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「ナマエが来なかったこの数年、何人か息子が訪ねてきた。内容はバカみてェに同じよ‥ナマエと一緒に島に行けねえか、とな」
おれ達の中でも度々出る話ではあったが、オヤジに話をしに行った奴がいるのは知らなかった。それもその筈、オヤジは遅かれ早かれおれ達の誰かが言いに来るだろうと踏んでいて、来た奴に同じ問いかけをするため、他言するなと伝えていたという。
「随分ナマエに絆されているらしいな。想像以上の奴が訪ねてきやがった」
何度も同じことを聞くのは性に合わないと愚痴をこぼす表情は実に嬉しそうで、愚痴と言うよりもまるで惚気のようだ。
「来た奴には、お前にしたのと同じ問いかけをした。返答の内容は正解も間違いも無ェ。ただ、あいつの立場を考えて諦められるような覚悟なら、行かねえ方が良い」
ナマエがあまりにも楽しそうに話すから、行ってやりてえと思った。それが悪いわけじゃねえ。むしろオヤジだって思っていることだ。
「サッチに始まりジョズ、ビスタ‥そしてマルコ。あの日、ナマエの能力と誓約に触れたお前たちは、見事に同じ答えだった‥!」
船に乗る全員が知っているあいつの能力や政府との取り決めは表面の一部でしかなく、政府が隠そうとしているあいつの能力と理不尽な誓約があると聞かされたのは、随分前にナマエが珍しく熱を出した時だった。おれを含め五番隊までの隊長がナマエに呼ばれ、全員に話せるほど軽々しい話ではないからと仲間であっても他言はしないことを約束していくつかの誓約とあいつの能力をオヤジの口から聞いた。
「あいつがあの日お前達を選んだ理由を、何年も経った今になって肌身で感じることになるとはな」
面白れェことも起こるもんだなと豪快に笑うオヤジは、どこか嬉しそうだ。
「オヤジ、おれの覚悟は足りねェか?」
「‥誓約を一つ、知ることになるぞ」
間を空けずああと答えたおれに、オヤジは酒を一杯注いでくれた。
ナマエのことを一つ知ることは、同時におれ自身があいつの枷として重くなっていくことを指している。あの日、ナマエのことを聞いたおれ達四人に、あいつのことで自分を犠牲にしない覚悟を、死なねェ覚悟を持てとオヤジは強く言っていた。あいつが自分のせいだと思わないで済むようにしてほしいと、頭まで下げて。
「そっちも忘れちゃいねえよい」
覚悟の為に、グイ、と飲み干して姿勢を正す。それを合図に、オヤジは話を続けた。
「ナマエがおれと上陸できる島はごく僅か‥その一つがこの、W7だ」
机に置かれたエターナルポースを触りながら、オヤジは誓約の一文を空で言う。
エドワード・ニューゲートとの島への上陸は、例外を除き一切を禁ず
オヤジの部屋に置かれているたった数個のエターナルポースは、全てナマエとの上陸が許された島だと言う。ナマエが政府と誓約を交わしてから一緒に行けた島は、魚人島に一度きりだそうだ。
「そんな誓約まで‥ありゃオヤジに関する決め事ばかりじゃねえか」
「譲って欲しいか?」
「はは、いらねえよい」
譲ってくれと言ったところでオヤジにその気はないだろうし、万が一譲ってくれたとしてもきっとオヤジの代わりになれなかったと痛感するのはおれの方だ。
「今までナマエがオヤジとどこかの島に行きてェなんて言ったこと無かったから珍しいとは思っちゃいたが、あの島が例外になる理由ってのはやっぱり‥」
「ああ。あの島は他のどの島より政府に都合のいい材料が揃ってる」
ナマエが最も好きな島。海と共生する島。あいつの愛船を造った造船技師、トムのいる島。
「何より、海が荒れても納得できるほどの高潮が毎年襲う島だ」
「それじゃあナマエは‥」
「ナマエの船を造った男の夢だというからな‥海列車は良い餌になる。あいつの能力の底を探ろうと、奴らは必ず仕掛けてくるぞ」
ナマエの心が怒りや悲しみに染まれば、海は大きくうねりをあげるとオヤジは言った。
「チッ‥!政府の野郎‥!」
「何が起きても揺るがねェ‥あいつ自身にその覚悟がない限り、おれは行く気はねェ」
話は終いだと、瓶を傾けたオヤジは残りの酒を飲み干した。
「今度の島のことは他の三人にも話す。サッチが出てきたらおれの部屋へこいと伝えろ」
「分かった。‥話してくれてありがとう、オヤジ」
いつもは静かなドアが、キィ、と啼く。扉をそっと閉めると、柄にもなく緊張していたのか身体の力がするりと抜けた。
「はは、ダッセェ‥」
オヤジは、ナマエを丸ごと受け入れて、あの小さい歩幅に歩みを揃えるようにいつだって隣にいる。
「親の背中が、でかすぎんだよい‥」