08
Trickstarの歌う楽曲を決めて、本格的に編曲をする。最初に持ち歌を一曲。各自ユニットメンバーが立つ曲を四曲、メドレー形式でつなげて、最後に新曲を披露する構成だ。新曲の編曲も北斗の知り合いの作曲家から許可をもらって、メドレーから違和感のないようにアレンジすることができた。
零たちと本番の打ち合わせをして帰ってきたなまえは、軽音部の部室に戻り、晃牙達を見つけると胸を張って言った。
「というわけで、現場監督することになりました!」
「体よく言ったな」
「現場‼監督‼」
「なにかすごい役職のように思えるが」
「そう‼いいところに気付いてくれたアドニスくん」
きみは見込みがあるよ、となまえは軽音部のパイプ椅子に座って話を聞いていた褐色の肌の男の頭を撫でた。座っているというのに座高もそこそこあるから少し手を伸ばさなければいけない。アドニスくん、と呼ばれた彼は乙狩アドニス。晃牙のユニットの仲間、夢ノ咲学院のアイドルである。体格がよく、表情に乏しいため怖がられることも多い彼だが、小さい生き物を守る心優しい青年だ。
なまえも最初彼と対面した時には彼の身長の高さに驚いていたが、話してみると素直ですぐ打ち解けることができた。
晃牙が所属しているアイドルユニット、UNDEADはリーダーを軽音部の主、朔間零が務めている。メンバーは四人で、晃牙やアドニスのほかにあと一人メンバーがいる。彼は気分屋で練習にもめったに来ない問題児である。軽音部所属のメンバーが多いこともあって練習は部屋を借りるよりも軽音部の部室で行われることが多い。軽音部によく出入りしているなまえも最後のメンバーに会ったことはまだない。
「作戦をうまく運ぶために観客を誘導しないといけないしね」
「ハッ言い換えりゃサクラじゃねーか」
「現場監督だから‼」
「うっせーよ‼まだ言うか」
まあでも、となまえは自分用に持ち込んでいる折り畳みテーブルに突っ伏してつづけた。
「作曲家なんて実際曲作っちゃえばあとは部外者みたいなものだし」
「む、そういうものなのか」
「まあ、音楽プロデューサーとか、全体の取り仕切りに深くかかわってる人とかは別だろうけど」
それでも今の夢ノ咲では音楽科の生徒がアイドル科のライブに深くかかわることは難しいのだ。それを変えるために戦っているのだから、いまはあえてそのシステムを甘んじて受け入れなければならない。
「とりあえず今回は現場の反応見て次回に生かすつもり」
「次回なんてあんのかよ」
「朔間先輩の作戦もあるし!Trickstarなら大丈夫!絶対!」
「そーかよ、まあ吸血鬼ヤロ〜はそこんところ抜かりないからな」
「なんで大神が得意げなの」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らした晃牙を見てなまえは苦笑いをする。晃牙と零の関係は複雑で、それでも晃牙が零のことを慕っているのは言葉の節々からもよく分かった。彼の素直でない性格が出ているというか。
雑談をしていると軽音部のドアが開かれる。零の居城であることからここには生徒会の人間はほぼ訪れない。完全に気を抜いていたなまえは入ってきた男の少し高めの声に驚いた。
「あーっ!やっと会えた〜!」
「え」
「君が音楽科から来た子だね!
朔間さんに聞いたときはまた俺を呼び出すための嘘かなとか思ってたんだけど」
ほんとだったんだね、とその金色の長髪の男はなまえの手を取ってにっこりとほほ笑んだ。その男の後ろではやれやれと言った表情で零がため息をついている。零から話を聞いている、ということは。
「てめーこのスケコマシ
女だからって誰彼構わずナンパしてんじゃねーよ」
「あっもしかしてわんちゃんの彼女?
ごめんね〜これから俺が口説いちゃうから」
「違ェよ!そいつ猛獣みてーな女だから口説く時間が無駄だぞ」
「なに初対面の人に失礼な紹介してんの⁈
えっと、もしかして羽風さん、ですか」
「え、そうだけど」
俺のファンだったかあ、という男になまえはきっぱりと違います、と答えた。
UNDEADというユニットは一年前の夏に結成された。校内のドリフェスに頻繁に参加しているわけではなかったが、あの学院の特異点ともいえる五奇人の一人、朔間零のユニットということもあって話題になった。当時話題にもなったあの朔間零と二枚看板を張る男、それが今なまえの目の前にいる羽風薫というと男なのだ。
「まあいいや、これからも〜っと仲良くなろうね!」
「はあ…」
「羽風先輩、通しの練習が足りない
付き合ってほしいのだが」
「そうだ!てめーが来ねぇおかげでパートも穴だらけなんだよ!」
なまえの手を握っていた薫だったが後輩たちに言われてしぶしぶとその手を放し、練習に無理に参加させられていく。最低限の打ち合わせでステージに立つ彼らの胆力はすごいものだけれど、付き合わされる晃牙やアドニスからするとたまったものではないのかもしれない。時に怒鳴りながら当日の打ち合わせをする晃牙達を眺めていると、薫の後ろに控えていた零がなまえに声をかけた。
「いよいよじゃの」
「はい」
「お主や皆の努力、報われるはずじゃ」
「絶対、大丈夫…ですもんね!」
なまえはそう言って零を振り返った。たくさんの人が、Trickstarの革命に力を貸してくれている。今を変えたくて歩き出した彼らに、続こうとしている。きっとこの革命の一戦が、学院を、アイドルを変えてくれる。そう信じて、明日のドリフェスに挑む。なまえは胸に手を当てて、深く息を吸った。流れる旋律はもう形になっている。大丈夫。そう言いきかせた。