
部外者な上に、迷惑かける?無理無理。耐えられない」
「お前が体調を崩さないように、最適な環境を整えればいいだろう。
だから、…頼むのだよ」
心底嫌な顔をする妹と、心底恥を忍んで頼み込んでいるライバルを見ているうちに、
兄はライバルに同情心を抱いたらしい。
「名前、お前かれこれ一週間外出てないだろ。
一日くらい、外出る日あってもいいじゃねーの」
「部活中、私暇じゃない?」
「宿題でもやればいいだろ」
「もう全部終わったし」
「…相変わらず、そういうところだけはしっかりしてるな。
とにかく、緑間。
コイツは貸してやる。好きに持っていてくれ」
「なっ?!裏切者!」
俺と真ちゃんこの兄妹の会話に、いくつか突っ込みたいところがあったが何とかそれを飲み込み、
嫌がる妹ちゃんをリアカーに乗せて、秀徳高校へと向かったのだ。
「…名前ちゃーん?生きてるー?」
ふるふる。
がっしり、と俺の腰にしがみ付きながら、体育館へ向かう彼女の顔色は
どんどん悪くなっていく。
精神的な意味で。
「いや、これは、無理ゲーだよ、高尾くん。今からでも遅くない帰らせて」
「まあまあ、ここまで来たんだから。腹くくろうぜ、名前ちゃん」
なでなで。
小さい頃妹を宥めていたのを思い出すなぁ。
***
「…緑間、ソイツだれだよ?」
宮地さん、宮地(弟)さん、木村さん、大坪さん…揃っている状態で、
見下ろされて、真ちゃんに快適な環境を作ってもらっている
名前ちゃんは青ざめる。
比較的にボールが飛んでこないと思われるところに、彼女を座らせて、
どんどん上昇する温度に耐えるため、彼女のおでこには冷えピタが張られている。
ちなみに、監督には事情は承諾済みである。
「今日のラッキーパーソンの、二卵性の妹です」
「…緑間の?」
「宮地さん目大丈夫ですか?俺とコイツが双子に見えますか?」
「てめぇ、緑間ケンカ売ってんのか?」
「まっ!まあまあ!
この子は火神の妹なんすよ!ほら、赤い髪に、ちょっと吊り上がった赤い目!
火神に似てるでしょ?」
じぃ〜。
と遠慮なく見下ろす宮地さんたちに、彼女はギブアップとでも言うように、
ふらりと身体を揺らして、真ちゃんへと倒れこみかける。
「なっ、どうした!貧血か!」
「…イヤベツニ」
「手が冷たすぎる」
「ね、ねえ、真ちゃん、たぶん、名前ちゃん緊張してんじゃない?
名前ちゃん人見知りなのに、しかもこんな男がわんさか居るとこに連れてこられて、
色々とキャリアオーバーしちゃったんだでしょ」
俺は彼女を抱き起しつつ、頭を撫でてあげる。
むき出しの肩を何気なく触ってみると、鳥肌が立っていて、あ、本当に人見知りなんだと再確認。
「すまんな、うちの緑間が迷惑をかけて…」
「いや…だいじょうぶです、たぶん」
大の男たちの視線に参ってしまったのか、彼女は愛想よく笑っているつもりかもしれなが、
口元が引きつっており、見ているこっちも頬を引きつりたくなる。
名前ちゃん…今日一日頑張って…。
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