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流星隊の協力を得てようやく始動したスバルたち。一人でないというのはやはり心強いようで、スバルも少し表情明るくレッスンに励んでいた。
その、次の日の早朝。晃牙はいつものように朝のレオンの散歩に出ていた。四月といえどまだ朝は冷える。息を吐いて悴んだ手を温めた。レオンの散歩コースはその時々で変わるが、今日は学校の近くの道を通っていた。その途中の道の生垣に、もはや見慣れてしまった赤を見つけ、ため息をついた。

「…なにやってやがる」
「お、おはよう!早起きだね!」

声をかけられた当人であるなまえは鼻の頭を赤くして右手を挙げた。生垣のそばに座り込んでいたなまえは、足元に寄ってきたレオンを見ると嬉しそうに笑い、彼の頭をわしわしと撫でた。どうやらレオンはなまえの匂いが気に入ったようで、前と同じようにくんくんと嗅ぐと大人しく撫でられている。

「北斗に渡したいものがあってさ
教室行くわけにいかないから通学路で待ち伏せしてんの」
「別に聞いてね〜ぞ」
「まあまあ聞いてよ奥さん」
「誰が奥さんだ」

にひひ、と笑ってなまえは手を擦り合わせた。見るにかなり前からここにいるようで小さい折りたたみの椅子に、肩からはブランケットを羽織っていた。

「出待ちかよ」
「あはは確かにそうかも」
「いつからいんだよ」
「えっと…五時くらいから」
「はあ?!!」

晃牙は思わず大声をあげた。隣にいたレオンは晃牙の大きな声に驚いて落ち着かないという様子で右往左往しだした。今はもう七時すぎだ。二時間近く外で待っていたと。

「いつ来るかわかんないじゃん?!」
「だからって限度があるだろ!バカか!」
「だって!…これくらいしか浮かばなくて」

確かにバカかもしれないけど。そう小さく呟いたなまえに晃牙は呆れてしまった。一度こうと決めたら一直線。いい意味でも悪い意味でもなまえは晃牙似ていた。晃牙は過去の自分を思い出した。

「何渡すんだよ」
「…前言ってた、Trickstarの曲。」

完成したんだ。そう言って手元に置いてあったCDのケースをそっと撫でた。その表情はとても優しげで、それでいて不安そうにして俯いていた。

「これで北斗たちのこと引き止められるなんて思ってないけどさ
それでも四人に歌ってほしい曲になったから、聞いてもらいたい」

すぐ、不安そうな顔を消し飛ばすように笑う。その笑顔も普段みる表情よりどこか自信なさげに見えた。晃牙はなまえの表情を見ると舌打ちをして脳天めがけて手刀を打ち込んだ。

「いッた!」
「なんも考えずに突っ走ればいいんじゃねーの」

そう言ってそっぽを向いてしまった晃牙。なまえは痛む脳天を抑えながら晃牙を見上げた。何か気に入らないことがあるような、そんな声色だった。それでも彼はなまえを勇気付けるようにぶっきらぼうな言葉を投げかけてくる。素直じゃないなあとなまえは茶化して晃牙に言葉を返した。

「大神はそれで負けちゃったけどね」
「あぁ?!」
「うそうそ冗談です」

なまえの言葉におもわずふりかえった晃牙は立ち上がったなまえの顔が間近にあって驚き言葉を失った。だがなまえの顔つきからは先ほどまで残っていた不安は消え去っていた。

「私もあんたみたいにもうちょっと戦ってみる」
「…おう」
「ありがとね」

さあもうちょっと粘るぞ、となまえは再び小さな椅子に腰掛け頬を叩いた。頑張る方向が少しずれている気もしないでもないが。まあせいぜい頑張れよ、となまえに言葉をかけると「おう」と女子らしからぬ返事が返ってきた。存外この女はタフで、負けず嫌いなようだ。晃牙は気分良くレオンのリードを引いて散歩コースに戻る。今日もあいつに負けられない。