あまいゆめ

「あ、あっ……せんぱい、せんぱ……ん、う……ッ」
「弥智、可愛い……もっと聞かせて、その声」
「や……っ、恥ずかし……んンっ、あ……っ」
 先輩が腰を動かす度、俺の口から女みたいな甘ったるい声が漏れる。声を抑えようと両手で口元を覆うが、先輩は俺の両手を「だーめ」とそこから剥がし、そのまま強引にベッドに押し付けた。そして穏やかな顔をして意地が悪い先輩はぐちゅ、と前立腺を刺激するものだから、俺はついびくんと身体を跳ねさせる。うう、恥ずかしい。恥ずかしいけど、でも、それ以上に気持ちよくて、何だか頭が溶けちゃいそうだった。ギシ、とベッドが揺れる。
「ああっ、ん、そこ……っ」
「ここ好き?」
「すき、せんぱ……好き……ッ、あう……んっ」
「はは、そういう意味で聞いたんじゃねえんだけどな……」
 もう先輩が何を言っているのか分からない。俺は子供のように泣きじゃくりながら、「すき、すき」と何度も繰り返す。好きだ。先輩が、好き。それ以外の言葉を忘れてしまったかのように、何度も何度もそう告げる。なんで早く素直にならなかったんだろう。こんなに幸せな気持ちになれるんだったら、早く応えてしまえばよかった。先輩の温かい体温が掴まれている手首から伝わってきて、どうしようもない気持ちになる。触れていたい。近付きたい。いっそ、一つになってしまいたい。ぼんやりとした頭のまま、俺は「きす、したい」と口パクで先輩に伝える。好き。好き。自分がこんな重たい気持ちを持っているだなんて、知らなかった。
「弥智……っ」
「せん、ぱ……んん……っ!」
 先輩が俺の名前を呼んで唇を塞いだ瞬間ぶわりと胸の奥から愛しい気持ちが湧き上がってきて、これ以上この気持ちが重たくなったら潰れちゃいそうだな。そう、ぼんやり思った。そして――

「――うわっ!」
 勢いよく起き上がる。窓から差し込む太陽の光と、ばさりと布団が翻る音。え、えっと、なんだこれ。息を切らしながら状況を把握するために周りを見渡す。白い壁。茶色のカーテン。教科書が入っている本棚。……自分の部屋だ。
「ゆ、夢……?」
 やけにリアルな夢だった。夢から覚めた今でも未だに先輩の熱を覚えている。愛を囁く甘い声も、キスの感触も、自分の気持ちの昂ぶりも。自分の唇に触れながら、ぼうっと夢の内容を思い出していく。あんなに幸せな夢は初めて見た。愛しくて愛しくて仕方がないという気持ちと、それに先輩が応えてその分返してくれる夢。溢れるくらい好きだと身体で伝えられて、この幸せな気持ちのまま死んじゃいたいと思った。夢でもこんな気持ちになるのに、実際に先輩と付き合ったらどうなるんだろう。先輩と付き合って、本当にセックスなんてしたら……
「……いや。いやいや」
 なんてそんなことを考えている場合じゃない! 俺はそれ以上に重要なことを思い出して、俺は時計を見るよりも先に布団を捲って下着を確認した。……ぬ、濡れてない。勃ってはいるけど、出してはいない。危なかった。セーフ。あの夢で夢精でもしてたら罪悪感で学校に行けなかった。
「さ、最悪だ……」
 というか、何でまだ告白もされてないのに先輩とえ、えっちする夢見てるの、俺……段階すっ飛ばしすぎじゃないか……? しかもこれがただの夢ならいいが、多分これも予知夢だ。先輩に告白される夢じゃなかったってことは、俺は将来先輩の告白に応えることになるのだろうか。うう、もうやだ。それでもいいかもしれないとか思い始めてるからだめだ。だめ。無理。先輩の気持ちには応えられない。応えたくない。あの立ち位置は、俺じゃない方がいい。そう、分かっているのに。
「はあ……」
 その前にこれ、何とかしないとなあ。大きな溜め息を付いて、俺は下着の中へ手を差し込む。おかずは、やっぱり先輩との行為だった。

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