07
翌日も秘密の抜け道を通ってアイドル科へ侵入したなまえ。いよいよ革命のためのレッスンも大詰めで、今日から全体練習が始まる。trickstarの最後のメンバーとの顔合わせもあり、用意していた楽曲をメンバーに聞いてもらう緊張の日となる。
Trickstarの持ち歌はたったの2曲しかない。そこから軽音部が趣味で作曲していた曲や、なまえの作った未発表曲の中から新規の楽曲を3曲選ぶ。そして北斗が依頼して作ってもらった新曲を加える。ある程度聞ける状態にもっていくためピックアップしてユニットの特色が出るようにアレンジをかけてある。どの曲が彼らの琴線に触れるかはわからない。まだまだ忙しくなりそうだが今日が一つの山場である。なまえは走り回って乱れた前髪を整えて零が押さえた練習室の戸を開けた。
「お疲れ様でー…あ」
「あ」
「失礼しましたァ‼」
とっさになまえはドアを勢いよく閉め、部屋の中から開けられないように力いっぱい引いた。部屋の中からはどんどんと扉をたたく音が聞こえる。何か声が聞こえるけれど防音室になっているせいか何を言っているかははっきりとわからなかった。混乱しているなまえの脳裏に、部屋にいた男の制服の襟もとについていた星形の生徒会の襟章が過る。このままではお縄を頂戴してしまう。すぐに逃げればよかったかもしれないが一度ドアを閉めてしまった以上相手が扉一枚隔てて向こう側にいる状態でドアから手を離すのはあまりに危険だ。
なまえは彼の仲間が近くにいないか周りを見渡す。すると廊下の曲がり角から人影が見えた。万事休す。手を放してイチかバチ逃げるか。思案していたが、廊下の角から現れたのはなまえにとって見慣れた人物だった。
「…なにしてるの…?」
「あっ遊木くん⁉ちょっと助けて‼」
「ほんっっっっとうに申し訳ありませんでした‼」
「いや大丈夫だって」
人のする土下座って初めて見たかも、と苦笑いする赤毛の彼は生徒会の役員であり、trickstarの最後の一人、衣更真緒だ。てっきり生徒会の監査か何かと思っていたなまえはドアを開けた瞬間にそこにいた生徒会役員に驚き閉めてしまった。真が来なければどうなっていたことか。なまえは地面に額をこすりつけながら土下座をして謝った。まだ顔を合わせていなかったが彼もtrickstarのメンバーで革命を共にする仲間だ。
「俺は衣更真緒、アイドル科の二年B組だ。」
「みょうじなまえです、音楽科の作曲専攻してます。」
「北斗たちから聞いてる、俺たちの曲の用意してくれてるんだってな」
ありがとな、と真緒はなまえに手を差し伸べた。申し訳なさで表情が曇っていたなまえは真緒の優しい表情を見ると少し安心したのか力の抜けた顔で笑ってその手を取った。
「今からレッスン室の清掃をしながら曲の選別をしようと思うんだが」
「データは遊木くんに送ってるからそこから選んでくれて大丈夫だよ」
「ありがとう、では皆気に入ったものが見つかればその都度言ってくれ」
用意した曲はかなりある。この中から彼らにあった曲が見つかればいいのだけれど。
なまえも練習室の床を拭きながら自分の作った曲を聴いていた。ランダムに流れてくる曲の中には軽音部が作曲した曲も含まれていて、それもなまえがtrickstarに合うよう編曲しなおしていた。すべて聞き覚えのある、愛着のある曲たちだった。
「これさ!全部メドレーとかで歌いたいよね!」
「三曲程度と言っているだろう」
「だってだってさ、全部いい曲なんだもん‼」
思わずなまえの手が止まる。誰かに、自分の作った曲を聴いてもらって、ほめてもらったのはいつぶりなのだろう。「これもよかったし、二つ前のやつもノリがよくて〜」そう言いながら掃除はそっちのけでスバルは即興でダンスのステップを踏む。衣装はまだ完成していない。曲の歌詞だってちゃんと決まっていないのに。なまえにはスバルがもうステージにたって歌うアイドルに見えて。
ぐっと胸にこみあげてくるものを押さえつけて、なまえはスバルに話しかけた。
「ある程度は編曲して、メドレーにもできると思うよ」
「ほんと!?さすがあだな〜!」
「えっあだな?」
スバルは喜びのあまりなまえに飛びつく。やってやってと子供のようになまえに抱きついてくる。こらこらと真緒がスバルをなんとか引き離そうとするが思いのほか力が強くて離れてくれない。だがそんなことよりも、なまえは急に聞きなれない呼び名を聞いたことに驚いていた。聞き返してきたなまえにスバルはきょとんとして「そう!あだ名だよ」と抱きしめていた手をあっさり放してそう言った。
「だってせっかく仲間になったんだもん
あだなももっと俺らのこと気軽に呼んでほしいなあ」
「確かに、なまえの今の様子はどこかよそよそしさを感じるな」
「え、そうかな」
「そうだよ〜!
もっとガミさんとか、軽音部の双子ちゃん呼ぶときみたいに気軽にさ!」
うんうん、と真もスバルの言葉に頷く。北斗も真緒も無理強いはしないけれど呼び方を変えることに異論はないらしい。えっと、と四人からの視線を感じてなまえは戸惑った。少し緊張で声が上擦る。えっと、と一人一人ユニットの仲間の顔を見て名前を呼びなおす。
「明星…?」
「うんうん!」
「ひ、だか…うーん……北斗?」
「ああ」
「…真緒!」
「うんうんその調子」
「えっと、……ウッキー」
「僕だけあだ名⁈」
どんどんおさるさんみたいなあだ名が定着していっちゃう〜と真は嘆いていたがどこか嬉しそうだった。スバルはなまえの肩を組んでこれでぐぐっと近づいたね!と嬉しそうに笑った。
最初は学院を変えるために組むことになった。それでも、目的が同じで、一緒に同じゴールを目指して歩いて行けるのなら。肩組んで、笑いあって、一緒に一つのものを完成させようとする。
「(仲間って、きっとこういう感じなんだろうな)」
今まで、出会ったことのなかった仲間というものに触れて、なまえはどこかそれがむず痒く、また心地いいものに感じた。今まで音楽科や、コンクールで感じていた刺すような鋭い視線がない。自分の音楽を歌ってくれようとする人がいる。だからこそ、絶対に勝たなくては、と強くなまえは思うのだ。