ドアから顔を出したのはすごく綺麗な女の人だった。廊下が騒がしいと思ったのか、夏組の三人を見るなり溜息をついていた。女の人はドアを閉めて廊下に出ると、三人の前まで駆け寄っていく。
「こら!三人とも廊下で何してるの!」
「あ!監督ちゃん!おつピコ〜」
え!?この綺麗な女の人、監督さんなんだ。自分が想像してた監督と全然違う。確か幸くんが言ってたけど、このMANKAIカンパニーって春夏秋冬の4つの組があるって…その4つの組をまとめてるって事だよね。若いのにすごいなあ。
監督さんの登場により、幸くんも皇さんも言い合うのをやめた。監督さんってすごい!
「そうだ、監督。アンタに話があるんだった。今大丈夫?」
「話?大丈夫だけど…夏組のみんなで楽屋に挨拶行くんじゃなかったの?」
「やっぱオレはパス。そこのポンコツ役者と一成は行くから」
「おい!オレはポンコツじゃねぇ!」
「はいはーい!テンテン楽屋行くよん」
一成くんが空気を読んだのか、皇さんと楽屋に入っていく。廊下には幸くんと監督さんと私の三人だけになった。
三人になってようやく監督さんが私の存在を認識したらしく、軽く会釈をされた。
なんかやっぱり私お邪魔の様な…元々ここ居る事自体場違いな訳で。お前誰だよ、って思われても仕方ない。
「幸くん、私帰るね…」
「駄目。名前が居ないと話が出来ない」
「えぇー…」
「幸くんのお友達?初めまして、MANKAIカンパニー総監督の立花いづみです」
「あっ、初めまして。友達の名字名前です」
咄嗟に友達って言ってしまったがしょうがない。改めて正面から監督さんを見ると、ほんと綺麗な人だなあって思う。綺麗なのに着飾らないというか、ナチュラルというか。雰囲気も柔らかく、笑顔が可愛らしい。まさに天使、って感じだ。
「監督、一回寮に戻ってゆっくり話がしたい。名前も一緒に。駄目?」
「いいけど…じゃあ、先に寮に戻ってるって咲也くんにLIMEしとくね。んじゃあ、行こうか」
幸くんの真剣な表情を見て悟ったのか、監督さんは快く了解してくれた。寮って言ってたけど、劇団の役者さん全員寮生活なのかな。だとしたらみんな仲良いんだろうなあ。
幸くんの言われるがままに二人に着いていく。外を出ると辺りはもう薄暗くなっていた。長い時間居座ってしまったみたいだ。どうもお芝居を見てから時間の感覚が鈍っている様で。まだ心が宙ぶらりんな感じだ。
寮の前まで来ると車が一台止まっていた。助手席から誰か降りてきて、少ししてから車は走り去っていった。監督さんが車から降りてきた人に声をかける。
「左京さん、仕事終わったんですか?」
「監督か。ん、瑠璃川も一緒か」
金髪で眼鏡をかけた男の人だ。この人も劇団の役者さんなのかな?それにしてはオーラが怖いというか威圧感があるというか。黒のスーツに黒のコート着てるし、なんか裏稼業の人っぽいな…
「それと、見慣れないのがいるな」
眼鏡の人が恐らく私の存在に気付いたらしく、私とは目を合わせず監督さんと幸くんに目線を送る。さっき劇場にいた時もそうだったけど、お前誰だ感が痛い。
「その事で幸くんが話あるそうです。いい?幸くん」
「ま、銭ゲバヤクザにも言っとかなきゃだしね」
「とりあえず中で聞く。談話室だとうるせぇから三人とも俺の部屋に来い」
私も人数に入ってるのか。というより…幸くんの口からヤクザって言葉が聞こえた様な気が…もしかして私、訳の分からぬまま連れてこられて始末されるパターン?
眼鏡の人はそそくさと寮の中に入っていった。監督さんから「どうぞ入って」とドアを開けてもらい恐る恐る中に入る。
寮の中は思ったよりもアットホームな雰囲気だ。監督さんと幸くんの跡を付いて眼鏡の人の部屋まで来た。
「まあ、テキトーに座れ。で、その連れについて聞こうか」
「名前は名字名前。今後衣装兼小物小道具係としてオレのサポートしてもらう」
「なるほど、そういう事だったんだね」
幸くんからまだ理由を聞いていなかった監督さんが頷く。
「ったく、勝手な事言いやがって…」
「でも左京さん、衣装や小物に関しては確かに幸くんの負担が大きい様な気がします」
「ま、オレが好きでやってる事だけど、オレも稽古しながらだとあまりペース上がらないんだよね」
「はあ……で、アンタはどうなんだ」
眼鏡の人が私を見る。うっ、やっぱり威圧感がすごい。私も幸くんから今日初めて言われたんだけどな…幸くんはそう言うけど、私もバイトとかあるし正直サポートできる時間なんてないと思う。
いきなりだけど、頼りにされるのは嬉しい。でも私に出来るのか自信がない。
私は…どうしたいんだろう。