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「この天祥院英智が宣言しよう
我が校の代表ユニットを選定するためのドリフェスを開催する!」
DDD。英智が開催を宣言したそのドリフェスの名称である。
国内最高のアイドルを選定するSSの出場権をかけたドリフェスは生徒会はもちろん一般生徒も参加権を持つ。このライブの勝者が、夢ノ咲の代表になるのだ。
もちろん、Trickstarも例に漏れずそのドリフェスに参加する権利を持っていた。だが、ユニットのメンバーたちは英智の提案に揺れ、悩んでいた。
英智が高らかに宣言した次の日、真は重い足取りで学院に向かっていた。英智が真に提案した、knightsへの移籍。それは真にとって受け入れがたい提案だった。モデルをやめた自分を受け入れてくれた場所。自らが望んでここにいたいと思えた、最初の場所なのだ。
「ウッキー!」
「…なまえちゃん?」
アイドル科のために別に設けられた入り口から、校内に入ろうとすると真を呼び止める声がした。振り返ると息を荒くしたなまえが膝に手をついて呼吸を整えていた。
「大丈夫…?」
「これ、聞いて、ほしくて」
「えっ」
真は手渡されたCDを戸惑いながら受け取った。おもて面には曲のタイトルが書いてある。作曲者はなまえ、そして作詞のところにはあんずの名前も書かれていた。驚いた真はこれって、となまえを見る。してやったりと言った表情で笑ったなまえは息がようやく整ったようで、姿勢を正すと話し始めた。
「あんずと話して、私たちにできることしようと思ったんだ」
真たちの進路を考えると、英智のした提案は悪いものではないと思う。それでも、あんずやなまえは集まった仲間たちが散り散りになっていいとは思わなかったのだ。プロデューサーとして、作曲家として一緒に舞台に立てない自分たちは、彼らの選択を応援するしかない。なまえたちが作ったのは、そんな彼らを応援する曲。輝いているTrickstarの歌なのだ。
「私は、これを四人で歌ってほしい」
Trickstarの、みんなに。
真は思わず指に力を込めた。あの時、自分は生徒会長の圧に臆してしまった。すぐに、移籍なんてしないとは言えなかったのだ。きっとそのせいで、あんずやなまえに不安な思いをさせてしまった。
「僕も、歌いたい」
二人の思いが、その指先の小さな円盤に詰まっているように思えた。真は
抱え込むように、祈るように、CDを胸元に寄せて包み込む。自分も歌いたい、踊りたい。あんずとなまえに見守られながら、また四人で。
すぐに聞くね、と真はなまえに伝えその場は別れた。真は昇降口を抜け、靴を少し乱暴に下駄箱に直すと廊下を小走りで抜けていく。空いている練習室を見つけるときょろきょろと見渡して恐る恐る中に入った。そして部屋の奥にあるプレイヤーにCDをセットし、姿勢を正して再生ボタンを押した。
待ちきれない、と言ったように歌から始まる曲。エレキ、ドラム、ベース。それだけでなくなまえらしいヴァイオリンが入ったクラシックのアレンジ。疾走感。歌詞をなぞるように目を閉じると、初めて四人で同じ舞台に立ったことを思い出した。
「これ、早くみんなと歌いたいな」
自分以外のメンバーがどんな選択をするのか、まだ真にはわからない。英智からの提案を受けて、真っ先に反発していたスバル。一考するべきだと言っていた真緒。そして、fineのライブを見てからずっと浮かない顔をしていた北斗。全員きっと悩んで、自分の将来と向き合っている。
「それでも、僕は」
歌いたいよ、この歌を。
真はセットしていたCDを出して、その表面を優しく撫でた。片付けを終えて、立ち上がると扉を開ける音がした。本来の練習室の利用者かもしれない。真は慌てて開いた扉に向き直る。だが扉の向こうにいた男の姿を見て、体を硬直させた。