05

零の指導の下、Tricksterのメンバーは各々特訓を始めた。北斗は双子と、真は晃牙とともに。スバルはあんずを連れて校内を歩き回っているし、なまえはそんなメンバーたちのもとを転々としていた。
特に真の特訓は苛烈で、グランド五十周、腹筋腕立て百回、と立て続けにトレーニングが積みあがっていく。真はそんな過酷な特訓の合間に晃牙に話しかけていた。最初は恐る恐る話していたが、徐々に言葉を返してくれる晃牙に慣れ、特訓も終わりに差し掛かると雑談程度はできるようになっていた。

「それにしても意外だったな、転校生ちゃん以外にも女の子がいたなんて」
「あ?」
「ほら、なまえちゃんのこと」

真がなまえのことを話すと、晃牙は眉間にしわを寄せてあの可愛げのねえ女と呟いた。話題に上るのが少し嫌なようで声も少し低くなっていた。その声色に少しおびえるように真は晃牙の表情をうかがった。

「あー…あいつはどっちかっていうと忍び込んできただけだろ」

なまえは転校生のようにアイドル科にいることを認められていない。
本来アイドル科はほかの夢ノ咲内の学科とは交流があるわけではない。普通科や声楽科のある校舎とは行き来ができないし、同じ学院の生徒であっても厳格に分けられている。なまえの所属している音楽科は少し特殊で、生徒会の作った楽曲提供の仕組みを使うことでアイドル科との接点を持つことができる。だがそれもコンペや、アイドル側から音楽科へ直接依頼する、といった従来の形を取るものは少ない。現状の夢ノ咲では専用楽曲を音楽科の生徒が作るのは難しいのだ。

「無茶してるんだね、彼女」
「バカなんだよ」

そう言う晃牙は眉を顰めながらも柔らかくつぶやいた。何も嫌なわけではないのかもしれない、と思った真はまだ知り合って間もないなまえのことを考える。自分たちの曲を作ってくれる作曲家。無鉄砲で、無邪気で、どこかスバルに似ている彼女。きっとそこまで一生懸命になれるのは。

「それでも…好きなんだよ、たぶん。
 アイドルも、音楽も」
「…だからバカなんだよ」


自分の立場を危うくしていることを見ないふりをして、学院に歯向かって。現状を変えるためにルール違反を重ねている。いつかその跳ね返りが来るかもしれないというのに。晃牙のつぶやきに真は「何か言った?」と返す。ままならないものに苛立った晃牙はうるせぇと吐き捨てると特訓を再開させた。




漫才の特訓、お笑い芸人のネタ研究、双子のくすぐりに堪える。今までアイドルとしてのレッスンに慣れていた北斗は、違う方面からのアプローチに戸惑い、そのレッスン内容についていくのに精一杯になっていた。

「じゃっきゅうけーい!」

ひなたはそういうと喉乾いちゃったからジュース買いに行ってくるね!と部室を飛び出していく。ゆうたもそんな双子の兄に続くように、俺も行ってきます、と部室を後にした。二人がいなくなった軽音部の部室には、荒い北斗の呼吸が響いていた。なまえは練習の様子を見学していたが、軽音部の床に倒れこんだ北斗を見かねて声をかけた。

「お疲れ様、氷鷹くん」
「…ああ、ありがとう」

その手には少しぬるくなってしまったスポーツドリンクがあった。北斗はそれを手に取るとキャップを開けようとするが力が抜けてしまっていて開けるのに手こずった。

「こってり絞られてるね」
「ああ、二人とも奔放すぎる」
「確かに」

なまえは少し苦笑をして二人と初めて出会ったことを思い出した。なまえがアイドル科に侵入し始めたのは彼女が一年のころ。春を迎え、新入生としてひなたたちがアイドル科に入ってきてからの付き合いだった。

「ちょうど朔間先輩たちがいないときに初めて会ったんだ
だからひなたくんたちが双子って知らなくて」
「ああ…」
「葵くんが瞬間移動した、とかいろいろ驚かされたよ」

察した北斗はなまえに同情するような視線を送った。
ひなたとゆうたは揃えば無敵。コンビネーションも抜群でダンスのシンクロ率が高い。パフォーマンス力の高さは北斗の上を行っている。おそらく相手のことを理解し、なおかつ自分らしさを出す自由な動きがダンスなどにも表れているんだろう。

「軽音部はみな個性の塊のようなものだな」
「大神とかも結構クセが強いもんね」
「お前もな」
「え、私も⁉」

驚いたようになまえは大神ほどじゃないと思うんだけどなあと呟いた。北斗からしてみればあの濃いメンバーの中にいても全く引けを取らない個性的な少女に見えた。

アイドル科に乗り込んできた音楽科の女子。塀を乗り越え、木を登り。やっていることは小学生のようなやんちゃさなのだが、作る曲は繊細で優しく、ポップな明るさを持っていた。それにあの晃牙にかみつき返せる時点でクセが強い。

「作曲だけでなく編曲もできるそうだな」
「いろいろ勉強してるからね、プロになりたいから」
「自分たちの曲を作ってくれる作曲家がいる、というのは心強いことだ」

北斗はなまえから視線を外して笑ったが少し表情に曇りが出た。なまえはそんな北斗の様子が気になったようで「どうかした?」と声をかける。北斗は心配するなまえに一声返すが、少し考えると顔を上げて隣に座っていたなまえのほうへ体を向けた。

「お前は俺たちの仲間だ」
「え、あっありがとう…?」
「仲間だからこそ、言わなければ…」
「…うん?」

その言葉の意図をくみ取れないなまえは首をかしげる。北斗は言い辛そうになまえから視線を外すが、目を閉じて深く息を吸うとまっすぐとなまえを見据えて話し始めた。

「相談が、あるのだが」