場地姉は多分ぜったいポンコツである

キッチリしたジャケットにシフォン生地のシャツ、膝丈のタイトスカートを着こなし踵の高いピンヒールを履いたその女を、タケミっちはつい先程まで過去で見ていた。

「場地さん!!?」
「タケミっちか。変わらないな。」
「え、え!?なんで柴大寿と…!」
「昔ワンコを拾って育てた。」
「捨て犬じゃないんですよ!?」
「拾われた。」
「ホントに拾われたんですか!?」
「…タケミっち、さては今帰ってきたのか。あの日から。」
「!そうです、それで丁度大寿君に会って…。」
「知りたいことがあるんだな。ワンコ、店に行こう。」

タケミっちの協力者である橘ナオトと合流してワンコの先導で姉の言う店に向かう。
足を踏み出すたびにコツコツ鳴るピンヒールの音にタケミっちは意味もなくドキドキした。ついさっきまで強そうでかっこいい姉を見ていて、現代では喧嘩なんてしたことなさそうなキャリアウーマンスタイル。つまりギャップ萌えであった。

ワンコの店は壁面が水槽になっている雰囲気のあるいい店だ。シェフの賄い用にと冷蔵庫に入れてあった料理を2人に出し、大寿と並んで対面に座る。
3人で黒川イザナと黒龍のことを話し始めてしまい、手持ち無沙汰になった姉は2人に出した料理をつまんで橘ナオトにマジかこいつという目で見られた。
稀咲の話しになった時、姉はやっと箸を置いて姿勢を正した。

「稀咲は死んでない。そしておそらく今日本にいる。」
「そう言える根拠はなんですか。稀咲は死を偽装してまだ日が浅い、海外に居ると考えた方が無難では?」
「あの男の頭を見くびるな。無難で考えるのはナンセンス、お前たちは踏み込みすぎた。…私があの男なら、きっと早めに処分を下す。自分の手でな。もう少しこっちにいるつもりなら気を付けろ。」
「…ご忠告ありがとうございます。」
「今日は嫌な予感がする。早めに解散した方がいい。私の番号は昔から変わってないから、また連絡してくれ。適当な場所まで送らせよう。」

話を切り上げ立ち上がったその時、嫌な予感通りに望まない客が大勢でやって来た。大寿はジャケットを脱ぎ捨て、姉はヒールを脱ぎジャケットの内ポケットから警棒を取り出した。これは昔付き従っていた男の警棒を故意に折ってしまいお詫びに新しいものをプレゼントしたが既に相手が新しいものを買っていたため物々交換したものをカッコイイから今でも使っているのだ。
大寿が元黒龍の2人と会話して引き付けている間に姉はタケミっちと橘ナオトにこっそりに声をかけた。

「私とワンコが食い止める、裏から逃げろ。東卍がお前たちの居場所を突き止めた以上向こうは王手をかけている状態だ。何があっても戻らず急いで人通りの多い場所まで走れ。路地を抜けたところに圭介と一虎を待機させてある。」
「場地君と一虎君…!?」
「あと一つだけ。過去の私に家族はお前が守れ、とだけ伝えてくれ。…早く行け。」
「…ありがとうございます。」

駆け出した2人を見送って、姉は警棒を振りかぶった。











東卍壱番隊のたむろ場所となっているタケミっちの部屋、そこに呼び出されたタイムリープのことを知る千冬と姉が未来の話を聞いた。

「みんな死んでいたか…。」
「場地君と一虎君だけは無事でした。場地さん本人から聞いたので間違いないです。多分…場地さんが2人を守ってたんだと思います。」
「…他は救えなかったんだな。未来のお前たちも。」
「救えなかったのはオレも同じです。それに…未来で撃たれたのは場地さんの忠告を無視して引き返そうとしたからです。」
「タイムリープできるのはお前だけだ。簡単に手に入らない情報なら無理してでも手に入れたいという気持ちは分かる。それを予見できず君たちの護衛ではなくワンコを取った私にも責任がある。」
「…すいません、オレ…。」
「謝るな。お前は今まで1人でどうにかしようともがいていた。これからは私も一緒だ。どんな無茶でも私なら叶えられる。罪も過去も未来も全部一緒に背負ってやる。私を使え、タケミっち。」
「場地さん…!!」
「カッケェ…!!」
「分かったなら周りに頼れ。千冬が壱番隊を呼んで下で待機させてある。私は下にいるからあとはそっちで話し合うといい。」

部屋に上がると同時に暑くて外したストールを首に巻き付け、ドアを開けた時タケミっちに呼び止められた。

「未来の場地さんから、家族はお前が守れ…って伝言を頼まれました。」
「え?家族を守れって…場地さんは生きてんだよな?」
「あれ?そういえば、確かに。」
「……少し考える。伝言の事は気にするな。」

下にいる溝中五人衆に声をかけて姉は変わりに下で待機する。
話が終わるまで少しかかるだろうと思い少し歩いたところにあるコンビニで温かい飲み物を買って飲みながら来た道を戻っていると、タケミっちの家の前が何やら騒がしいことに気づいた。
東卍がたくさんいて黒塗りの車も停まっている。おかしなことに壱番隊が東卍の隊員に捕まっていた。

「…何事だ。」

タケミっちが胸ぐらを掴まれ殴られていたのを止めた姉は、殴りかかっていた男と対峙する。

「場地さん!」
「内輪揉めか?」
「…他所者は引っ込んでろ。」
「ねえさん!ダメだ、今ねえさんが手ェ出したら東卍とアンノウンの抗争になっちまう!」

姉は少し考えた。毎度作ってもいないチームの名前を出されるなら正式にチームを解散すれば良いのでは?と。チームがなければ手を出してもただの個人の喧嘩でしかない。徐にポケットから携帯を取り出しポチポチと操作していく。いつもより少し長めの文章を書き終えて自分をボスと呼ぶ浮気中の連中にメールを一斉送信した。

「これで東卍はともかく、アンノウンの名前は無くなった。手を出しても個人の問題だ。」

一斉送信したメールの画面を目の前の背の高い男に向かって掲げる。内容はこうだ。

アンノウン解散します!
元々チーム作ってなかったけどみんなと遊んだ時間は楽しかったよ♡(*´・ω・)(・ω・`*)♡

内容があまりにも酷である。
簡潔すぎるしここでハートを使うあたりがメールを受け取った側からすれば発狂ものである。
チラリと画面が見えたらしい東卍のメンバーも顔を青くしている。マイキーからこれが送られてきたらおそらく彼の家の前の道はバイクで埋まるだろう。

「タケミっち。どうする、この程度の人数私なら負けない。」
「…場地さんと東卍を争わせたくありません。大丈夫です。」
「そうか…わかった。でもこれ以上殴るなら私も手を出す。」
「…三途、こいつを車に乗せろ。」

タケミっちが車に乗せられ連れ去られるのを見送って、解放された壱番隊の5人をしばらく労ってから解散した。
東卍の内部事情は知らないためタケミっちのことは仕方ないと姉は自宅へ続く道を歩きながら自分への伝言の意味を考えた。たくさん考えて、考えて、判断材料が足りなくて情報収集に出ることにした。
途中でワンコを拾い、ちょうど良いので黒龍のことを詳しく聞いた。とても有益な情報をもらえたので連れて帰ることにした。未来の自分もワンコを拾ったというのでそのまま育てても問題ないと思ったのだ。

「は?姉貴、何だよコイツ。」
「ワンコ。拾ったから育てることにした。」
「ハァ!?」
「余分な部屋がないから取りあえす私と一緒の部屋でいいか?」
「…どこでもいい。」
「おい待て何でいいと思ったよ。」

動物好きなはずの弟がワンコを元いた場所に返してこいというので姉はワンコの可愛さをプレゼンして、人間も動物だということを教え込んだ。頭の使いすぎで弟は倒れた。その隙に姉は母にワンコを飼う許可をもぎ取った。弟というものは姉に敵わない生き物である。


「…わかった。取り敢えずは許すケド、家で2人きりにはなるなよ。あと姉貴はオレと一緒の部屋使え。」
「圭介明日朝から墓参り行くって言ってなかったか?」
「あ゛……あ゛〜…、姉貴も着いてきてくれ。」
「ワンコ初めてのお留守番だな。」
「子供扱いすんじゃねぇ。」

姉と弟とワンコで囲む食卓はなんとも奇妙なものだった。そしてワンコの図体がデカいため部屋がいつもの半分ほどに狭く感じた。

元々仕入れた情報から明日の墓参りは姉も着いていこうとしていたのでちょうど良かった。未来の自分が言う家族はおそらくマイキーの家族であるエマちゃんのことで、彼女を狙うならその日その時間確実にいる場所。兄の墓場だということは天才的な頭脳で導き出した。
黒龍創設の日、いつも朝の同じ時間に墓参りするのだと弟から聞いていた。稀咲ならこのくらいの情報すでに掴んでいるだろうという考えだ。

明日のため姉は早めに就寝しようとしたが、大量の着信とメンヘラ彼女のようなメールに対応していて結局その日は眠れなかった。普段寝られる時はずっと起きないという生活を送っていた姉の頭は眠気でほぼ働いていなかった。働いているのは前世分の1パーセント程である。



弟の運転するハーレーの後ろに乗りやって来た霊園の水汲み場でマイキーとエマちゃんに会って一緒に墓まで行くと、そこにはタケミっちと白ワンコ、そしてこいこいが居た。相変わらずこいこいしそうな耳飾りを付けている。
マイキーにタケミっちとエマちゃんとその場を離れるように言われそれに従って声の届かない霊園の外で待つ。
タケミっちとエマちゃんの声をBGMにして立ったまま寝そうになった姉はこれはマズイと後ろにある自販でカフェラテを買うことにした。姉はコーヒーが飲めなかった。

「2人とも何か飲むなら選んでいいぞ。」

1000円札を入れた自販を指さすとエマちゃんが喜んで近寄ってきた。彼女が選んだ缶のリンゴジュースが落ちて来たのを確認して自分のカフェラテとタケミっちが飲みそうだとお汁粉のボタンを押そうとして寝ぼけて隣のトマトジュースのボタンを押した。おそらくどちらも大間違いである。
缶を2つ手に持ち歩き出そうとすると道路の向こうからバイクが突っ込んでくるのがぼやける目でも辛うじてわかった。そしてそれがエマちゃんに向かっていることも何となくわかった。
ほぼ無意識に走り出し、エマちゃんを抱きしめた。

自分から聞いたこともないような音が聞こえて、持っていたジュースはひしゃげてコロコロと転がっていく。気付けば冷たい地面に2人して倒れていた。
タケミっちの大きな声が鼓膜を揺らす。




「…エマ?」
「あ、…ねき?」

マイキーと弟の力のない声。タケミっちがたどたどしく必死に説明するがほぼ聞こえてない状態の2人は辛うじてバイクが突っ込んできて頭を強打したことは理解した。赤い液体が姉の頭を伝っていたからだ。

「姉貴、姉貴…!待ってろ、教えてもらったもんな、留年した時!119だろ?ちゃんと覚えてるよ、頭打った時は動かしちゃイケねーんだろ?大丈夫だから、だからっ…!」
「場地君っ…!」
「エマも、待ってろ、救急車呼ぶから、なっ!大丈夫だから…!」
「けいすけ…、」
「姉貴!!」
「…いい子だねぇ。」

ゆっくり目を閉じた姉に、弟の瞳から大粒の涙が零れた。まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ、119に繋がった電話に震える声で必死に場所を伝えた。







しかしこの姉、入眠しただけである。

そして弟が血だと思っているものはトマトジュースである。飛び散ったトマトジュースが奇跡的に姉の頭周辺だけを汚したのだ。傍から見ればただのコントである。
姉は石頭なので直接バッドで殴られたのにほぼ外傷はなく、地面に強く叩きつけられたエマちゃんのほうが重症なくらいであった。救急隊員は必死に姉の外傷を探した。小一時間探した。見つからなかった。
しかしあまりにも目を覚まさない姉に病院も色々検査をしたが、それでもやっぱり何も見つからないままだった。


そしてたっぷり睡眠をとった姉が目を覚ますとそこは病室で、外は真っ暗になっていた。

「姉貴…?」
「圭介、お前なんで特服着てるんだ。」
「だって、姉貴が…!あ゛ぁ…よかった、よかった!姉貴!」

姉は寝る前のバイクにはねられた記憶は無く、ただ気持ちよく入眠しただけなので病院にいる理由も弟が珍しく抱きついてきて号泣している理由もよく分からなかった。
ただ、たくさん眠って冴え渡る頭脳は最適解を導き出した。

「圭介、天竺との抗争に行く気か。」
「…ダメだ。姉貴は連れて行かねぇ。」
「いや行く。ワンコにバイク持ってこさせるから一緒に行くぞ。」
「先にエマの意識が戻ったからマイキーとドラケンが向かった。あの2人が居るなら心配ないだろ。オレも今から向かうから大丈夫だ。」

やっぱりよく分からなかったが意識が戻る戻らないという話になるということはエマちゃんは無事だということは理解した。

「連れていかないなら進級するまで1日のドリル1教科につき10ページノルマにするよ。」
「ツレテイキマス!」

バイクは病院に停めてあった。
それはそれとしてみんな特服なのに自分だけ私服だと格好つかないのでワンコに赤い羽織を持ってこさせた。


弟が運転する猛スピードで走るバイクの後部座席で姉は羽織りバタバタして邪魔だなと思っていた。弟のポニーテールにされた髪も邪魔だった。
マイキーと天竺の因縁の事を説明されるのを聞き流しながら後ろに着いてきているワンコのバイクに乗ればよかったと少し後悔した。

「おい!もう着くぞ!」
「ワンコ、お前は近場で待機してろ!何かあれば呼ぶ!」

海とコンテナが見えて来たところで二手に別れ、弟はほぼそのままのスピードで抗争のさ中にある場所に突っ込んだ。
地面とタイヤの擦れる音が響き、ブレーキをかけたことでスピードを落としたバイクの後ろから姉が飛び降り地面を一回転してそのままの勢いで走り出し稀咲の持っていた拳銃を蹴り飛ばした。
反動で稀咲が強く尻もちをつき姉に拳銃ごと蹴り飛ばされた腕がメガネに当たりそれも飛んでいった。
静まり返る場の空気の中、姉は稀咲を鋭い目付きで見つめて思った。はわわ…稀咲きゅんメガネないとほぼ幼女では?と。姉の頭は冴え渡っていた。

「…それで?何コレ。」
「ねーちゃん!何でここに…!」
「場地姉オマエ頭打ってんだぞ何やってんだ!」
「場地さん何でねえさん連れてきたんですか!?」
「ウルセェ!連れてこなきゃドリルのノルマ増やされんだよ!」
「何でそこでドリル取ったんですか!?」
「全員うるさい。」

そう、ここは今姉の見せ場であった。
海風が強いこの場所は姉がカッコつけるにはとてもちょうど良かった。出来ることならコンテナに腰掛けてラスボス感を出したかったが贅沢は言わない。
飛んで行った拳銃を拾い海に投げ捨てたあと、肩を掴まれているこいこいを殴り飛ばした。姉にこけし君と呼ばれている肩を掴んでいた男は口をあんぐり開けた。

「兄弟喧嘩に武器と協力者を持ち込んではいけません。」
「…ウルセェ…ウルセェ!何なんだよ!オマエ!他人は黙ってろ!オレは、…オレは!!」
「うるさい。」

また殴られたこいこいに、周りは心の中でえーーーー!?と叫んだ。弟だけは姉の理不尽さを知っているのでうわぁと思いながら眉間に皺を寄せた。

「…いいか、欲しがるだけじゃ何も無くなるぞ。愛が欲しいなら愛を与えなきゃならない。お前が全てを拒絶する理由はなんだ。」
「他人が分かったような口を聞くなよ…!家族がいるオマエに何がわかる!!オレは…、!」

姉に殴り飛ばされた体勢のままこいこいがやっと拒絶する理由をポツポツと話し始めた。
曰く、旦那とフィリピン人との間にできた連れ子であったと母と思っていた女に聞いたと。こいこいは佐野家の誰とも血が繋がっていない…と。だから彼は執拗に血の繋がりを求め、血の繋がらない弟を恨んだ。
え、この2人兄弟だけど兄弟じゃないの???そっくりじゃね???どっちもネコチャンじゃん。と言うのが姉の感想である。

「オマエもだ!オレを裏切った!!弟がいるやつが何が姉のように思えだ!!何であの日オレを助けた!」
「うるさい。」

姉はこいこいを海に投げた。
周りは叫んだ。

「おまっおまっ、お、なにっ!なにしっ…!なにしてんだ!」
「頭を冷やしてやろうと。」
「やりすぎたバカ!」
「私がバカなら弟はゾウリムシだぞ。」
「それは知らねぇよ!」
「ナァゾウリムシって何だ?」
「本物のバカは黙ってろ!」

こけし君が特服をロープ替わりにしてこいこいを海から必死に引き上げる。冷たい海水で濡れ鼠のようになったこいこいが目を血走らせて息を荒くしたまま姉を睨んでいる。まるで数年前のあの日のようだ。

数年前、当時弟よりヤンチャしていた姉は朝昼晩関係なく色々なところを練り歩いていた。そんなある日のこと、たまたま一人の男の子が集団リンチしている場所に居合わせた。姉は弟がいるため小さい男の子がリンチされているのが許せなかった。まだリンチされていた男の子とそう変わらない体格だった姉は頭の良さと戦闘センスにより的確にリンチ集団全員に金的をして沈めたのだ。慈悲は多少しかなかった。
そしてリンチされていた子は捨て犬みたいな顔をしていて可愛かったから姉ムーブをかまして抱きしめてヨシヨシして怪我の治療をしたら随分なつかれてしまった。あまりのなつき具合に姉のように思っていいと言って持っていた少しのお金でコンビニのイートインに売れ残っていた肉まんを買って餌付けをした。
しかしその後1ヶ月ほど交流が続いたがリンチ集団にお礼参りしたこいこいは少年院に入ったためその期間関わりが無かった。

そして数年後再会したとき、こいこいは天竺というチームをつくり横浜を牛耳っていた。慕っていた兄が無くなり失意の底にあった彼は自分には姉がいるじゃないかと思い出し、強かった姉に相応しくなるようにチームをつくったのだ。

「ああ、私の弟は中学を留年したんだ。」

何気ない話の中で言われたその言葉にこいこいは頭が真っ白になり気づいた時には姉はボロボロで立っていて、彼はそれよりもボロボロで地面に倒れていた。姉は当時弟の武勇伝を広めるのに余念が無かったが、まさかそれがこいこいの地雷だとは思わずやっぱり弟は彼がぶちギレるくらいバカなんだなと思った。すでに前世を思い出していた姉は時々ポンコツだった。
ボロボロにしてゴメンねのヨシヨシをしたが、その手は振り払われ逃げられてからパッタリと交流がなくなったのだ。



「圭介、お前が留年したばかりに…。」
「何でそーなンだよ。」

姉は頭がいいのでたまに変なところから思考が飛んでくる。
姉のデッドボールをよく受ける弟の会話はそれに影響されて割とデッドボールが多い。

「やっぱりオマエは他人より実の弟が大事なんだろ!」
「そうだな。」
「ねーちゃん!?」
「!?おい姉貴!」

水を滴らせながら鋭い蹴りが飛んでくるが、すでにマイキーとやり合ってボロボロなので姉の相手ではない。腕一本で簡単に蹴りを受け止めた。

「そりゃ他人と圭介を比べたら圭介が大事だ。でもお前は他人じゃないだろ。」
「他人だろうが!!」
「私はお前が大好きだよ。私をボスだと慕ってくれたお前たちが大好きだ。私たちに血の繋がりなんてなくても、私たちの関係に名前がなくても、ずっとずっと大好きだ。私たちがこうして出会って会話していることは奇跡で、運命なんだよ。」
「何だよ、ソレ…奇跡でも、運命でも、結局他人じゃねーか。」
「そうだな。でもそうやって他人が出会って、運命を語って家族になるんだ。最初は他人でもいいんだよ、イザナ。」

姉は目の前の綺麗な白い髪を撫でた。冬毛のネコチャンのようにフワフワサラサラだった。

「うちに来るか?こけし君も一緒に。もう犬を飼ってるから猫2匹までならいける。」
「え?場地さん犬飼ってました?」
「飼ってねーよ。アレを犬って言うんじゃねぇ。」
「はいはい!ボスオレも!」
「竜胆とイケメンな置物ポジションで置いてよボス〜!」
「そんな邪魔な置物いるかよ。オレはゴリラなんだろ?もう1匹くらいいけンだろ!」
「ゴリラ邪魔だろォ。オレニワトリじゃん?目覚ましになるぜ〜。」
「テメェカラアゲくんな。食いもんが喋んな。」
「食べ物にも優しくしなさい。」
「は〜い。」
「オイ団地だぞそんなに人数入んねーだろ。」
「そこじゃねーだろ場地。」

姉より先にマイキーにボコボコにされたムーチョは除き、S62世代がワラワラと姉の周りに集まってきて家に置けとそれぞれがアピールを始めた。

その時。
バイクの排気音が響いて半間が稀咲を連れて逃げ出した。オギャアこれこそあの2人の真髄!!前世の部分が大はしゃぎしたが確かあここで逃がすと稀咲が死ぬのだ。そこはしっかり姉の姉である部分が覚えていた。
咄嗟に近場にあった警棒を引っ付かみ、力の限り振りかぶって投げたそれはホイール部分に絡まりスリップしてバイクだけ海に落ちていった。乗っていた2人は海には落ちなかったが遠目で見ても多少怪我をしていた。

「オギャー!?ねえさん!!?」
「すまん、警棒壊した。」
「え、そっち!??」
「流石場地のねーちゃん…。」
「ボスならいいよ〜。」
「ワンコ〜その2人連れてきて。」

コンテナの向こう側に声をかけた姉。周りは不思議そうな顔をしていたが、半間と稀咲を引きずりながら現れた男にタケミっちがオギャー!と叫んだ。

「オラよ。」
「ありがとう。」
「ワンコ…?」

ずっと呆然としていたこいこいがワンコを指差しながらやっと口を開いた。

「そう、うちで飼ってる犬。ね。」
「…わん。」

ワンコの弟が現実を受け止められず倒れた。元黒龍のワンコ2人は天を仰いだ。タケミっちと千冬は白目を向いた。

「まだマイキーとエマちゃんを家族と思えないならまずは家においで。今受け入れられないなら無理しなくてもいい。受け入れられるようになるまで私が胸焼けするくらいの愛をあげる。愛を沢山貰ったら、きっと弟も妹も愛せるようになる。ね、おいで。」
「っ…オレ、」
「まあ嫌って言っても連れていくけど。」
「じゃあ何で聞いたんだよ姉貴ィ。」
「嫌って言った瞬間殴って気絶させて連れていこうとした。」

姉は最終的に脳筋になる。弟はしっかりその教育を受けていた。

「お前たち2人もだ。」
「…は!?」
「ダリィー…意味わかんねぇ。」
「オイ姉貴!!コイツらはヤだかんな!!特に稀咲!!!」
「圭介うるさい。…タケミっち、私が見ておく。落ち着いてからちゃんと話せ。」
「場地さん…!」

「全員聞け!今回の抗争、東卍の勝ちだ!天竺の総長は私が預かる!本日をもって天竺は解散だ!!」

姉の言葉を素直に聞くs62世代達が率先して天竺をキビキビ解散させ、東卍はマイキーが解散の指揮を執った。

「帰るか…。」
「部屋とバイク足りなくね?」
「しばらくは雑魚寝。バイクは…タクシー拾うか。圭介は稀咲鉄太を後ろに乗せて先帰ってろ。ワンコも先帰っていい。」
「あ゛!?コイツだけは乗せねぇ!」
「乗せろ。バイク乗ってて一対一で勝てるのその子だけでしょ。」
「うぐぅ…!」
「それで悪さしないようペヤング食べてろ。」
「…わーったよ。」

姉は全員を見送ってから停めていたタクシーに意気消沈しているこいこいと傷だらけの半間を押し込んだ。
帰り道、姉は稀咲と半間が家で雑魚寝をするというほぼ自己責任でおこしたシチュエーションに今日が命日かもしれないと自分で自分に合掌した。




数日後、タケミっちと稀咲の話し合いの場を設けたが稀咲がヒナちゃんを殺している理由が判明しただけで言い合いの末殴り合いになって稀咲の反省が見られないということでもう暫く稀咲は姉預かりになった。
姉はペットを途中で放り出さないタイプの天才なので12年後まで稀咲と半間が近くにいるという状況で瀕死になりながら生活することが自動的に決定した。

しかし案外弟と稀咲の相性は悪くなく、お互いバカバカ罵りあいながら口喧嘩して半間が笑ってワンコが怒ってこいこいがどっちもバカだと嘲笑う。結局家に来なかったこけし君も必ず週に一回は泊まりに来てそれなりに楽しく毎日瀕死になっている。

東卍とタイムカプセルを埋めたあと未来に帰ったタケミっちが不安にならないように、という大義名分で稀咲日記をつけはじめた姉。数ヶ月後、弟に気付かれて燃やされて姉弟喧嘩になって姉が勝ったが、土下座までして日記はやめろと言う弟の言葉をしょうがないと受け入れるまでそれは続いた。




今日も今日とて、場地姉はそこそこポンコツである。


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