場地姉は多分番外編でもポンコツであるB

【稀咲日記の話】


姉が拾ってきたペットたちのおかげで元々狭かった団地が更に狭くなり、姉がこっそりだが着実に用意していた一軒家に家族で引越ししようということになった。弟の学校のことも考えて団地からは徒歩でも十分歩ける距離だったが千冬は泣いた。
ちなみにこの一軒家、姉が全て諸々の金は一括で支払った。姉は金を作る天才では無かったがただの天才だった。
未来を知っている姉はお小遣いを貯めてそれで株を始めて大儲けした。おかげで学生時代も大量に儲けることができ、一軒家も買えた。母は天才だとはやし立てた。弟はバイクを強請ってジャーマンスープレックスをきめられた。

そして引越しするにあたって姉と母は下見があるからと荷物の詰め込み作業を弟に任せて朝早くから家を出て行ってしまった。
作業を手伝ったらバイクを買うか考えると言われた弟はのんびりするペットたちを横目に、嫌々ながらダンボールにしばらく使いそうにない物を詰め込んでいた。

「…あん?何だコレ。」

それは1冊のノートだった。表紙には12年後の君へと書かれている。
何で12年後なのかと何気なくノートを広げた弟は、今後パンドラの箱は絶対に開けてはならないを教訓に生きることとなる。




----年--月--日
今日を去った彼へ送る。

1ページ目にはたったそれだけ。姉の字で書かれていた。
好奇心で次のページを捲る。

直ぐに閉じた。
自分の頭がおかしくなったのかと学校スタイルで髪を七三に分けて結んでメガネを掛けた。稀咲にバカにされて半間と殴り合いになった。ワンコにドーはド突くのドーをされた。



----年--月--日
06:00起床
06:03お手洗い
06:07着替え
…………
……
07:45登校
以降行動が不明。
今後は報酬を与えて誰かに校内での様子を視察してもらうことにする。
……

16:40帰宅
…………
……



----年--月--日
分刻みの行動把握は非効率なため普段と違った行動をした時のみそれを綴ることにする。
本日の一番怪しい学校での時間はこけし君に観察を頼むことにした。1度は断られたが責任感の強い彼はしっかり仕事をこなしてくれた。報告の限りでは不審な動きはない。
報酬はアソート菓子を大量に買ってきて皆で楽しく食べた。
……………
………




弟は漢字と難しい日本語の羅列が並ぶほぼ読めないそれをノートをそっと閉じた。

もう一度開いてページをペラペラめくるが、読める部分だけ読み込むとどれもこれもまるで姉がストーカーになったかのような内容しか書かれていない。あと時折小さく可愛いと書いてある。タケミっちの事情を知らない弟からすればただの恐怖である。そっとノートを元あった場所に戻した。

弟は現実逃避を覚えた。

暫くすると姉も母も帰ってきて全員で昼食を食べて引越しのことを話し合って夜布団に潜り込んだ弟の目はパッチリ冴え渡っていた。ノートの内容がずっと頭をグルグルしているのだ。うんうん唸り続けてこいこいにうるさいと顔面にかかと落としを決められて喧嘩になってワンコと姉にぶん殴られた。

日記の内容が内容なため千冬にも相談できず、数日間唸りながら考えた。半間に発情期の猫みたいな声やめろと言われて喧嘩になった。怒った姉が持ち出した特服と漂白剤を見て弟は必死に謝った。


そしてもやもやを抱えたまま迎えた引越し前日。
弟は深夜に姉の部屋を漁っていた。人数が増えて日替わりで寝る場所が変わるこの家で、今日姉の部屋には弟と稀咲とこいこいと泊まりに来たこけし君が雑魚寝している。
周りを起こさないよう慎重に目的のものを引っ張り出し、半間の使い捨てライターと例の日記を持って団地の階段を下る。できるだけ目立たない影になった場所で片手にノート、もう片手にライターを持って1度生唾を飲み込んだ。
コレはたとえ呪いのノートでもあの姉の私物である。燃やしたことがバレてしまえば自分は恐らくバイクに括り付けられて高速を疾走することになるだろうと予想出来た。
弟はもう一度ゴクリ、と生唾を飲んでライターを点火した。
揺らめく淡い光をノートの角に持っていけば、徐々に煤が付き次いで小さい火がどんどん大きくなっていく。とうとう熱が手元にまでやってきて、コンクリートの上にノートを落とす。
火が大きくなっていくそれに弟の心は罪悪感と開放感と恐怖でごちゃ混ぜになり、ノートが燃え尽きる頃には達成感で髪をかきあげ真夜中であることも忘れ高笑いした。







「悪い子だ──れだ。」


肩に置かれた手に、弟の額からは汗が吹き出てきた。体が硬直して喉の奥がきゅうっと縮こまった。

「お姉ちゃんの私物で真夜中にキャンプファイヤーしてる悪い子…だ──れだ。」

先程より1段低い声。
ライターを持つ手が震えて答えることも振り向くことも出来ないでいると、肩に置かれた手に力が入って無理やり体を反転させられた。
弟の目の前には瞳孔が開いて目が真っ黒になった姉が立っていた。情けない声を上げて腰を抜かした。

「ねえ、圭介?」

姉に詰められた弟は逃げることも出来ず、半泣きで千冬の名前を叫んだ。

部屋着で駆け付けた忠犬に助けられた弟は姉の慈悲により朝まで団地に生えている木に磔の刑だけで許された。忠犬は弟の傍に控えてペケJも添えて一夜を共にした。朝降ろされた弟は即座に土下座して謝ったがそれはそれとして日記を辞める辞めないの押し問答をして姉弟喧嘩して姉が勝ったが弟が2度目の土下座をするので仕方なく日記をつけるのをやめた。
弟は泣いた。
千冬も泣いた。
ペケJも鳴いた。






【聖夜決戦に場地姉がいたら】

ザグリ。
積もった雪にブーツの底が沈み込む。
吹き抜ける風が頬に刺さり巻いていたマフラーに顔を埋め込んだ。

「は…?」
「おいあれ灰谷兄弟じゃ…。」
「嘘だろじゃああの女!」

とある渋谷の教会。その前に整列する男たちが私たちを見てザワザワし始めた。

「うわ黒龍じゃーん。」
「柴大寿いなくね?」
「中だろ。」
「そっか。…ボスどーする?ここで遊んでく?」
「コイツらに用事はない。」
「りょーかい。」
「じゃあこっちでテキトーに片付けとくわ。」
「そうか。」

そうなのだ。この姉、別に黒龍を潰しに来たわけではない。
まず弟はバカなことに教科書を学校に忘れてきた。暫く学校が休みにもかかわらずだ。そして出された学校からの宿題と姉からの課題に心が折れてペケJを吸いたいと駄々をこねたため家にいない千冬を姉が探しにきたのだ。
姉はグッドルッキングガイに無理やり連れ出されていたため2人を使い千冬を探し出しここまでやってきたのだ。次いでに千冬と一緒にいるらしいタケミっちをマイキーが探していたのでメールで場所を伝えておいた。

喧嘩をしにきたわけではないのに何故か喧嘩をする流れになってしまったので姉は眉をキリッとさせ、長めのコートをかっこよく手で翻し暴れるグッドルッキングガイを横目に教会の扉を開け放った。




カツン。

教会にヒール音が響く。

カツン。

喧嘩をしていた男たちの視線が集まる。

カツン。

「メリークリスマス。」
「場地さん!?」

タケミっちが驚きの声を上げた。

「アイツ…野グ〇女!」
「イヌピーそれだとあの女が野〇ソしたみたいになる!」

野グ〇事件の時実は近くにいた柚葉と八戒が吹き出した。

「…まだ取り込み中か?」
「ア?…アンノウン総長か。」

姉がもう一歩踏み出すと同時にワンコが拳を振るう。前回姉にやられているので速攻で潰しにかかったのだ。東卍メンバーが危ないと叫ぶ。
しかし姉は動じることなく拳をいなし体勢が崩れたところを勢いをそのままに投げ飛ばした。大寿の巨体が宙を舞うのをその場にいる全員が口を開けて食い入るように見つめる。受け身は取っているもののなすすべもなく地面に叩きつけられ呻き声をあげるワンコ。

「嘘だろ…あの大寿を投げた!?」
「ゴリラかよ…。」
「すまん、邪魔したか?」
「い、いえ……助かりました…?」
「そうか。ならいい。」
「…! 後ろ!!」

千冬が声を上げた。
姉の背後では再び拳を振り上げた大寿。届かないと分かっていながら三ツ谷は咄嗟に手を伸ばす。
しかし姉はそれを嘲笑うかのように背後を見ることもなく拳を避けてワンコの顔面に回し蹴りをキメた。今度こそ本当に倒れる大寿。全員が驚きの声をあげた。

「圭介が千冬を呼べとうるさくてな。電話にも出ないみたいだから直接呼びにきた。」
「え、マジっすか!?すいません!」
「待てやコラァあ!!」

白ワンコに肩を支えられたワンコが吠える。そして黒ワンコに外の兵を連れてこいと命じた。そういえば外でヤンチャ小僧たちが暴れているはずだがどうなったのかと姉は思った。

「ボス……オレらの負けだ。」

外を見に行くために扉を開いた黒ワンコは呆然とした。

「ボストーマン居たー?。」
「こっち終わったけどそっちは?」

棒立ちなままの黒ワンコを素通りして教会に入ってきたのは返り血を浴びたグッドルッキングガイだった。兄の方はスタイリッシュに立っていてとても好ましい。気だるげに立っているだけの弟も兄のポーズのおかげでどことなくスタイリッシュに見える。

「灰谷兄弟!?」
「ああ、見つけた。助かったよ。」
「おいどけ!!」

ワンコが全員押しのけフラつきながら教会の外に出ると、そこには黒龍の兵隊たちが全て倒れ伏していた。あまりの光景に膝をついたまま脱力するワンコ。

「すげぇ…アンノウン…。」
「さ、帰ろうか。タケミっちはマイキーが探してたからここの場所伝えておいたよ。」
「えっ!?マイキーくんが?」
「えーボス帰んの?」
「オレらのバイク乗ってくでしょ?」

ちなみにこのグッドルッキングガイ兄のいうオレらのバイクとは教会までの足が無いと発言した姉のためにその辺の不良から奪った2台のバイクのことを言う。オトモダチに借りたと言ってバイクを転がしてきた兄弟に、姉はいい友達を持ったなと頭を撫でた。この秘密は墓場まで持っていかれることになる。

「そうだな。千冬も乗って帰るか?」
「え゛。」

東卍とバチバチな相手のバイクと2ケツは地獄である。
千冬はニヤニヤする灰谷兄弟と優しく笑う姉を何度も交互に見て半泣きになってか細い声でお願いしますと一言。
三ツ谷は真っ青な顔を手で覆った。

「他は足あるか?」
「あります!!」
「歩いて帰れます!!」

三ツ谷と八戒が千冬の二の舞は嫌だと元気に返事した。どちらも嘘はついていない。足のある三ツ谷と柚葉がいるため歩いて帰ろうとしていた八戒、そしてマイキーを待つためここに残るタケミっち。千冬を慰めてくれるのは不良のことをよく知らないタケミっちだけだった。
その後姉と2ケツするのはどっちだと喧嘩を始めたグッドルキングガイにキリがないと思った姉が自分が運転するバイクに千冬を乗せることで解決した。助かったと喜ぶ千冬と不貞腐れる2人にバイクと喧嘩に付き合ってくれた礼をすると初めて家に招いたことで天国と地獄が反転することになるのはこの後すぐのことだった。
とんでもないヤベーヤツらが家にいると言う現実を受け止められない弟と千冬は勉強そっちのけでペケJを吸いまくって猫パンチされた。それを元凶の2人に爆笑され、喧嘩になる寸前に姉のパンチが全員の顔面にきまった。







【誕生日プレゼントの話】


記念日やらに興味が全くない姉と半間だが、姉は誕生日とクリスマスだけは罪悪感も理由もなくケーキが食べられるので割りと好きだった。
そんな姉、明日は誕生日である。姉はカレンダーに自分の誕生日を大きく赤マルしているので半間でもその月になれば自然と姉の誕生日を思い出す。

「誕生日なんか欲しいもんある〜?」

自宅のソファで仕事用のタブレットをいじっていた姉に後ろから話しかけた。
姉はタブレットから少し目を離して考える素振りをした。

「……私に似合う赤い口紅、買ってきて。」

チラリと半間を見て、またタブレットに視線を戻した。
いつもはストレートにどこの何が欲しいという姉にしては回りくどい要求に目をパチクリさせた半間。欲しいものが無ければ食べたいケーキを要求するはずだが、そうではなかった。姉にしては随分乙女な要求に、しばらく頭の中でそれを咀嚼して半間は笑った。

「ばはっ♡3個くらい買ってくるわ〜。」
「1個でいい。」
「なぁなぁ、ツヤがあるやつがいい?マットなやつがいい?どっちもにする?」
「修二が私につけてほしいやつ1つでいい。」
「は〜………もうサイコー。」

ソファ越しに姉を抱きしめた半間は邪魔だと顔面に頭突きを受けた。
姉は仕事中容赦がなかった。






【2人に子供がいる話】

姉と半間の間には子供がいる。半間によく似た女の子だ。赤ちゃん時代からたくさんのガラの悪い人達にチヤホヤされて育ったその娘は男の子かと思うほど活発でどんな物にも物怖じしないやんちゃ娘だった。よく両手を上げてみなごろしだぁ!と叫んでいる。
稀咲は母にだけは似るなよと娘にひたすら言い聞かせた。娘は話を聞きながら稀咲のメガネを鯖折りした。半間がメガネを弁償した。

そんな場地家、娘を幼稚園に通わせているが幼稚園の先生や保護者からとても人気であった。娘の迎えに日替わりで少しガラは悪いがイケメンがやって来るからだ。
弟に始まり弟の友人2人、体格のいい社長、奇抜な髪色をした双子、モサモサした双子、龍の刺青を入れた独特な髪型の男と顔にアザのある美人、オシャレな男、眉のつり上がったガタイのいい男、頭から首にかけて刺青のあるニワトリみたいにうるさい男、メガネを掛けた知的な男、ずっと言い合いをしているそっくりな髪型をした白い髪の男と黒い髪の男。他にもたくさん日替わりでやって来る。
独身の先生や日々の疲れが溜まっているママさんたちにとって幼稚園のお迎えの時間は基本当たりしか入っていないガチャが1日1回引けるようなものである。
そして実の親である半間も物騒な刺青をしているが背が高く手の甲の刺青が落書きだと思われて子供たちから人気があり、案外子供の扱いが上手いこともあって保護者からも好かれていた。人気すぎてたまに子供が5人ほど体にはりついたまま歩いていることもある。

ある晴れた日、稀咲に仕事を押し付けて場地家族が近くの公園に遊びに行くとそこには同じ幼稚園に通うママと子供たちが数人。姉の教育により人あたりの良くなった半間と社交的な姉は娘をその群れに放り込ませてもらった。
娘のための飲み物や暑さ対策の帽子を入れたトートーバッグを肩にさげる半間はいい夫というものに見えて、姉はママたちから羨ましいとキャッキャされた。

「ばはっ見てこれ、稀咲から大量の苦情だぜ。」
「…最近稀咲後頭頂部以外の髪が亡くなったからな…苦労かけすぎたか。」
「あれハゲじゃなくて剃ってんの。稀咲はオシャレでやってんの。」

未だに不良っぽいものに身を包み不良っぽい髪型をした稀咲と、不良の頭のてっぺん以外を剃った髪型がオシャレという感覚が分からない姉。彼女は昔から剃りこんでる不良を苦労していてハゲているのだと思っていた。

「…今何人かに公園で娘と遊んでるって言ったらこっちくるらしいぞ。稀咲は来れないらしい。」
「稀咲に押し付けたもんな、仕事。つーか平日昼間だぜ暇人かよ。」
「子供たちのいい遊び相手だ。」

それから10分も経っていない頃、広い場所で遊んでいたはずの子供たちが逃げてきた。逃げてきた方向を見るとガラの悪い高校生くらいの男たち。ボンタンでもリーゼントでもないが2018年にしてはコッテコテの不良である。
ママたちはヒソヒソと違う場所に行こうかと話し始めた。ベンチに置いていた荷物を持ちその場を離れようとしたが、一人の男の子が持っていたゴムボールが手を離れテンテンと不良の足元に転がっていく。転がっていったそれに泣く男の子とそれを追う姉と半間のヤンチャな娘。
不良に話しかける娘にママたちは顔を青くして様子を見守る。遠くからでは会話は聞こえないが徐にボールを持ち上げた不良、振りかぶられたそれにママたちが悲鳴を上げた。


バチン、という音がしてボールが転がっていく。




「大丈夫か〜?」
「ぴえん。」
「泣き方の癖つぇ〜。」

半間はしゃがみ込んで、ボールが当たり少し赤くなった罰と彫られた手の甲をぷらぷらさせながら罪と彫られた手で娘の丸いほっぺをつついた。
そして娘に見せていた笑顔を消し無表情で不良を見上げる。

「…おいテメェら〜、こっえー鬼が出てくる前にさっさと帰れよ。…死ぬぞ?」

その声色に一瞬ビビった不良たちだが、多対一の状況に弱く出るはずもない。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて1人がどこかへ電話をかけ出した。聞かなくても勝手に自慢するそいつら曰く、昔有名な不良だった人たちと繋がりがあるからそいつらを呼んだと。
半間は背後からした、聞き慣れたヒール音に死んだなコイツらと内心笑って娘を片腕で抱き上げた。

「他の子供たちには耳を塞いで目をつぶらせた。修二も下がってろ。」
「え?ナニナニ?奥さんが相手してくれんの!」
「美人さんじゃんラッキー!」

姉に手を伸ばす不良。

「人妻へのセクハラは重罪だぞコラ。」

その腕を掴み今にも殴りかかりそうな半間。手が出ないのは単に片腕の中に娘がいるからだ。いなければすでに目の前の不良は歯の一本、二本ぶっ飛んでいるだろう。

「正当防衛という言葉を知ってるか?」

姉の日焼け防止で肩にかけていたカーディガンがふわりと浮いて、振りかぶられた右手が不良の顔面にのめり込んだ。後方に飛んでいく不良。一瞬静まり返ったその場にママたちのいる方から「え、そっち…?」という呟きが聞こえた。

飛んで行った仲間に唖然としていた不良たちだったが、正気に戻った1人が姉に殴りかかる。それを横に避けてボディーブローを入れる。その後も殴りかかってくる不良たち全員を簡単に拳で沈めてしまった。
鼻血を出しながら泣き喚く1人が「タナベさんが来たらタダじゃ帰れねーぞテメーら!」と叫ぶ。姉はそういえば秘書候補のワタナベくんに次教えるはずだった仕事教えるの忘れてたから稀咲に教えておいてというメールを送った。こうして稀咲のストレスは溜まっていく。

「そのタナベサンってコイツ〜?」

不良たちの後ろでどさりと重いものが落ちる音。振り向けば紫の髪をオールバックにしたスーツを着た男が笑って下を指さしていた。

「タナベさん!?」
「あー?じゃあコイツハズレかよ。」

もう1人の紫の髪の男が引きずっていたタナベさんの仲間らしき男を地面に落とした。

「おいゲームすンなよ灰谷兄弟。」
「何だテメェらよえーな!!」
「遅くなってごめんボス、なんかこっちに向かってる集団いてさー。」
「ボス当てゲームしてたら遅くなっちゃった。」

そこにいたのは灰谷兄弟とモッチー、そして斑目だった。
姉は5年かけてモッチーという名前を覚え、グッドルッキングガイと呼ばれていた彼らは娘の影響により今は蘭ちゃん竜ちゃんと呼ばれている。カラアゲくんはうるさいため園児にニワトリと呼ばれバカにされて砂を投げられたりしている。

「灰谷兄弟ってあの…灰谷兄弟!?昔六本木仕切ってた!?」
「嘘だろコイツら、まさか…!?」
「あれって、モッチーさんか…!?」
「え、じゃあボスって呼ばれてるあの女って…。」

「…元アンノウン総長!!?」

姉の正体に気づいたタナベサンたちは大きい声で謝りながら逃げ去っていく。そしてそれを見た高校生不良たちもやばいと思ったのか足をもつれさせながら彼らを追って逃げ去っていった。
やってきた4人にご苦労とだけ声をかけてママたちの元に歩く姉の後ろに控えてついてくるその男たちの姿が図らずしも絵になっていて姉は満足気だった。

後日その公園での出来事は場地家スタイリッシュ事件と名付けられ、娘を筆頭にその時公園にいた園児たちの間で場地家スタイリッシュ事件ごっこが流行った。
その日迎え当番だった稀咲がそれを見て「場地ィイ!!」と叫んで自分が怒られたと思った娘が泣き姉にメガネを鯖折りされた。メガネは半間が弁償した。

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