略奪者の待望
桃一族と鬼一族の因縁
始まりは860年。本島で暮らす河西茂吉とその妻お津奈の間に生まれた一代目桃太郎である「河西桃弥」(以下一代目桃太郎)が、当時鬼ヶ島を統治していた紅鬼を倒した事件がきっかけである。
桃太郎が鬼ヶ島を襲った理由はいまだ不明とされており、文献には農作物の栽培方法を教えた報酬として本島の住民から受け取った120両相当の財宝を、鬼たちによって奪われたものと勘違いをしたため襲ったのではないかと記されている。当時から本島の住人の中には鬼一族を異形成物であるというだけで毛嫌いしているものも少なくはないようで、そういう人物らからの情報に桃太郎は踊らされたのであろうと推測されている。
以上 子鬼学校6年生の歴史教科書より抜粋
略奪者の待望
「もうそんな時期か」
水平線を眺めながら俺はため息をついた。
この水平線の彼方にある島で桃太郎が生まれたのは数年前。桃一族の成長速度を考えると立派な青年になるまでには十分すぎる時間だ。
「おせぇんだよ」
俺は早く桃太郎と戦いたかった。鮮やかな色を纏う果実から生まれ、普通の人間の数十倍も早い速度で成長し、島の猛獣を手なずけ、圧倒的な武力で数多くの屈強な鬼を叩きのめす生物兵器。文献を読み漁るうちに俺は桃太郎という存在に惹かれていた。
ー早く・・・早く戦いたい
早くその伝説とも呼ばれる力をこの目で・・・この体で確かめたい。
鬼ヶ島の長老たちの中には子供の内に奇襲をかけて倒してしまえという声もあった。でもそれでは意味がない。それにそれこそ鬼のプライドというものがないだろう。まったく爺さんたちの言うことはロマンがない。昔話に怯えるだけで向上心ってもんがないんだから。それだから桃一族に負け続けの一途を辿っているんだよ。
ぬるい海風がビューっと吹き抜けて砂浜の砂が粒子になって飛んでいく。
「にしても・・・遅いな」
今朝出発したんじゃなかったか?
空を見上げると日が真上を通り越してもはや傾きかけてしまっている。
「ちゃんと鬼ヶ島行きの船は港に配置しているはずなんだが」
その乗組員からも連絡がない。これは道すがら草を食っているに違いない。
「俺は佐々木小次郎ではないんでな、島でずっと待ちぼうけをするような鬼じゃないんだよ」
誰もいない砂浜に響く声で高笑いをしてから、俺はこんなこともあろうかと用意しておいた予備の船に乗り込んだ。操縦はもちろん自分でだ。このために小型船舶免許も取ったしな。
「さぁて、最初はどんな感じで登場してやろうか・・・油断させるためにラフな感じで『いつまで経っても来ないからこっちから来ちゃったよ』みたいな感じで行くのもありだな」
そんなシミュレーションをしながらウキウキで船を操縦する俺が惨劇を目の当たりにするのは、もう少し先のお話・・・。
(暗転)
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