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「大丈夫?苦しくない?」

女の子がこんなマスクを付けて舞台に立ってるだなんて、誰も思わないだろう。千秋に提案された通り、DDDの本番には謎のアイドルとしてあんずが舞台に立つことになっていた。なまえはあんずがつけた覆面マスクの紐を簡単に解けないようきつく結った。あんずは大丈夫、となまえに返事をすると座っていた丸椅子から腰を上げて服の裾を直した。そして振り返ると眉を下げたなまえをみて困ったように笑った。

「私も不安だけど、大丈夫」

ひとりじゃないよ、と強く手を握ってなまえを元気付けた。なまえは深く息を吸って手を握り返すとうん、と一言返した。万全、とは言い切れない状態。それでもライブは始まるし、アイドルたちを送り出さなくてはいけない。なまえはあんずの手を離すと自分の頬を勢いよく叩いた。

「しっかりしないとね!」

そう言ってなまえはいつもの笑顔を見せる。あんずはいつもの調子を取り戻したなまえに微笑むと時計をみて出番の時間を確認した。今日の相手は学院の中でも実力者と名高いKnights。真の移籍先として英智に提案された強豪ユニットだ。現状では勝てる見込みはない。それでも、なまえたちは彼らを信じると決めた。仲間たちが戻ってきてくれることを。彼女たちもまたあきらめが悪いのだ。


『まだ、希望の星は消えてない!』

そう言ってスバルが飛び出して行ってから三十分は経っていた。本番の準備をしていたスバルやあんずたちの前に現れた零は、真が望まぬ移籍を迫られ、監禁されていると言った。対戦相手であるKnightsのメンバーもそのことは否定しなかった。真は確かに迷っているそぶりを見せてはいたが、移籍に肯定的ではなかったはず。監禁場所の目星をつけてもらったスバルは真を救い出すために校舎に戻っていったのだが。


「スバルくんが戻ってくるまで、頑張ろう」
「いざとなったらみんなの着てない衣装私が着て乗り込むしかないか…」

なまえは冗談交じりで着る人のいない三着のユニット衣装を眺めた。青のチェックが二着、赤のチェックが一着。着る人のいない、Trickstarのユニット衣装だった。紅郎の手を借りながら、あんずが完成させたユニット衣装。まだ一度しか舞台で着られていないそれは新品同様で、それでもこの衣装を着てステージに立っていた四人を、なまえは忘れることができなかった。

「(一夜の夢だったなんて、思いたくないな)」

革命の第一歩。ステージに立って、自分の編曲した曲を歌った彼らを見て、またアイドルの曲が作りたいと希望をもらった。まだ、なにも始まってない。あきらめたくない。なまえはハンガーにかけられた赤の衣装を手に取ろうとする。すると、視界の外からなまえより一回り大きい、骨ばった手が伸びてきて、なまえより先に衣装を手にした。

「コレ、着られちゃ困る
 …俺のだからさ」
「真緒…!」

名前を呼ばれた赤毛の彼は眉を下げて待たせてごめんな、と言って笑った。