場地姉はきっと最後までポンコツである

姉にヘッドロックされ入院期間が伸びた弟と、姉のド天然ポンコツボケへのツッコミが傷に響き入院期間が伸びたドラケン。もちろん姉はすぐに看護師に注意され病院を出禁にされた。
出禁にされた後姉は暫く暇を持て余していたが、ドラケンにイヌピーが1人で店番が出来るか心配だから様子を見て欲しいと頼まれていたことを思い出し2人が経営する店に通っていた。
姉は通常時だけ天才なため、イヌピーのお世話は完璧だった。

今日も暇つぶしついでに店に訪れ、姉とイヌピー2人しか居ない店内で雑談をしていた時、来客が現れた。

「あれ、場地さん!?」
「何でココに居るんですかねぇさん!」

タケミっちとその相棒の千冬、そしてワンコの弟である八戒だった。ちなみに八戒は見た目だけは完全に女である姉がいるためほぼ喋らなくなってしまった。

「ああ……ドラピンに頼まれて、おもり。」
「……ガチャ〇ン残ってるけど近付いて来ましたね!」

色々言いたいことが頭を駆け巡ったが、タケミっちは笑顔でツッコミを放棄した。

「ドラ……、ガチャ〇ン……?」

稀咲であればここでお前はお守りされる側だろとつっこむところだが、この場には居ないため姉のボケは放牧状態である。
場所を店内の事務所に移し話を聞くと、タケミっちが新しいチームを作ったためイヌピーを誘いに来たらしい。
姉はそれを聞きなるほど、これは最終決戦への序章かと理解した。主人公がチームを作るならきっと最終決戦以外の何物でもないだろうという特に根拠もない考えからの結論であった。
イヌピーは即答で誘いに乗っているのを見て、姉は自分を指差しながら言った。

「私は?」
「場地さんもいいんですか!?」
「いいよ。」
「じゃあよろしくお願いします!」
「思わぬ戦力ゲットだな相棒!ねぇさんがいれば百人力だぜ!」

姉は自分を押し売りするタイプだった。
2人ともチームに入ることが決まり和やかなムードになったところで、千冬がチームTシャツだと言ってクソダサTシャツを広げた。
それを見たイヌピーは心底嫌そうな顔をしてTシャツに唾を吐き捨てた。

「やっぱりチーム入るのやめていいか?」
「待ってください場地さん!!」
「これ着て喧嘩したくない。」
「気持ちは分かりますけど!」
「えっ?」

姉はいつだって格好良さを求めていた。
その後タケミっちに頼み込まれTシャツを着たイヌピーと頑なに着ることを拒んだ姉を含む5人で次に必要な人材は誰かを話し合っていた。
クソダサTシャツを着ている彼らがいち早く欲したのは「センスのある参謀」だった。姉はともかく、タケミっちたちの交友関係はほぼ東卍と言っていいためチームに誘えてセンスがあり頭もいいと言えば該当するのは1人。

二階建てアパートのとある一室の前で目的の人物を大声で呼ぶ八戒。しかし出てきたのは目的の人物である三ツ谷隆……ではなく、その妹のルナだった。
たまに妹2人と遊ぶことがある姉が珍しく率先して声をかけた。彼女は意外にも子供が好きだった。

「ルナちゃん、分裂眉毛君いる?」
「お兄ちゃん今大変なの。」
「ねぇさんその分裂眉毛君ってもしかして三ツ谷君のことですか?」
「場地さん三ツ谷君の眉毛は分裂したワケじゃないです。」

姉が三ツ谷を見る時決まって分裂した眉毛に焦点を当てていたため、彼女の中で三ツ谷はずっと「分裂眉毛君」である。本人はもちろん、彼の妹2人も分裂眉毛君は三ツ谷隆であると認識していた。

「大変?」

姉が女の子専用の柔らかいへにゃへにゃした顔で問う。
なんでも、ドラピンが撃たれたと聞き服飾のショーに出ると言い出したらしい。手術後しばらく目を覚まさなかったのが堪えたのだろうかと姉は考えた。

「ルナちゃん、三ツ谷君と話せるかな。」

前に出たタケミっちがそう切り出した。

少し離れた場所にある公園のブランコに座って話すタケミっちと、呼び出した分裂眉毛君を文字通り草葉の陰から見守る残り4人。
ドラピンのことでショックを受けていると予想していたが、無精髭も生やしてるし多少クマもあるが思っていたよりやつれていなかった。
しばらく話が終わるのを待っていた4人の元に戻ってきたタケミっちは彼は誘えないという結論に至ったようだ。


しかしそれから約一週間後、姉の気付かぬうちにいつの間にか分裂眉毛君が仲間になっていた。ついでに髪型がロックになっていた。姉は歳をとると時間が経つのが早いなとしみじみした。

夕日が差し込む公園に姉も呼ばれ、分裂眉毛君を含むチーム全員で集まった。結果、よく分からないチーム名とクソダサTシャツは廃止され千冬以外の全員で胸をなでおろした。

「で、場地姉。場地とドラケンはどれくらいで退院出来そうなんだ?」
「よく知らないけど入院期間は伸びたらしい。」
「え、なんでですか?」
「私がヘッドロックかけた。」
「なにやってんですか!?」
「知らないどころか犯人じゃねえか!」
「そうしたら病院出禁になった。」
「そりゃそうですよ!」
「むしろ何で許されると思ったんだ……。」

三ツ谷は最近姉をお転婆3歳児と思っている節があった。

彼が連絡をとってくれたおかげで元東京卍會の幹部や隊員もチームに入ることが決定したが、タケミっちはもう1人どうしても誘いたい人がいるからとどこかへ連絡を取り始めた。





8月31日、夜の武蔵神社で二代目東京卍會の決起集会が行われていた。
そこには銃撃を受け入院していた場地圭介とドラケンの姿もあった。姉の魔の手により伸びた入院期間も無事乗り越えたようだ。
もちろんその姉も三ツ谷お手製の東卍の特服を着て腰に手を当てながら風を受けている。
しかし特服の着こなしが分からない姉は「靡き」が足りないなと思い、髪を結んでメンダコ要素の薄くなったメンダコちゃんを見てさらしも有りだなと思案していた。肩にかけるタイプのリーダー感ある着方が理想だが、あれは少し動いただけで肩からずり落ちてしまうため自重した。彼女は変なところで現実的だった。

「場地、ムーチョは。」
「家。」
「多分今チーズケーキ食べてる。」
「何でだよ今食うなよ。」
「黒川イザナは。」
「家。」
「誘ったけど来ないって。」
「女子か。」
「場地姉オマエ人脈あるんじゃねぇの?」
「……デブとナンセンス君とか?それとものぶ君?」
「でっ…………ガリ男か!!っと、……誰だナンセンス君とのぶ君!!」
「発音の雰囲気タイプか似てる言葉の意味タイプかどっちだこれ。」
「あだ名の系統予測してもわかんねーよ。」
「のぶ君って人名か?」

突然名前当てクイズが始まった。

「オイ通訳の稀咲呼べー。」
「アイツ姉貴関連のことで呼び出されたくないっつってケータイの電源切ってたぜ。」
「用意周到すぎんだろ。」

しかし稀咲の先回りした防衛により彼らはガリ男以外の正体を知らずに生きていくことになった。
ちなみにナンセンス君の正体はかつて姉に腹パンされてゲロぶちまけた坂本泉。そしてのぶ君は新居を建てる際に稀咲経由で知り合った、かつての稀咲の捨て駒である長内信高である。

「ダメだ、まだ場地の方が話が通じる。」
「あ?」
「場地姉の話聞いてたら何も進まねぇから、これ以上の戦力は諦めようぜ。」
「そうだな。」
「大変遺憾。」
「大政奉還?」
「それは場地さんが最近覚えた単語です。」
「ダメだこの姉弟どっちもどっちだぜ。」

そうして姉の存在を無いものとして決起集会は無事終了した。





それから数日後、決戦当日の9月9日。厳かな雰囲気を纏った二代目東京卍會。
しかし何故か、その中にいるはずの姉の姿が見当たらない。流石にあの存在感を無視することは出来ず三ツ谷が彼女の弟に話しかけた。

「場地、オマエねーちゃんどうしたんだよ。流石に暑いから家から出てこないとかじゃねぇよな。」

三ツ谷は姉の生態をよく知っていた。

「あー……、姉貴な……。」

何か言いずらそうに頭をかき視線をさ迷わせる弟。

「……昨日捻挫して今家に居るわ。」
「は!?」
「何でですか!?」
「おい戦力!!」
「マイキーと互角にやりあえんのアレだけだぞ!?」
「一応アレ主力だぞ!」

数年の付き合いで姉の扱い方を理解した面々の酷い言いようである。

「いや待てそもそもあのバケモンが捻挫ってどういうことだ。」
「確かに。マイキーの蹴りを受けて平然としてるような女だぞ。それがどうやったら捻挫すんだよ。」
「それがよォ……赤信号で飛び出した犬助けて歩道に体傾けたら婆さんいたとかで無理して避けたら足ひねった、とか言ってたワ。」
「はっ……!?あ、あー……んー、んんん……。」
「おま、……ンンッ!」

なんとも苦情を入れにくい負傷の仕方に、誰もが言いたいことを言えず苦虫を噛み潰したような顔をする。理由が理由だけに全員それぞれ言いたいことを各々で全てを飲み込んで、来れないならばもう仕方がないと気合いを入れ直した。


姉が不在のまま抗争は始まり、はじめは優勢かと思われた二代目東京卍會だったが、高みの見物をしていたマイキーが降りてきてからはそれが一変した。
為す術なくマイキーに挑んだ幹部たちは地に伏せ、残っているのは満身創痍のタケミっちのみ。さらにその背後から真剣を持った三途春千夜が迫っている。


「どうした花垣!!!それで終わりか!!?」

大きな排気音を響かせて1台のバイクが人の隙間を器用に抜けて、バイクを三途にぶち当てた。

「大事故。」

現れたのは大寿と大寿の大きな背中の後ろから顔を覗かせた、捻挫で来られないはずの姉だった。

「大寿くんと場地さん!?」

姉はやあ、と片手を上げた。

「場地さんは何で、捻挫したって……!」
「足があれば戦えるから、来た。」

そう言いながら大寿の腕をポンポンするが、その手は無言で大寿に叩き落とされた。

「でもワンコが肩車してくれなくて困ってる。」
「それどんな動く要塞兵器だよ絶対やめろよ!?」

三ツ谷が叫んだ。
ならば仕方ないと、熱い会話を交わすタケミっちと大寿には見向きもしない姉は近くにいた適当な関東卍會の男に「君、今から私の足な。」と肩に手を置いた。

「そっちは敵!!」

倒れたままのワンコ弟が吠えた。

「肩車して。」
「え!?」
「屈んで。」
「ちょっ!?」
「テメェはもう大人しくしてろポンコツ女ァ!」

姉が足にしようとしていた男がワンコによって殴り飛ばされた。

「遺憾。」
「メンドクセェから花垣の盾にでもなってろ!行くぞ!!!」

埒が明かないと走り出したワンコに続くたけみっち。足を吹き飛ばされ移動手段がなくなった姉は捨て置かれたワンコのバイクをちらりとみて「いや捻挫した足じゃ無理か。」と天才的な頭で当たり前のことを考え断念した。
ブルドーザーのように敵を薙ぎ倒していくワンコの後を走るタケミっち。さらにその後を渋々片足飛びでついて行く驚異的な身体能力を見せる姉。
そんなワンコの前に立ちはだかる初代黒龍創立メンバーの荒師慶三と今牛若狭。

「現役退いたジジィ共が、オレ様に勝てると思ってんのか!?」
「威勢だけじゃ勝てねぇぞボーズ。」
「初代黒龍……そういえば千寿に2人のことを聞いた気がするな。クマの大五郎と綿毛だ。」
「名前の原型ねぇじゃねーか!!」

フィーリングで名付けられた大五郎と、昔の白豹と呼ばれていた白髪の頃の写真を見せられて名付けられた綿毛。当の二人は「大五郎……?」「綿毛……?」とお互いを指して微妙な顔をしている。
ちなみにクマの大五郎は元はのぶくんに付けられたあだ名だったが、拒否されて行き場を失った名がリサイクルされた形である。
ただ千寿の名前は覚えただけ及第点だ。

「場地さん。」

タケミっちが姉の肩に手を置き首を横に振った。

「……テメェはソレ連れてマイキーのトコ行け。」
「……はい。」

静かにマイキーを指差したワンコに静かに返事をしたタケミっちは、気持ちを入れ替えつつ姉を連れマイキーの元へ走る。
まだ立っている隊員は片足でも軽々動く姉が全てノシて進んだ。見た目は身軽な小型ブルドーザーである。
ワンコと初代黒龍の決着もつき、2人でマイキーの元までたどり着いた。

「降りて来いよ佐野万次郎。」
「結局こうなるか……。」

姉はこういう時は空気が読めるため大人しく1歩引いて観戦する姿勢を取った。

対峙する2人。タケミっちが今回なぜ現代から過去へ戻った経緯を始める。
姉は原作を最後まで読めていないため今ここにいるタケミっちが何を見て戻ってきたのか知らないうえに、今後の展開も分からない。自由に動ける足も大寿に殴り飛ばされた今、彼女は前世で漫画を読んでいる時のようにただ傍観に徹するしかないのだ。

見守るのにいい感じの椅子がないかと周囲を見回していた、その時。姉の数メートル後ろにいた大寿が倒れた。三途が日本刀で背後から切り付けたらしい。

「それは痛い。」

痛いのが苦手な姉は顔を青くして直ぐに大寿に駆け寄ったが、幸い傷はそこまで深くないようだった。
姉をチラリと見た三途は振り向いた彼女には奇襲ができなかったうえに片足では満足に動けないと判断してそのまま通り過ぎた。姉は無視されて少しむっとした。

「東卍で残ってんのはもうオマエ1人。絶体絶命だな。」

三途の隣に並んだ半間もチラリと姉を見たが直ぐに視線を逸らし何事も無かったかのように話し始めた。姉は無視されてかなりイラッときた。
珍しく眉間に皺を寄せて不良顔をした姉がゆらりと立ち上がる。片耳に付けた揺れるピアスが肩に当たって小さく音を立てた。
千冬がボロボロな身体で半間に殴り掛かり返り討ちにあったことなど今の彼女にとってはどうでもいい事である。千冬に感化され東卍が次々立ち上がって気合を入れているのも、やはり今の彼女にとってはどうでもいい事である。
自己肯定感エベレストな彼女は普段、誰に無視されようが欠片も気にした事がなかった。しかし、何故か、今日だけは、とてもムカついたのだ。
ムカついた理由など考えることもなく姉はキュウリを見た猫レベルの跳躍を見せる。片足が使えず踏ん張ることができない今の彼女でも唯一威力が衰えない技、飛び膝蹴り。彼女の膝は半間の顔面にクリーンヒットし、形容できない声を上げながら伸された半間。
ふんす、と満足げに鼻息を吹かした姉に弟が「痴話喧嘩はヨソでしろよ。」と珍しく正論を説いてきた。姉本人は痴話喧嘩を否定したが、傍から見れば揃いのピアスを付けた仲良しカップルのバイオレンス痴話喧嘩である。

そんな喧騒すらマイキーのカンに触ったのか黒い衝動に呑まれた彼は仲間である春千夜諸共立ち上がっていた東卍メンバーを次々と蹴り倒し始めた。流石の姉も片足ではマイキーの蹴りを受け止めることが出来ず尻もちを着いてしまった。他の東卍メンバーも次々地に伏せていく。
そうして残ったタケミっちも既にボロボロで立つのもやっとの有様だが、突然マイキーの蹴りを見切り避け始めた。
避けて避けて、遂には拳を一発マイキーの頬にぶち込んだタケミっちに周囲は驚愕した。姉は主人公覚醒パートだと思った。

どうしても諦めないタケミっちに、マイキーは黒い衝動の正体と自身の兄の過去...最初のタイムリーパーだった真一郎と本来あるべきだった最初の世界線の話を始めた。
マイキーが事故で植物状態になり真一郎がそれを治そうと必死に何年も様々な医療行為や宗教に手を出したり、圭介と春千夜がグレたり、姉が事故に責任の一端を感じて真一郎にずっと協力していたり。
最終的にタイムリープの能力を持ったホームレスの男を殺してその能力を手に入れた真一郎が過去を変えたが、ホームレス男の呪いでマイキーの中に黒い衝動が生まれたのだと。
ちなみに「真ちゃんに尽くしてたのがこんな部品何個も飛んだオンナとは思わなかったけどな。」とは真一郎に直接話を聞いた綿毛の言葉である。

しかしその話を聞いてなお諦めず黒い衝動も全て受け止めると宣言したタケミっちに、どうなっても知らないと忠告したマイキーが本当に黒い衝動に身を任せるのが手に取るようにわかった。
春千夜が持っていた刀まで持ち出しめちゃくちゃに振り回し始めたマイキーに、いやそれはアカンでと心の中の関西人がつっこんだ姉が止めに入ろうとするもその足では無理だと常識人なドラケンに肩を掴まれた。

「タケミっち!!」

掴まれた肩を見たほんの一瞬、その一瞬に長い刀身がタケミっちの体を貫通した。
騒然とする場。
姉はタケミっちの生命力なら直ぐに止血すればワンチャンあるばずと肩に置かれた手を振り払って勢いよく駆け出した。

「あっ。」
「姉貴──────!!!??」

この抗争で頑張りすぎた片足が縺れ、ズザーっという派手な効果音が着きそうな勢いでスライディングを披露した姉。
滑った先で綺麗に伸ばされた両手の片方がタケミっちとマイキーの重なる手に触れた。





何かに強く引きずり込まれるような感覚がして目の前が真っ暗になった。体感でほんの数秒後、ハッと目を覚ますと目の前にはどこか懐かしい室内が目の前に広がっていた。
突然の出来事に呆然としたまま思考と動きが止まる。

「ママぁ、おばーちゃんが変〜。」
「おばあちゃんはいつも変でしょー。」

突然聞こえた声。
それは遠い記憶にある懐かしい声。
左を見ると見た事のある子供の顔、右を見るとキッチンに立っている後ろ姿の女性。そして手元にはホカホカのぜんざい。

「……ぜんざい。」
「ママぁ、おばーちゃんボケた〜!」
「おばあちゃんは大体いつもボケてるでしょー。」

この言われように、もうほとんど忘れかけていた前世の記憶が蘇ってきた。この2人は自分の孫と娘だ……と。
姉の頭の中は大騒ぎである。もしかしてあの最終決戦の日から前世まで戻ってきてしまったのか、どうして戻って来てしまったのか、もしかして今までのことは全て夢だったのか、いくら考えても分からなかった。

「ぜんざい美味しい。」

天才なのは場地になってからだった姉は考えることを放棄した。

ゆっくりぜんざいを味わった姉は少しだけ落ち着きを取り戻し、まず自分の現状を知ることから始めた。
カレンダーを見ると1月2日。遠い遠い記憶を必死に手繰り寄せ、確か今日……と言うより前世の今日、ぜんざいを食べてからの記憶が無い事に気が付いた彼女。
えっもしかしてもち喉に詰まって死んだ?自分の死因に多少ショックを受けながら姉は決意した。東リべ最終回読み終わるまで餅を喉に詰まらせないことを。

それから姉は老眼を酷使しながらまだ完結していない原作漫画を何度も読み返し、老眼鏡とブルーライトカットメガネをダブル装着してネットで情報を収集。それぞれの出来事の時系列を壁に貼った大きな紙に書き出すことにした。
もし自分がまた死んだ後、2度目の転生をする可能性は「無くはない」と表現するのが適切だろう。
そんな小さな可能性にかけてひたすらに情報を集めまくり、およそ2年後。畳の上で大の字で寝転んだ彼女の手には待望の完結巻があった。最終巻を何度も読み返し情報をまとめその情報を全て暗記した結果、燃え尽きた。元旦の出来事だった。

その後、帰省した娘が作ってくれたぜんざいを食べて泣いた。歳をとってから小豆ともちが好きになった姉は原作完結まで安全のためぜんざい断ちしていたため、久しぶりに食べたぜんざいが美味しすぎたのだ。

「おばあちゃんがまた変ー!」
「おばあちゃんはいつも変でしょー!」

泣きながら餅のおかわりをして、そして。

「ホゴワッ!」

詰まった。餅が、喉に。
暗くなる視界の中、姉は来世で餅を食べないことを誓った。






バチリと暗闇の中で目の前に光が走った。

「オイ姉貴どーしたんだよ。ガッコ行くんだろ?」
「……圭介?」

目の前に突然アホ面の小さくなった場地圭介。
はて、と首を傾げた姉の真似をして首を傾げる目の前のアホ面。そのアホ面の後ろに見えた鏡の中を見て驚いた。
鏡の中で目を見開いているのは場地顔の制服を着たまだあどけなさの残る女の子。それは紛れもなく場地家で生まれた中学の頃の自分だった。
この頃は清楚ブームが到来して黒髪ロングストレートでパッツン前髪をしていたからよく覚えていた。
まさか。
まさか。
また戻って来たのかと少しずつ高揚していく気持ちを抑えながら怪訝な顔をする弟の頬を抓った。

「イッッ……デェ!!!?何すんだよ!!」

頬をおさえ痛がる弟に、これが現実だと理解した姉は何も言わずに勢いよく自宅のドアを開け駆け出した。
その場に残された弟は「……は?」と間抜けな声を漏らし、いつも以上に理解できない行動をする姉の背中を見送った。

前世より早く回る頭を駆使してタケミっちの自宅があるはずの場所へ走る。
走って、走って、遠いからその辺の不良から自転車でも強奪しようかという考えが浮かんだ頃、やっとの思いでたどり着いた花垣家。呼び鈴を鳴らして軽く髪を整えていると、タケミっちによく似た黒髪の女性が扉を開けた。
早朝に押し掛けたことを女性に謝罪しつつ弟をダシに使いタケミっちが居るか聞くが、なんでもいつもより早く起きたかとお思えばご飯も食べずに急いで出ていってしまったらしい。
礼を言ってまた走る。
いつもと違う様子で出ていったと言うことは彼がタイムリープした世界線と考えていい。姉は天才的な頭でそう結論づけ、タケミっちが真っ先に駆け付けそうな佐野家へ向かう。
しかし。

「走って行った?」
「おー、万次郎も一緒に。」
「どこに。」
「さァ……あっちに走って行ったけど行き先までは分かんねぇな。」

タバコをふかしながら頭を搔く目の前の男。いつも物語の中枢にいた佐野真一郎だ。

姉は人探しに関しては灰谷兄弟の方が有能だなと思いながら面前の真一郎のデコに「生きてて嬉しいぞ」の意味合いで強烈なデコピンをお見舞しておいた。
痛すぎて声も出せず蹲る哀れな男を置いて、原作で見た幼いタケミっちとマイキーが2人でリベンジを決意する描写があったどこかの屋上を探すことにした。姉は不良時代の頃の高い場所で意味深に黄昏れる趣味のおかげで、この近辺の立ち入れる屋上をほぼ熟知していた。無駄なことにだけ天才的な姉の、珍しく役に立つ知識だった。

自分の記憶を頼りにたどり着いたとある屋上で幼いタケミっちとマイキーが風を受けながら「俺たちのリベンジ!!」と格好付けて決意表明していた。本人たちにそういう意図は無いだろうが姉は悔しかった。自分もそこで格好良く決意表明がしたかったからだ。
そこで姉は、息を整えボサボサになった髪を手櫛で直しキメ顔のまま革靴のヒール音をわざと響かせるように屋上への一歩を踏み出した。
ヒール音に気付いた2人が振り返り驚きの表情に変わるのを見てご満悦な姉は肩にかかる長い黒髪を手で払い彼らの近くで足を止めた。ここで格好いい立ち姿になるのも忘れない。

「寂しいな。私は仲間外れか?」
「場地さん!?」
「ねーちゃん!」
「まさか……!場地さんも!?」

驚きだけだった彼らの表情が徐々に歓喜に染まっていく。

「そのリベンジ、私も参加させてもらうぞ。」






───2018年。都内某所の結婚式場。

「よお社長、遅かったじゃねぇか。」

披露宴会場に着くのが遅くなった姉に声をかけたのは、若者に大人気の有名YouTuberである明石春千夜だった。
実は姉、ゲーム会社を立ち上げ頭の良さを活かしたゲームシナリオを自分で書き、それを元に引き抜いてきた技術者たちと作り上げた大作ゲームが大ヒットして今では大企業の仲間入りを果たしていた。
明石兄妹は昔馴染みということでその会社のゲームの先行プレイ実況をしているため今でも関わりが多いのだ。
今現在でこそ姉はそのゲーム会社の社長の地位をほかの信頼出来る者に譲りまた違う会社を立ち上げているのだが、たまに依頼を受けゲームシナリオを提供していたりするため元会社と明石兄妹とは未だに縁があるのだ。

「ねーちゃん久しぶり!旦那は?」

昔から変わらない元気な千壽が春千夜の後ろから顔を出した。女の子にゲロ甘く強い姉は彼女によく慕われていた。

「一旦家に戻って着替えるって言うから待ってたけど遅いから置いてきた。」
「ひどっ!」
「あっちも置いてきたのかよ。あの武臣の股間に頭突きしたガキ。」
「ああ、母に預けてきた。」
「え、ねーちゃんの子そんなことしてたのかよ!?うわー見たかった!」
「親も子もイカれてやがるな。」

散々な言い草だが実際姉の子供は彼女によく似た性格をしていたため周囲をよく混沌とさせていた。
ちなみにその子は昔馴染みから密かに「小さい場地姉」や「場地姉2号」、「悪魔の血を継いだ悪魔」などと呼ばれている。

「おっ、社長じゃねぇか!コイツらにだけ挨拶して俺にはなしかぁ、悲しいぜ?」

突然ジャラジャラとうるさい音を立てる装飾品がまとわりついた腕が姉の肩にのしかかる。言わずもがな姉の知り合いの中でも屈指のクズ、明石武臣である。彼は金の匂いがする人物に敏感だった。

「……おい、ソイツの顔死んでるぞ。」

そして知り合いの中で唯一彼女に嫌われている男でもあった。

「ハッ!まずい、あれはねーちゃん得意の裏拳の構え!」
「祝いの場だから鼻血出させて紅白ってか?」
「武臣の鼻血じゃ何も目出度くねぇよ兄貴!」

姉は確かに祝いの場を汚い鼻血で汚すのは良くないと必死に理性を働かせて拳を収めた。

「シンイチロー!」
「あーはいはい、人のヨメに触っちゃダメだろ武臣。ほら向こうにワインあるぞ。」

ある時をきっかけに、姉にとって真一郎は武臣係という認識だった。真一郎自身その役割を受け入れている器のデカい男である。
自分からも武臣から距離をとる為明石兄妹と別れ、丁度自分の旦那である半間から式場に到着したと連絡が入り外に向かう。


「久しぶり、カメラは。」
「よぉー。もちろん持ってきたぜぇ。」
「よし、ヒナちゃんの花嫁姿でデータを全て埋めるぞ。」
「めんど。つーか、せめてタケミっちも写そうとしてやれよ。」

半間の言うことは最もである。
この夫婦、他人から見ると姉の方が常識がありそうに見えるが過去をやり直したこの世界線で言えば半間の方がまだマシな方である。ただどちらも一般のソレからは逸れていることは否めないが。

「ま、せっかくの晴れ舞台だしなぁ。いい写真残してやるか。」
「ああ、そうだな。」

カメラをしっかりと首にかけた半間と再び式場に向かった。

式の時間になり、教会の十字架の下で向かい合う2人を姉はマイキーの隣で見ていた。
姉とマイキーとタケミっち。3人で何年もかけて未来をいいものにしようと足掻きながらやっとたどり着いた最高の未来。
マイキーの頭にはこれまでの戦いが映画のように流れている。そして姉の頭には自分が格好つけてきた喧嘩のシーンが映画の切り抜きように流れている。
雰囲気は台無しだが頭の中だけの映像なのでセーフである。

牧師の定型文の問いかけに愛を誓い合うタケミチっちとヒナちゃんに、参列していた全員で突撃する。どさくさに紛れて姉の肩に手を回そうとした武臣の顔面にはもちろん彼女の裏拳がのめり込んだ。
今日の姉はポンコツさも格好付けも全て置いてきた。ポンコツさは少し健在ではあるが、この全員が笑い合える最高の未来にいつものキメ顔すら忘れてただひたすらに笑いあった。

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