勘違い

静かなロビーに声が響いた。もしかして劇団の人かな。な、なんか本格的に帰らないとやばい気がする…
そんな思いとは裏腹に、金髪の若い男の人が駆け寄って来た。帰るタイミングが分からない…

「もー!ゆっきー探したよ!公演終わったら夏組メンバーで楽屋行こうって言ってたの忘れちゃった!?」
「うるさいコミュ力高男。忘れてないっつーの」
「ちょ、ゆっきーマジドライ!なかなか来ないから探したんだけど!?」

なんか私お邪魔な気が…この人も役者さんかな?あ、でももしかしたら女の子の彼氏…とか?

「あ、あの…」
「ん?」

金髪の人がこちらを向いた。うっ、視線が痛い。

「ゆっきーのお知り合い?」
「まあね、」

女の子はそう言うが、実際名前も分からないんだけども…金髪の人、ゆっきーって呼んでるからゆきちゃんっていうのかな。

「ねぇねぇ名前教えて!あ、オレは三好一成。ゆっきーと同じ夏組だよん!よろピコ〜」
「(ピコ…?)あ…初めまして、名字名前です」
「へー、名字名前って名前なんだ」
「え!?ゆっきー知り合いじゃないの!?」
「今初めて名前知った」
「ちょ、名前知らないのに知り合いとかマジやばたん!ゆっきー斬新!」

自己紹介したものの2人の会話について行けず。はあ…完全に帰るタイミングを逃してしまった。

「ほら、ゆっきーもちゃんと自己紹介しないと!こういうのめっちゃ大事よ?」
「……瑠璃川幸」
「シンプルすぎ!」
「うるさい!」

やっぱり幸ちゃんっていうんだ。なんか2人の掛け合い面白いなあ。思わず、ふふっと笑ってしまった。2人が不思議そうな目で私を見る。

「あ、ごめんなさい!2人共仲良いんだなあって思って、」
「仲良いっていうか、こいつがコミュ力高いだけ」
「え、でも幸ちゃんの彼氏さんでしょ?」

思わずポロッと言ってしまった。2人が固まってまた私を見る。…げ、まずい事言っちゃったかな。
一瞬の沈黙の後、三好さんがプッと笑いだした。

「ちょ!マジやばたん…!名前ちゃん超ウケる!サイコー!」
「え?え?」
「……オレ、男なんだけど」
「!!えええー!?」

う、嘘だ…こんなに可愛い子が男だなんて…じゃあ、オレって言ってたのも若い女の子達の流行でも何でもなく、正真正銘の男だったから…
三好さんが笑いを鎮めながら「しかもゆっきーはまだ中3だから!」と、さりげなく爆弾発言をした。中3…?あれ、役者兼衣装係って言ってたような。え、中3で掛け持ちって相当すごくないか?
劇団の仕組みとかよく分からないけど、幸ちゃん…いや、幸くんってすごい子なんだなあ。当の本人を見ると、なんだか複雑そうな顔をしている。

「ご、ごめんなさい!私てっきり…」
「いいよ。慣れてるから。オレもちゃんと自己紹介してなかったし」
「まあ、オレも名前ちゃん同様ゆっきーの事最初女の子だと思ってたし、気にしなくていいと思うよん!」
「お前が言うな!それオレの台詞だから!」

とりあえず誤解が解けたし、自己紹介もしてもらったし、今度こそ帰らなければ。「じゃあ、私はそろそろ…」と、帰るアピールを切り出したが、

「んじゃあ、名前ちゃんも一緒に楽屋へゴー!」
「え"…」
「そうだね。アンタの事監督にも話しておきたいし、」

え、なんの事!?訳の分からないまま二人に連行される私。ああ…帰れない。