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海列車完成の知らせを聞いた時、私はマリージョアに居た。前年の襲撃事件でなかなかマリージョアから離れることを許されず、あまり良い気分ではなかったから嬉しかった。漸く解放されて、真っ先に向かったのはセンゴクの元。海列車の製造を知ってからずっと頼み続けていた、ニューゲートとのW7への上陸。問題は起こしてくれるなよと深いため息と共に、W7に行くことを了承してくれた。

「あの男と行きたいのなら、全線開通後にすることだ」

問題はこの、政府のおじいちゃん達だ。センゴクよりももっと重たいため息を吐き出して、一つ条件を出してきた。

「私、行くからねってずっと言ってたのに」

全線なんて遠回しに言うけれど、要は司法の島への線路が開通してからにしろと言うこと。あの島で何か問題が起きた時、それを私のせいにして、大好きなニューゲートを大好きなトムさんの作った列車で、大嫌いな政府の島に連行するつもりなのだろう。

「行くなと言っているのではない」
「左様。一人でなら、今すぐに行って構わん」

一筋縄でいかないのはいつものことだけれど、彼らの比較的穏やかな物言いには理由がある。この八年、いつも以上に彼らのお願い事を聞いてきたからだ。この日の為だとちゃんと伝えていた。しつこいくらいに毎度伝えて、途中からはもう分かったからと言葉を遮られたけれどそれでも毎度伝えてきた。

「一人で行くのも嫌だ!」
「ならば反して行くが良い」
「あの男が大人しくこちらに渡るだけだ」
「ずるいよ!みんな、分かったって言ったもん!」
「お前の言い分は分かったというだけの事」
「許可した覚えはない」

言葉と言うのはとても便利だ。上手く使えば、後から意味を付け足すことも引くことも容易に出来てしまう。

「‥いいの?誓約忘れちゃってる?」
「誓約を破っているとでも?」
「お前の望み通り、行くこと自体に制限はかけていない」
「それにこれは処刑した男に関する事項。誓約を反故にした時点であの男の連行命令が下るぞ」

経験を重ねていけばいくほど、それは技術として身に付いていくらしい。彼らは、とても巧みに言葉を操るのだ。

「あと数年待つくらい、容易いだろう」
「‥待ったら、ニューゲートと行くからね」

おじいちゃん達が顔を見合わせ、目配せの後、重たい頭を縦に振る。

「好きにしろ」

みんな、計算通りだ。

「じゃ、判決の日に行こうっと!」
「何‥?」

司法の島への線路も繋がなくてはならないとトムさんから聞いた時から、こうなることはわかっていた。だから警戒されないよう、いつも通り駄々をこねた。

「貴様、端からその心算だったな」
「ニゴンはダメだよ、約束でしょ」

その場ですぐに言葉の駆け引きをできるほど口が上手いわけではないし、これまでは嫌なお願いも大抵のことには頷いてきた。でも、今回は八年も準備期間があったのだ。彼らも私が言葉で勝負に出るとは思わなかっただろう。

「‥こちらの要請は今まで通りに」
「ひひ、今度来る時はW7のお土産を持ってくるね!」

判決に口出しは出来ないけれど、交渉が成立した時点でトムさんの無罪は決まったも同然だ。決まった瞬間をお祝いすると、ずっと前から決めていた。何を持っていこうか。どうやってお祝いしようか。これからの月日はそんな楽しいことを考えて過ごそう。そう決めた。

ーーーー

随分と待たせたな。
お前に特等席を用意してる。
いつでも都合の良い時に来い。
アイスバーグもフランキーも
みんなお前達を待ってるぞ。


トムさんの声が頭の中に反響したのは、それから四年の月日が経ってからだった。ニューゲートの元へ行くことも、トムさんに会いに行けることも全部が嬉しくて、いつもよりずっとスピードを上げてニューゲートの元へ向かった。

「パスミー、くじらちゃんに会うのはいつぶりだったっけ」

遊びに行くのはマリージョアに行くより前だから、五年以上振りだ。新しい子が増えたかな、みんな大人になったかな。ニューゲートは、心変わりしてくれたかな。水平線から登るように姿を表したくじらちゃんは、夕日に身を染めて凪いだ海をゆったりと進んでいた。

「ニューゲート!」

甲板で迎えてくれた皆に両手を振り、いつもの所に座っているニューゲートの膝の上に飛び乗ると、落ち着けと大きな手に捕まった。

「海列車、見に行こうよ!」
「グララララ、その様子じゃ政府との交渉も上手くやったらしいな」
「ひひ、上手にやってきた!」
「自分で言ってりゃあ世話ねえな」

そう言って笑うニューゲートに長らくこの船に来なかった理由も聞かれたけれど、笑って誤魔化した。きっとニューゲートはその理由をわかっている。私が答えないであろうこともわかっている。だから特別なことは何も言わず私の頭に大きなその手を乗せて、よく来たなと受け入れてくれる。

「あとはニューゲートだけだよ。そろそろ行ってくれる気になった?」
「時間を置いても変わらねえモンもある」
「トムさんがね、特等席用意してくれてるって。みんな楽しみに待ってるって!」

一緒に行こうと手を引いても、立ち上がってはくれない。何年も同じお願い事をニューゲートにするのは初めてで、戸惑いのようなものが鳩尾あたりでちゃぷんと音を立てる。

「ニューゲート、」
「聞けねェ頼みだな」
「‥ニューゲートのわからずや!あほんだらのおだんごなす!もうない!」

ニューゲートが行きたがらない理由は知っているけど、そんな理由はもう聞き飽きているくらいだ。早く腰を上げてほしかった。絶対に一緒に行くんだから。絶対諦めないんだから。