03
その人がエースの紹介を済ませた所で、店内は先ほどと違うざわめきが充満した。お店のおじさんもまた血の気が引いている。名前だけなのに偉くなったもんだ。
「弟をね‥探してんだ」
「あ、そうなの?」
「ずっと店回ってたろ。さっきおやっさんにも尋ねてたの聞いてなかったか?」
何にも聞いてなかったと笑う私に誰かを重ねたように、そうかと頭を撫でるエース。兄貴っぽい。でもそうか、ここでルフィに会えるかもしれないんだ。楽しみだなあ!
「!!お前は‥!」
ぶらぶらと足を揺らす私の姿にピントを合わせたその葉巻おじさんが、目を見開いた。私のことを探していたとは思えない。偶々会った私を認識できるなんて、海軍も質が良くなったのかな?それより待てど暮らせどおじさんの自己紹介が始まらないのはどうしてだ。
「私、おじさんのこと知らないよ」
「で、おれはどうすりゃいい?」
余計なことは喋るなと言わんばかりに言葉を遮って会話を続けるエースは、大丈夫だと私の手を握ってくれる。大人しくエースに視線を戻すと、また話が始まった。お店のおじさんにも大丈夫だよと声をかけてみるけれど、最早私の声は耳に入らないらしい。海兵だという分かりきった情報を漸く名乗った海軍のおじさんも、エースのことを見逃すわけにはいかないそうだ。海賊だから、と言うなら私は関係ないか。残ったオレンジジュースを飲み干して、ごちそうさまと静かに手を合わせる。
「つまらねえ理由だァ‥楽しくいこうぜ」
「ロケット―オ!」
ドカアンと盛大な破壊音と一緒に、エースや葉巻のおじさん、ついでに私まで見事にすっ飛んだ。それこそ、何軒か壁を壊しながら。咄嗟にエースが私をかばってくれたから、痛くなはい。ただ、あまりにも突然の出来事にちょっとびっくりしている。
「んのヤローが‥どこのどいつだ。ナマエ、ケガねえか?」
「うん、エースのおかげ。ありがとう!」
「よかった。あ、どうもお食事中失礼しました」
「しました」
ぺこりと頭を下げるエースを真似て、呆気にとられている人たちに一緒に頭を下げつつ、お店から続く穴を一つ一つ潜っていく。
「ふざけやがっ‥」
「おい、ル・‥」
「麦わらァア!!」
後ろから見れば、葉巻のおじさんが将校クラスの人だとすぐに分かった。正義を背負うのは、海軍将校だけだからだ。海軍の人が話している間も、食べる手を止めないルフィ。痺れを切らして食べるのをやめろと声を荒立てられてもその手が止まることはなく、あの時のケムリ!!と、口いっぱい頬張りながらもごもご返答したルフィ。それどころかさらに手を速めている。倒れたままのエースにも気づいていない様子のところを見れば、きっとケムリの影にかくれた私にも気づいていないのだろう。残りを一気に詰め込んで、ごちそうさま、と律儀に挨拶を済ませると一目散に外へ走っていった。
「あ、行っちゃった」
「くっ、待てよルフィ!!おれだあ!」
嵐が過ぎた後は、いつもそうだ。少なからずの爪痕と静けさを残していく。
「‥食い逃げ‥‥」
「おじさん、壁とかお皿とかごめんね。」
「い、いや‥お嬢ちゃんが謝ることじゃあねェけどよ」
「皆の分のご飯とお家の修理のお金、これで足りるかな」
「なっ‥!」
来る前に海賊を捕まえておいて丁度よかったな。いやいや多すぎるいやいや貰ってと面白いやり取りが少し続いて、それならと袋の中からきっちりご飯代だけ持っていこうとするおじさん。その温かい手をぎゅっと握る。
「おじさん、エースのこと心配してくれたから。それに、おにぎりもとっても美味しかった!」
「それでも、こんなにはもらえねえよ‥!」
「優しくしてくれた人にはなんでもしてやれって、ええと‥白ひげもね、言ってたよ。」
「‥お嬢ちゃんも白ひげの一味なのか?」
その言葉に否定も肯定もしないけれど、ひひひと笑えば、漸くお金を貰ってくれた。
「本当にありがとう、ごちそうさま!」
おじさんに目一杯手を振れば、今度からはただでご飯を作ってくれると叫ぶ声が聞こえた。この国はいい人がいっぱいだ。きっと、国王様のおかげ。きっと、クロコダイルさんと呼ばれる英雄よりも、ずっと。
「さーて、と。エースはどっちかなあ」