場地圭介の姉は弟の留年の事実により爆笑してタンスの角で頭を打ち、前世の記憶を思い出した。そして同時に何か変なものが見えるようになった。その場で叫んで弟が救急車を呼ぼうとして姉の携帯で111にかけた。どこにも繋がらなかった。姉は笑いすぎて倒れた。
その後、姉は気付けば呪術高専と言うところに編入していた。そこの学長だという人に呪術がとうとか呪霊がとうとか術式がどうとか長々説明された。あまりにも長いのでもう少し頭を良くして要領よく話してくれと頼むと泣かれてしまった。近くに控えていた顔の怖い人に怒られた。姉は空気が読めるので学長をヨシヨシした。疲れていた学長はおぎゃった。
それから姉は術式というものを使って呪霊を祓う任務を沢山請け負った。可愛い巫女さん衣装の先輩からは任務を詰めすぎだと言われたが、姉は任務がただただ楽しかった。戦う自分がかっこよかったからだ。姉は天才ゆえに強かったので1級呪霊と戦っても余裕で勝てた。ちなみに姉、未だに呪霊の等級という概念を知らなかった。どんな等級でも勝てるからだ。
姉の術式は風を操るものだ。それは攻防どちらにも使えるし飛ぶこともできるオールマイティな術式なのだが姉はもっと絵面のカッコ良さを求め、さらに繊細な呪力操作により酸素濃度まで操ることができるようになった。高専入学後1年経たずに拡張術式を覚えたのだ。
それを使いジッポの火を元にして、まるで炎を纏っているように見せかけながら戦った。とてつもなく熱かったが雰囲気とカッコ良さが優先された。学長は姉の術式が炎系だと勘違いした。でも炎は呪力を纏わないので炎で呪霊は祓えなかった。
姉はどんどんカッコ良さを求め刀を使ったり結界術を極めたり、更には反転術式まで覚えてしまった。学長は意味が分からなさすぎて泣いた。歌姫は現実を見るのをやめた。姉は何においても天才だったのだ。
そんな姉を利用しようとしたり、邪魔だと思った上層部に色々されたが姉は天才だったので全て返り討ちにした。姉は後ろ盾がなくても強かった。
姉が2年に進級するとイイトコの坊ちゃんとヤンキーと美人が後輩になった。姉は坊ちゃんに絡まれたので顔面をグーで殴った。姉のパンチは素早いので将来最強と呼ばれる坊ちゃんでも避けられなかった。そもそもからかいに行って秒で顔面にグーパンを決められるとは思わなかったのだ。
坊ちゃんの隣にいたヤンキーは性格が悪そうだったがどこか見覚えのある前髪をしていたのでヨシヨシして飴ちゃんをあげた。姉はドラゴンの刺青を入れた弟の友達のことを前髪と認識していた。
ある肌寒くなって来た日のことだ。怪奇現象が起こると噂されているとある廃車場に向かった。窓の報告により呪霊がいることは確かなようだ。おそらく廃車場というより車についているのではないかというのが補助監督の推測だ。
補助監督の運転する車に乗りその廃車場に付くと何故か人が沢山いて殴り合いの喧嘩をしていた。呪霊は確かにいて、補助監督は警察を呼ぼうとしたが急ぎの案件ではないため姉がとめた。
しかしいつ終わるか分からないので補助監督と一緒に近くのビルの屋上から見守ることにした。
姉は屋上のヘリに片膝を立てて座った。傍には補助監督が控えていてこれ凄いそれらしくね?と思った。姉は雰囲気を重要視していた。
上から見ている姉は視力がいいので黒い服の中に見知った顔を複数発見した。そういえば最近見たような前髪も居る。姉は天才なので弟の所属するチームだと言うことに気づいた。
では弟はどこだろうと見渡すが黒服の中にそれらしき姿はない。はて、と姉は思った。弟からはチームをやめたなんて聞いていないからだ。弟は高専の寮に入り滅多に帰って来なくなった姉に毎日メールで一日の出来事を送っていたからチームを辞めるなんてことになれば絶対姉に報告するはずなのだ。ちなみにそのメールは漢字の誤字が多かったため毎回添削されて弟に返ってきていた。
姉はまたはて、と首を傾げた。
弟をやっと見つけたと思ったら黒ではなく白い服を着ていたからだ。ハロウィンだからコスプレをしているのだと思った。姉はチームのアレコレのこともこの抗争のこともよくわかっていなかった。
何もわからないまま弟がタックルされたり背中を刺されたり倒れたりするのを姉はヤンチャだなぁと思いながら見ていた。あの程度の怪我なら姉は簡単に治せるからだ。姉の怪我の基準は呪術師だった。しかし立ち上がった弟がナイフを持って自分の腹を自分で刺そうとしたのを見て姉は激怒した。喧嘩はしてもいいけど刃物は人に向けちゃいけませんと口すっぱく教えてきたからだ。弟は馬鹿だがちゃんとそれを覚えていた。でも自分はノーカンだと思っていた。
しかし姉は天才なのでこの距離でも術式を使って正確にナイフを弾き飛ばした。姉は激怒しているので弟を叱るめに立ち上がったが、突然呪霊の気配が大きくなった。
先程の喧嘩による負の感情の爆発で一気に力を付けた呪霊、さらに運の悪いことにそれは姉がここに来るよりずっと前に宿儺の指という最強の増強剤を取り込んでいた。廃車場の囲いという線を使って領域を展開する呪霊。
補助監督の驚く声を聞く前に姉は竹刀袋から刀を取り出し腰にさしてから飛んだ。完全に領域が廃車場を覆い隠す前にその中に滑り込んだ。
そのには広く大きい空間があり、何かの巣穴のように壁に穴が沢山空いていた。はぐれた人間はいなさそうで、早く終わらせてハロウィン限定スイーツを食べたかった姉はラッキーだと思った。
「姉貴…!?なん、」
突然の姉の登場に狼狽える弟言葉の途中で顔面を殴り飛ばされた。姉には良識も理性もあったので素のパンンチである。
「お姉ちゃんの真っ当な教えを覚えてないバカはどこのバカだ??」
それだとただのバカである。しかし弟は反抗できないほどにバカだった。
「ちょ、え!?場地さんのお姉さん!?」
「大丈夫ですか場地さん!!」
「え!?どっから!!?」
「怪我人だぞコラ!」
「怪我…?弟がどこに怪我していると?」
「…は?」
「あ゛?」
弟が違和感を感じ服を捲るとそこにあったはずの傷は消え、残っているのは怪我していた証である流れた血だけだった。姉は天才なので殴ると同時に反転術式を施していた。
仲間のピンチに駆けつけて反転術式で助けるのかっこいいよな、と思って習得したものだった。
姉は二度手を叩いて自分に視線を集めた。
「喧嘩は終わりだ。死にたくなければ一塊になって大人しくしていろ。」
言い回しが反社のそれである。
「場地の…ねーちゃん?」
「…マイキーか。あんまりヤンチャしすぎるなよ。」
マイキーは一虎を殴り殺そうとしていたのでやんちゃの範疇を超えていたが姉のその辺の判定も呪術師基準だった。そして弟の友達には甘かった。弟の友達を順番にヨシヨシした。
この異様な空間の中で姉だけが呑気だった。
しかし忘れてはいけない。ここは特級相当の呪霊がつくりだした領域内である。未完成の領域だとしてもここに安全な場所はない。
ソレは突然姉の背後にあらわれた。姉はかっこよく抜刀してそのまま背後の呪霊に振り抜いた。
軽々避けて気持ち悪く笑う褌を履いた呪霊を、この場にいるほとんどの非術師も視認していた。こういう場合非術師でも呪霊の姿が見えることがよくあるのだ。
騒然とする非術師の中で、姉はあの呪霊にかっこよく勝ってもかっこよく見えないだろうという重大な問題にぶち当たっていた。褌一丁だからだ。
姉はどうすればかっこよく勝てるのか考えながら片手間に呪霊の相手をしていた。
しかしさすが特級、狡猾さも特級だった。非術師に呪力の塊を飛ばしたのだ。もちろん姉は術式で弾き飛ばしたが、その瞬間に呪霊の拳が面前に迫る。刀でガードしたが拳の威力に折れてしまい、体ごと吹き飛ばされた。姉の持っていた刀は見た目重視で選んだ3級の呪具だった。学長に勧められた1級の呪具はかっこよくないからクーリングオフしたのだ。
姉は激怒した。姉が一日に2度も激怒するのは珍しいが、褌一丁の呪霊に殴り飛ばされたのだ。かっこよくない。姉にはそれなりにプライドがあった。
壁を突破った姉の体は瓦礫の破片やら砂埃やらで意図せずカッコイイ雰囲気だったが怒っていたから気付かなかった。
ブチ切れた姉はゆっくり足音を立てながら呪霊に近づいていく。姉をやられて怒って呪霊に殴りかかろうとしていた弟は足を止めた。昔ブチ切れた姉にボコボコにされたことがあったからだ。
「おまえ……楽に死ねると思うなよ。」
姉の瞳孔が開いたのを見て弟は死を覚悟したが、拳を受けたのはもちろん褌の呪霊だった。
姉の全力の拳を受けた呪霊は地面の分厚いコンクリートを突き破って空洞になっていた下の暗い空間に落ちていく。それを冷めた目で見つめる姉は両手でそっと印を結んだ。
「領域展開。」
ちなみに姉、まだ教えを受けていないため領域なんてもの知らなかった。しかしカッコ良さをひたすら追及していく中で、その至高の領域にまで辿り着いてしまったのだ。姉は天才だった。
高専はおそらく1番スカウトしてはいけない人間をスカウトした。
姉の作り出した領域が呪霊の領域を侵食していく。そして気づいた時には呪霊の頭が姉の手の上に乗っていた。
「もう少しじっくり痛ぶろうと思ったが、ずいぶん弱かったな。興醒めだ。」
呪術師というよりほぼ宿儺である。手の中の頭を術式で切り刻んで汚いと言いながら手を払った。非術師からしたらトラウマものの絵面である。弟は半泣きだしタケミっちは号泣している。他にもちらほら泣いている不良たち。
姉が領域を解除すると、景色が一気に元いた廃車場に変わった。何人かはチビった。
「オイ…何だったんだよ、コレ。」
最近よく見る前髪を持つ弟の友達だ。
「…死にたくなければこっちへの一線は超えないことだ。お前たちはただ見栄はって、カッコつけて、喧嘩して、仲間と笑ってればいい。」
これは言い訳を放棄した姉の図である。面倒だし早く帰りたかったのだ。そしてスイーツを食べたかった。
「全員、今日ここであったことは忘れろ。」
姉は術式を使って強めの風を起こし、周りがその風を目をつぶって防いだのを確認して補助監督の待つ屋上まで飛んだ。目を開いた彼らからすれば突然居なくなったように見えるだろう。姉はコレが1度やってみたかったのだ。
「終わった。スイーツを食べて帰ろう。」
「流石です場地さん。領域を使ったということは特級相当、それを1人で祓えるなんて。」
姉はスイーツに頭が持っていかれていたので呪術師の専門用語って難しいな〜と思うだけだった。
その後補助監督と一緒にスイーツを食べる姉の携帯には弟とその友達から凄まじい量の着信があったがイタズラ電話だろうと思って出なかった。
翌日にやっと電話に出ると弟に怒鳴られたので「は?」という一言で黙らせた。弟は姉に弱かった。
坊ちゃんとの任務中だったので「ヤンキーじゃん。」と笑われ姉のノーモーション裏拳を食らうことになった。綺麗に鼻血を出した坊ちゃんは同級生2人に笑われた。
姉は知らなかった。
今後任務に行くたびトーマンやあの時外野にいた不良に絡まれるなんて。そして頻繁に不良に絡まれる姉を見て坊ちゃんにめちゃくちゃ笑われるなんて。
ちなみに坊ちゃんは笑う度姉の拳を顔面に受けるので裏でドMと呼ばれるようになる。