04
「さ、行ってこい」
マルコの背中から飛び降りる。私の着地音に、船の上にいた海賊たちは全員こっちを向いた。ちょっと登場が派手過ぎたかもしれない。
「おい、誰だこのガキ。不死鳥のマルコが来たんじゃねえのか」
「いや、確かに見たんですが‥」
「マルコは上だよ、攻撃はしないと思うけど。‥あ、その剣ちょっと借りるね」
ドレッドヘアーの男をお頭と呼ぶこのひょろ長の男の腰にぶら下がっている剣を引き抜いて、マストに突き刺す。あまり手入れされていない剣だけれどぼんやりながら顔が映った。よかった、あまり乱れてない。帰りはゆっくり飛んでもらおう。
「どうもありがとう。えーと、さっき打ち込んでた大砲ください」
「おいお嬢ちゃん、さっきからマイペースなのは良いけどなあ。おれ達は白ヒゲに用事があるんだよ」
どうしようね、マルコ。上を見上げると、私の気持ちが伝わったのかマルコが翼を大きく動かした。とりあえずエースにどうにかしてもらおう。
「わー、助けてえー」
見事な大根ぶりを見せる私の声に、苦笑いしながらエースが降りてきてくれた。
「悪いな、お遊戯会の稽古が足りねえみたいだ」
そう言いながら彼の炎はたちまち大砲の周りを囲って、敵が大砲に近づいたり手出しすることはできなさそうだ。
「エース、凄いことに気づいた」
「ん、どうした?」
「これ、パスミーに乗らないね」
よくよく考えたらパスミーにこんな大きな大砲は無理だ。‥そうだ、くじらちゃんに乗せてあげよう。もしいらないと言われたら、誰かにあげよう。大砲を囲った部分をエースの炎で船から切り離してもらう。
「何してんだてめェ!」
「はっはっはあ!大砲は頂いた!エース、それを守ってね。マルコ、大砲引っ張ってー!」
私の声を合図に、マルコはエースと大砲の乗る千切れた船の縁を掴んで、船から距離を取った。
「‥おいガキィ‥、何してくれてんだァ‥?」
「そもそもお前みたいなガキ一人でこの数を相手にできると思ってんのか」
「おれ達はファング海賊団だぞ!!」
「‥‥‥誰?」
牙を剥き出しにして、やれ!と声を上げた船長らしき人の言葉と、マルコの翼が広がる大きな音とが重なって、戦闘開始の合図に代わる。
「もういいかーい?」
「はあ?」
「まーだだよ。」
逃げようとするお馬鹿さんに、尚も攻撃をしてくるお馬鹿さん。この海賊はお馬鹿さんの集まりらしい。私は手を出さない。特に動くこともない。ただ鬼ごっこのように、伸ばされた手に触れさえしなければ、勝手に自滅してくれるお馬鹿さん達だから。
「お、お頭‥!こいつ‥、!」
「もーいいかーい、」
無駄な手出しはしない。
「そうだ、ちげえねえ‥!っ、あいつだ‥!」
いかにも古株そうなおじちゃんが船長に震えながらに声をかける。遊びは好きだけど、相手が弱いとだんだん面倒になってくると言うのが正直なところ。それに、誰も答えてくれないんだ。私、いつも一人遊び。
「ま、待ってくれ!おれ達は白ひげを狙っただけで‥あんたに、あんたに攻撃したんじゃねえんだ‥!」
時々出会う、私の事を知ってくれている他人。じゃあ尚の事、さよならしなくっちゃ。
「こんなガキに何言ってんだ、怖気づく相手じゃあねえだろ!」
「もういいかーい!」
それを聞いた何人かの顔が一気に青ざめ、残りの大多数は目に輝きを灯した。そろそろ、飽きてきちゃった。誰も返事してくれないし。もう、いいかい?
「ニューゲート相手なら、奇跡が起これば倒せたかもね。」
言葉の終わりと同時に船も終焉を告げる。
振り上げた左手は耳を裂くような破壊音を上げて大波を作りだしていた。ちらりと振り返れば、くじらちゃんも水浴びを存分に楽しんだようだった。‥しまった、怒られる。
「エース、大丈夫?」
千切れた船に足をつけエースに声をかけると、ハッと現実に戻ってきた様子で、再度目の前の光景を目の当たりにしてすげえなと笑った。まるで何も無かったかのように静かで、自分の足元にある船の残り以外欠片一つない海。私はまたセンゴクに怒られやしないかと言い訳を考えていた。ニューゲートがやったことにしてくれないかな。でも、ブッテキショーコは今回だって何もないから大目に見てくれないかな。
「ナマエ、帰るぞい」
その声に上を見上げると、マルコがすぐそばまで降りてきていた。いつもの調子のマルコと、まだぼーっとしているエース。
「怖い思いさせてごめんね、エース」
「いや、驚いただけだ。良いもん見させてもらったよ」
精一杯笑って見せようとしてくれるエースの優しさに、私は頭を下げた。あれを見てなお私の頭を撫でるエースに、どうしようもなく嬉しくなってしまったのだ。ニューゲートの息子は皆、同じように優しい子。皆、ニューゲートと同じように私の頭を撫でて、すげえなと目を輝かせてくれるのだ。
「終わったよー」
船に戻ると、びしょ濡れの息子達と身体を拭いてもらっているニューゲートが出迎えてくれた。貰ってきた大砲をくじらちゃんに上げると、こりゃ上等だと何人かが早速設置しに行った。
「派手にやったな」
「ナマエ、おれの一張羅が台無しじゃねェか!」
「何言ってんだ、おめえが一番喜んでたくせによ」
「そうだぜ。お前がやったわけでもねえのに、どうだ見たか!なんて興奮して」
「ははっ、興奮しねえ奴がいたらそいつはバカだな!」
皆、興奮気味に再現して楽しんでいる。やっぱりお前は最高だぜ、なんて私を持ち上げてくるくると回ってみたり、頭を撫でたり、まるで誕生日のお祝いみたいだ。
「おい、マルコとエースは近くで見てたんだろ?どうだった!」
「ああ‥すごかった」
「口の悪さも相変わらずだったよい」
にやりと笑うマルコの言葉に、皆が一斉に噴き出す。何て言ったんだとか、そんなどうでもいい事を根掘り葉掘り聞いて、エースも一緒になって私の言葉を真似してる。
「おれに水をぶっかけるなんて、いつからそんなに偉くなったんだ、ナマエ」
「やだなあ、私に勝ってから言ってよね」
「なんだと?」
「遊んであげても良いよ」
「生意気だな」
「‥」
以前にも一度同じやり取りをしたあの日を懐古して、なぞるように同じ言葉を並べ、二人で笑う。急に何を言い出すんだと肝を冷やした彼の息子たちが、胸を撫で下ろしながら宴の続きだと、私にオレンジジュースを差し出した。
「なあ、さっきのやり取りした日の話聞かせてくれよ」
乾杯をして、すぐに私の話を聞きに来たエース。折角だから詳しい事情も話してやれとニューゲートに言われ私が頷くと、また皆の耳もこちらに傾いた。