02

賑わう市場の物珍しい売り物に興味津々な私と、色んな店に顔を覗かせるだけのエース。千年生きられると言う黄金のリンゴをおじさんが売りつけようとしたのを、エースは興味がないと言った。お嬢ちゃんは、と言われたけれど私にそれを聞かないでくれよと無言でおじさんに手を振ると、エースは苦笑い。

「エースがそういう顔しなくていいのに」
「お前は慣れてるんだろうが、どうもな」
「本当に優しいんだから」

エースがあちこちの店の人に声をかけている間、彼が逸れないように手を繋いで辺りの気配に目をやった。結構色んな人がいるもんだ。エースの背中をじっと見つめるあの男、正義を背負ったあの男。ふうん、面白くなりそう。

「ナマエ、そろそろだな」
「ん、ああ!待ってましたあ」
「ご飯にしよう!」「飯にしよう!」

二人の声が綺麗に重なり、ついでに私のお腹もぐうと鳴る。そうと決まれば向かう足は一気に軽くなって、お店に入るなりエースはものすごい量のご飯を頼み始めた。

「いらっしゃい。」
「おじさんおにぎり!」
「おれはとにかく肉と飯をくれ」

メニューも見ずに注文をしたエース。支払いは自分だからって半端ない量を頼んでいる。ずるくない、ねえずるくない?私も全部と頼むと手を挙げると、お店のおじさんは驚きながらもすぐに優しく笑った。

「お嬢ちゃんはそんなに食えないだろ。大丈夫だ、メニューにはねえがおにぎり作ってやるよ。」
「本当?」
「待ってな、先に作ってやる。」
「やったあ!」
「よかったなナマエ」
「うん、おじさんありがと!」

すぐにおにぎりが出てきて、エースにもう食べていいかと目配せすると、先に食えと笑った。両手の皺を勢いよくパチンと重ね合わせて、頂きますとおにぎりにご挨拶。おじさんが私に作ってくれた大きなおにぎりに、遠慮なく齧りついた。ほっぺについたご飯粒をエースが教えてくれて、口元を擦るけど取れない。反対だ、と指を伸ばしたエースの指先についた米粒を、手を引っ張ってぱくりと食べた。

「兄ちゃん、おまちどーさん」
「お、こりゃ美味そうだ」
「にしても、仲のいい兄妹だな。」
「ひひ、オヤジのおかげかな!」
「違いねえ」

立派なオヤジさんだなと笑ったおじさんは、おれにも子供がいるからよと話をしてくれた。でれっとした顔がニューゲートと少し似ていて、オヤジは皆こんな顔をするんだなとなんだか面白い。

「この街はいい所だね。海賊だって来るだろうに、皆生き生きしてる。」
「そりゃあクロコダイルさんのおかげさ。」
「クロコダイルってあの、七武海か」
「そうさ。あの人がこの街に来てから、悪さをする海賊たちはすぐにあの人が始末してくれる。おれたちも安心して暮らせてるのさ。この間もな、」

おにぎりを食べながら話を聞いていると、横からバン、と音がした。エースが肉を持ち上げたままご飯に顔を突っ込んで動かなくなったのだ。一気に顔が青ざめるおじさんは、エースに心配そうに声をかけている。

「おい、兄ちゃん大丈夫か!」
「大丈夫、寝てるだけだよ」
「寝てるってお嬢ちゃん‥食ってる途中でいきなりだぞ!砂漠のイチゴでも食ったか?!」
「いちご?私は食べてないよ。あ、お肉一口もーらい。」

フォークに刺さったままのお肉をぱくりと口に入れてみる。大抵、こう言うときは起きるんだけど、起きない、と。

「エース、エース起きなよ。ご飯顔にいっぱいついてるよ」

んー、これもダメか。ニューゲートってばどういう育て方してんだ。もう怒った。

「エースってば!」

バコン、と頭を引っ叩く。勢いをつけすぎて机が嫌な音を出す。エースの身体の下から机を覗くと、少しひびが入っている。しまった、エースはこのまま寝せておこう。

「ぶほっ?!」
「うわ!!生き返った!!」
「わ、エースもっと寝ててよ!」

身体を起こしたエースはまだ寝ぼけているようで、近くのお姉さんのスカートで口を拭きながら、周りの騒ぎに目を向けている。

「‥ふう、いやあ参った。‥寝てた。」
「もう起きちゃったね」
「起きちゃったって‥お嬢ちゃん物凄い力で殴ったぞ」
「ひひひ」

お客さん皆がツッコんで、エースはまた寝て、またツッコんで。

「えらい兄ちゃんだな」
「ひひ、オヤジの自慢の息子だよ!みんな面白いんだよ」
「はは、そうかい」
「ところでおやっさん、」

エースが何か尋ね毎を始めると同じ頃、私は最後のおにぎりに手を伸ばす。
んー、おじさんのおにぎり美味しい。

「よくもぬけぬけと大衆の面前で飯が食えたもんだな。白ひげ海賊団の二番隊隊長がこの国に何の用だ。ポートガス・D・エース」

胸元に葉巻を沢山つけたおじさんは、お店の入口で彼の名を口にする。その声に振り返った私は最後の一口を頬張りながら、おじさん自身の紹介がなされるのを大人しく待つことにした。