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「あっ!!」

ルフィ達のいる特別ルームに近づくと、岩みたいに大きな背中が見えた。フランキーの肩から飛び降りて一目散にその背中にしがみついたらびっくりさせてしまったみたいで、ビュンッと高く高く飛び跳ねる。私だよ、と横から顔を覗きこめば、この変わらない姿に目を丸くしながらも嬉しそうに鳴き声を上げてくれたヨコヅナが、ピョンっと今度はふわりと飛び跳ねた。

「急になんらい、うるさいねえ‥」

中から聞こえるココロちゃんの声。ヨコヅナの隣から窓枠に顔をはめれば、いの一番にチムニーが声を上げた。

「今までどこにいたの?」
「チムニー達は?」
「あのねえ、すっごいんだよ!」

バーンってなってビューンってなって、と先の大冒険の様子を、目一杯身体を使って話してくれるチムニー。一緒になって同じように動かしてみれば、兎にも角にも楽しかったらしいことはよく分かった。

「ナマエ見て!!ミカンの木が無事だったのよ!」
「ひひ、ナミ嬉しそう」

何人か足りないしルフィも起きてないけど、何故かずっとミカンの木にしがみついているナミも、ロビンの護衛をしっかり務めたというチョッパーもみんな仲間が戻ってきて幸せいっぱいという感じだ。

「アイスバーグのお守りは終わりかい?」
「ひひ、託してきた。今度はフランキーのお守り」
「フランキーってお前さん、そのお守りの相手はどこいったんらい」
「あれ‥一緒に来たのに」
「アウッ!スーパーか!?」
「あ、きた」

どこで合流したのか、キウイとモズも引き連れてバーンと登場したフランキー。来たよ、とさも自分が連れてきたみたいに胸を張ると、相変わらずらね、とココロちゃんの年季の入った笑い声が響く。

「ーある戦争を繰り返す島に‥」

入ってきた早々徐に話を始め、気に入ったやつらに自分の造った船に乗ってもらいたいと頭を下げるフランキーの言葉に、素直に両手を上げて喜んだルフィの仲間達。肝心のルフィは寝ていたけれど、フランキーの話を最後まで聞いた彼らのおかげで、部屋の中はお祭りのように賑やかになった。

「トムさんもお前も、結局同じ職人なんらね‥んががが」
「今なら、胸張って死んでったトムさんの気持ちが分かる」

そう呟いたフランキーを見て、私はココロちゃんにさっきのアイスバーグの話をした。二人ともちゃんとトムさんの背中を見て育ったんだねと、今度はココロちゃんと顔を見合わせて笑った。




話が一区切りついたところで、フランキー同様晴れやかな表情のロビンの元に寄る。ズボンの裾をちょいと引っ張ると、彼女は少し戸惑いながらも私の前に腰を下ろして、何かしらと答えてくれた。

「アイスバーグのこと、助けてくれたんだね」

フランキーから、彼女がとどめを刺さなかったと聞いていた。そして、それを政府には言わないでいてくれたと聞いた。

「政府に知られてたら、アイスバーグもどうなってたかわかんない。」

それに私も。大事な人がまた‥と思うと、それだけで心臓が潰れてしまいそうだ。力も、どうなっていたかわからない。

「あと、スパンダムもやっつけてくれたって」
「‥あの長官のことを知っているの?」
「ひひ、知りたくなかったけどね」

ともあれ役に立てたのなら良かったと笑うロビン。そして、出来るならアイスバーグ襲撃のことを許してほしいと頭を下げた。

「全部自分のせいだなんて、傲慢だよ」
「え‥?」
「わっしょいわっしょいなんだよ」

アイスバーグのことも、私が謝られることでもなければ事情を知って彼女自身の背負うものも分かってるのに責めるなんて、考えも浮かんでいなかった。そもそも、私だってあの場を離れたのだから。そう、全部わっしょいわっしょいだ。

「わっしょい、ロビンもやって」
「ふふ、こうかしら」

わっしょい!と両手を目一杯伸ばす私に合わせるように、ロビンもすらりと両手を伸ばす。おまけに床から生えた分身みたいな腕も六本、楽しそうに揺れている。波に揺れる、線路みたいだ。

「あ!」

そうだそうだ、一番大事なことを聞き忘れていた。

「特等席、座れた?」

トムさんが用意してくれていた、特等席。
司法の島へ行くというロビンに半ば無理やり教えた、大事な席。ロビンはその席には座らなかったと言った。それでも乗り心地は悪くなかったらしい。

「望まない目的地だったけれど、列車に乗っている間は何故かすごく落ち着いていたわ」

きっと素敵な列車のおかげねと言ってくれたロビンの言葉に、自分が褒められたみたいに嬉しくなる。教えてくれてありがとうと柔らかく微笑んだロビン。ロビンは言葉を使うのが上手で、表情を隠すのが上手で、だけど感情を殺すのはあまり上手じゃない。私はそんなロビンが、すごく好きだ。言葉遣いも仕草も大人びているけれど、時々顔を覗かせるそのあどけなさがとっても素敵だと思う。この島を出ると決めた時の彼女の決意を持った複雑な笑顔では無くて、一つの感情だけがありありと表現されたその表情に私も嬉しさでぽかぽかになるから。

「あなたは、あの列車を造った人のことが好きなのね」
「うん、大好き!」

言葉に出した分だけ、またトムさんへの感謝と大好きが積もる。そうすると自然と私の頬も緩くなって、それが伝染するように話をした人が笑顔になってくれる。トムさん、私ね。パスミーの名前の由来を聞いた時、トムさんの分身みたいな船だなあって思ったんだよ。いつも笑ってるトムさんを思って私は笑顔になるし、トムさんの教えてくれたことがみんなを笑顔にしてくれる。トムさんはやっぱり魔法使いだね。

「お?」

笑っていた時間も束の間、衝撃音と共に壁は崩れその瓦礫の上に見える人影が一つ。ルフィを守る姿勢を見せるサンジ達も軽々飛び越え、騒ぎも気にせず眠りこけるルフィに、渾身の拳骨が叩きこまれた。