01
ニューゲートの船に手を振ってから十日程。通りがかりの大きな船に手を振ったばっかりに保護されかけたり、迷子の船を送ってあげたり、お金を調達するために悪い噂ばかりの海賊を海軍に引き渡したり、イルカの群れと競争したりしながら、久しぶりの砂の地へと船を進めていた。
「コブラ、元気かなあ」
カバンに入っている水滴の入った小瓶を太陽に翳しながら、あの日の声の理由を考えていた。時間があったらこちらの地へ足を運んでほしいと、その言い回しが何とも彼らしい。緊急の時はすっ飛んで来いと言うように指切りをしているから、彼の言う通りパスミーの好きな速さで行くことにした。パスミーが好きと言うことは勿論私もそのスピードを心地よいと思っていて、それはつまり晴れた日の昼下がりには格好のお昼寝タイムに変身すると言うことだ。
「‥―い、起きろー」
真っ暗な視界の奥底で誰かの声が聞こえて、次第に自分が寝ていたのだとぼんやり認識することになる。重たい瞼を押し上げれば、隙間から一気に入り込む白い光。日差しとは裏腹に優しくそよぐ海風は、私を起こす彼の帽子の紐をひらりと揺らした。
「んー‥、あー‥おはよう」
「随分不用心な旅だな」
私の船の隣にストライカーをぴったりつけて、にっこりと笑ったその男。船の上で転がる小瓶を摘むように拾って私の掌に乗せてくれたその男は、エースだ。
「あ、エースだ!」
「おう‥?」
時間差で目の前の男をエースだと認識して、想像よりも早い再会に少し驚いている。そのせいでいつもよりも大声で名前を呼ばれたエースもまた、驚いたような反応を見せた。
「あ、ごめんね。びっくりしてつい」
「見慣れた小舟が見えたから来てみたが‥かわいい寝顔まで見れて、来て正解だったな」
冗談ぽく笑う彼はちゃんと周りも見えているようで、心なしか胸のつかえが取れた気がした。あの日は私も人のことが言えなかったし、一人になって多少なりとも整理できたこともあったんだろう。
「あ、よろしく!」
「お、今度はどうした?」
「ハルタが、エースに会ったら伝えてっていうから」
忘れないうちに、とそのままよろしくという言葉を伝えれば、徐にエースは北の空を仰ぐ。そうして、一息はいた後、私の頭に手を置いて、心配ありがとうと言葉を紡いだ。
「私じゃないよ、ハルタがね。あとマルコとビスタと‥皆が言ってたよ」
「はは、皆がな」
「私は会えたから、よろしくって言わなくていいね」
「違いねえ。ナマエはどこに行くんだ?」
砂の国に向かっていることを告げれば、どうやら彼の目的地も同じアラバスタだと言う。ティーチをその地で見たと言う情報があったかららしい。そう言ったエースの声は、私に気を遣っているのかいろいろ押し殺しているようにも聞こえる。
「奇遇だな。急いでなけりゃ一緒に行くか?」
「行く!」
私は二つ返事で言葉に返した。いくら時間が経ったとはいえそう簡単に燻りが消えるはずもない。当然だ。そのことを考えれば、嫌でも頭の中に複雑な感情が渦を巻くんだろう。私に心配させまいと笑顔を浮かべるその表情が、先ほどとは違って痛そうだ。ちょっとでも、私にも分けてくれたらいいのにな。
「アラバスタまでは私がいるし、怖いものなしよ」
力のこもる大きな掌を、キュッと掴んでニッと笑って見せる。その拳をそっと撫でて、大丈夫だよと声をかければ、拳がそっと開いて解いたその手で私の手を握り少し力の抜けた柔らかい笑みを返してくれた。
「そいつはありがてえ」
エースと二人。しばらくは賑やかな旅になりそうだ。各町の名前はあまりわからないが、砂漠を抜けたところに栄えた街があったはずだ。エースの船を先導しながら、私は砂の地に足をつけた。