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制服をいつもの二倍の速さで着替えて、廊下へ出た。
五月とは言え、体育でいっぱい動けば汗をかく。
そんな女の子たちは制汗スプレーにシートと色々と身だしなみを整えるのです。
私は無臭なものでさっとふき取るタイプ。
しかし、いくら身だしなみのためと言っても人数が人数だから…少しなら良い匂いの制汗スプレーも、多いと鼻が曲がりそうになる。

汗を拭きとっても多少べたべたする制服に眉をしかめながら、自動販売機へと急ぐ。
今日は五月にしては暑い日。
水筒は持ってきてたけど、この暑さだから全部飲んでしまった。

「…うーあつい」

熱中症対策もかねてスポーツドリンクにしよう!

やっとついた。自動販売機。
早めに着替えてよかった。
胸ポケットから百五十円をだして、500ml入りのアクエリアスのボタンを押す。
自動販売機から取りだして顔を上げると、押したところのボタンにはバツ印があった。

「ラスト一つだったのか。ラッキー」

そう呟きそうになったとき、後ろから声がした。

「…売り切れか」

…この声は。聞いたことがるぞ…つい、こないだ…というか昨日!
ぐりんっ!とホラー映画もびっくりなぐらい勢いよく振り向くと、その声の主は少しだけ身体を揺らして驚いた。

「あ…」
「…(やっぱりっ!?)」

そう昨日私がふでばこを当てた上に迷惑な謝罪(土下座)をしてしまった相手、あかあしさんである。

「昨日の…」

冷たそうな印象を持ってしまう切れ長の目が私を見下ろす。
私の口からひいっ!と悲鳴が漏れていた。無意識のうちにだ。
その悲鳴にあかあしさんは少し眉を顰める。

「…きのう、はすみま」
「いいから…別に気にしてないし…」
「は、はい…ありがと、ございます」
「…お礼言われることじゃないと思うけど」

悪い人ではないことは分かるが、やらかしてしまった相手だし年上だし物腰が柔らかいわけでもないし…だから、つい萎縮してしまう。
俯いてつま先に視線を落としていると、あかあしさんがしゃべった。

「…自動販売機、使っていい?」
「あ…す、すみません。邪魔しちゃってっ」

ぴゅんっ!とすばやく横にスライドして自動販売機の前からどく。

「…」

あかあしさんは私から視線を外してお金をいれる。
慣れた手つきでボタンを押すが、お目当ての商品は出てこなかった。
あかあしさんが押したボタンはバツ印が出ているスポーツドリンクだった。
小さく、あっと声を漏らして、指をボタンから離してどれを買うか決めるためか視線を彷徨わせた。

そのとき、さっきのあかあしさんの言葉を思い出す。
「…売り切れか」
私がラスト一本を買った後のタイミングで言われた言葉。
しかも、最もな証拠とでも言うようにあかあしさんが押したボタンの商品は私の手の中にあるもの。

…なんてこった。
なんと私はタイミングの悪いことを・・・・、ふでばこを当てた上に土下座をかまして人の目に晒した上に目的のものまでも奪ってしまうとは!
しかも今日暑いし!

ああ…迷惑かけっぱなし…自分が情けないです。
私は水滴で濡れてしまっているペットボトルをぎゅう、と握りしめる。冷たい。
少し、息を吸う。

「…あ、あの」
「…ん?」
「こ、これ良かったらもらってやってください!」
「えっ」

私がぐい、とあかあしさんのお腹に押しつけるとあかあしさんは条件反射で受け取った。
私はそれを目で確認した後、教室までダッシュをした。

後ろで何か言っていたが、これ以上関わるともっと迷惑をかける気がするので私は聞こえないふりをした。



「…」

伸ばしかけて固まってしまった右手を元に戻す。
左手にはまだ冷たいペットボトルが一つ。
俺は無意識にため息をつく。

…悪い子ではない。ただ変わってる。
さっきまで俺の隣で萎縮していた彼女についての印象だ。

たぶん、このペットボトルは昨日のお詫びなんだろう。
…しかし後輩の見ず知らずの女子に奢ってもらうってなんかな…。

後味が悪い気持ちを引きずりながら、俺は飲み物を買う必要がなくなったので
お金を戻そうとした瞬間後ろから衝撃が俺を襲った。

俺は不意過ぎて対処が出来ず身体ごと自動販売機にぶつかった。

ばんっ!
ぴっ!がごんがごんっ!

痛いと思いつつ、嫌な予感がした。

「よっ!赤葦!今日あっちぃーな!って、うわ、スポドリ売り切れてんじゃん…炭酸にするか」
「…木兎さんいきなり体当たりしないでください」
「あ!赤葦のでラスイチか!お前ラッキーボーイだな!」
「…そうですかね」

会話になってない。
自動販売機に目を戻すと表示が消えていた。
…やっぱり、あの衝撃で何か買ってしまっていたらしい。
俺は屈んで取りだし口へと手を突っ込む。

「…」
「ぶっははは!お前何でこんな暑いのにおしることか!」

豪快に笑う木兎さんのわき腹を突く。

「ぎゃっ、何すんだよ!」
「…別に…失礼します」
「ちょ、え、もう行っちゃうの?」

俺は眉を少し顰める。
190近い男にそんな言葉を言われても嬉しくないからだ。
…とりあえず、その制服を引っ張る手を放してほしい。

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