ラッキーパーソン2


「たいが!」
「おわっ」

秀徳の体育館に顔を出した瞬間に突進された。妹に。
ぐりぐりと頭を押し付けてくる名前の頭をわしゃわしゃと撫でて、
抱き上げる。

「恋しかったぜ、マイブラザー」
「やめろ、気持ち悪い」

いやいや、マジな話と名前は真顔で俺の首に抱き着いた。
久しぶりに聞いた名前の舌たっらずな英語に呆れながら、一応ご苦労さんと
背中を軽く叩く。

そんな俺たちを見守っていた高尾がひょっこりと現れて、
申し訳なさそうに眉を下げた。

「よー火神、お迎えサンキューなんだけど、真ちゃん家までいい?」
「ああ、いいぜ」

事前に聞いていたことなので、承諾する。
頷いて名前を抱え直す、この後の展開は経験上だいたい読めてる。

高尾の後ろに居た緑間は神妙な顔をしていた。
体育館には居残りをしていく奴らが居るのか、バッシュの音が響ていた。

「…なんだ、その、…今日は世話をかけたのだよ、名前」

ぼそぼそと言ったの緑間の言葉に返事は帰らない。
聞こえて来たのは、微かな寝息。

緑間のメガネずれて、高尾が口を押えて、俺は呆れて、
名前は疲れ果ててすっかり夢の中だった。

***

「マジ、これ乗ってんだな」
「部活の後にリアカーとか超しんどいんだけどっ!」
「高尾鍛え方が足らんぞ」

てか、190センチ超える大型の二人乗せたら、普通にしんどいっての!
名前ちゃんだけなら、楽なのにな。
いや、そもそも、名前ちゃんだけなら、リアカーよりも、普通に抱える方が楽か。

「今日名前どうだった?迷惑かけなかったか?」
「ああ、問題な」
「全然!むしろこっちのワガママばっかに付き合わせて悪かったって感じ!
 宮地さんに絡まれてほにゃーんってしてたり、大坪さんとほのぼのトークしたり、
 木村さんに何か知らないけど、プロレス技習ってたりしてだけだぜ!」

俺に遮られた真ちゃんは不満そうに、腕を組んで鼻を鳴らした。
自分で言っときながらも、結構の今日の部活はなんていうか、てんこ盛りって感じだった。

「…ほ、ほにゃーん?」

**

全然似てないけど、監督の横に座っている…えーっと、火神の妹なんだっけ。
たしか、名前だ。

ソイツは緑間より白い顔をして、きょろきょろ興味深そうに練習をこなす俺たちを
見つめていた。

ダッシュを終えて、ドリンクで水分補給。
キャプテン、副キャプテンが練習メニューを話し合っている間に、俺はふらっと
火神の妹のところへ。ただの好奇心だ。

「…」
「よ、体調大丈夫か?」
「わあ、…だ、いじょうぶ、です」

戸惑った目が俺を見上げて、ぎこちなく力なく笑う姿に、なんだか兄心がくすぐられた。
こんな小さいのに、野郎ばっかり居るところに放り込まれて、可哀想だ。

つい小さい頃の裕也にするように、頭へ手を伸ばす。
髪の柔らかさと、頭の小ささに手が引っ込みそうになった。

弟とやっぱ、違う。

火神の妹は急に撫でられて驚いた顔をしているが、
抵抗もなく、大人しくしている。

にしても、…この感触は…、癖になる。


「…なんか名前ちゃん、とろんってしてね?」
「ああ」
「いやあ、あれはほにゃーんだ」
「うわっ、裕也さん」
「兄貴はああ見えて、頭撫でるのが上手いんだよ。
 俺も昔撫でられて、不覚にもああなった」
「エッ、裕也さんがほにゃーんっすか!それはやべえっ!」

**

「…ほのぼの?」

***

緑間たちと同い年と思えない火神の妹は、火神の妹と思えないくらいに
大人しく行儀良い。

縮こまっている姿はどこか、自分の妹を見ているようにも思える。

「名前ちゃん!お昼一緒に食べようぜっ!」
「高尾くんっ」
「おう、なかなかのタックルだな」

緑間よりも、高尾に懐いているのか。
火神の妹は高尾に話しかけると、安心したように飛びつく。

緑間は元々口数が多くないヤツだからか。
高尾の後を追うようにしている。…火神の妹はラッキーアイテムではなく、
パーソンだから、一定の距離を一緒に居ないとダメなんだろうか。

「名前ちゃんの弁当、火神の手作りなの?
 すごっ、めっちゃ美味そう」
「…あの短時間でよく作れたな」
「だよなぁー。今日俺らが押し掛けたようなもんだし」

体育館の入口に、名前ちゃんを挟むように座って、
お昼を食べる三人はなんだか微笑ましいようにも見えた。

「あ、大坪さーん!お昼食べないんっすか?」
「いや、食うぞ。
 名前ちゃん、良かったらこれを使ってくれ」

夏でも暑くないと妹から教えられた、サマーニットと言うもの。
最近の手芸はそこら辺が凝っていたりする。

微かに当たる日差しを渡るように、肩にかければ、
名前ちゃんは驚いたように目を見開く。

「大坪さん、これ、まさか」
「ああ、俺の手作りだ」
「…傑作なのだよ」
「え、これ手作り?なんですか?
 すごい…いいなぁ…、私器用じゃないから…」
「なんなら、簡単に編めるもの教えようか?」
「いいん、ですか?」
「ああ、もちろん」

嬉しそうに口元を綻ばせる名前ちゃんに、
俺も知らず知らずのうちに笑い返していた。


「名前ちゃんと編み物する大坪さんの、お父さん感やばいね、真ちゃん」
「…(否定できないのだよ)」

***

「名前がプロセス技…?」

**

「てかよぉ、そもそも何で火神の妹とお前らが知り合いなんだよ」
「俺は真ちゃんとラッキーアイテム探してるときに、雨宿りに火神の家寄らせてもらって。
 でも真ちゃんは中学のときに会ってんだろ?」
「ん?ああ、…まあ、あのときは同い年とは分からなかったが。
 名前が不良に絡まれていたので」

大坪と編み物をしている火神の妹に視線を向ける。
あんな小さい子に絡むとか、最近物騒過ぎんだろ。

俺は平和な大坪たちの姿に頷いた。

「あれ?木村さん?どこ行く…」
「何故、名前のところへ…」
「さあ?…なんか、技かけてない?
 まって、大坪さんにプロセス技かける名前ちゃんとか、ちょっと、面白過ぎんだけど」
「…高尾、笑い過ぎると、またむせ…遅かったか」


「そうだ。そうすれば、自分より大きい相手にも対応できるぞっ!」
「な、なるほど…!(どうして、私はこんなことを…?でも親切を無下にできない)」

***


「何だかんだ言って、楽しそうなら良かった」

くたくたになって、眠りこける名前の頭を撫でれば、
緑間が眉を顰める。

なんだよ、と言えば、鼻を鳴らされた。

「お前も、一応兄なんだと思ってな」
「はぁ?」
「秀徳はさ、キョウダイ居る人多いからさ。ついつい構っちゃうんだよなぁ。
 俺も真ちゃんも、妹持ちだし」
「…緑間に妹…?」
「何だ、その目は」
「まあ、火神の反応分からなくもないぜ」
「高尾!お前まで!」


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