04
海賊と海軍が鉢合わせたのだ、騒ぎが大きくなっている方に向かって走っていけば目的の人までは必然的にたどり着く。エースを探すのに、そう時間はかからなかった。
「エース、待ってよー」
「わりいな、置いてっちまって」
麦わら帽子を追いかける彼の隣に並んでおじさんにお金を置いてきたことを言えば、おれが奢ってやるはずだったのにすまねえなとエースは笑った。
「それより、ルフィだったね!」
「ああ、会えた。言ってた通りだ!」
騒ぎの中心に向かって走りながら、ルフィとの再会を期待して思わず頬が緩む。それは私だけではなくて、むしろ私以上に嬉しそうな笑みを浮かべながら、先にいるであろう弟の姿を追うエース。右側から麦わらの一味がいたという声が聞こえて、お互い顔を見遣り、ニッと口角を上げた。
「あいつ、追いつかれてんじゃねえか!」
やっと見つけたルフィの背には、真っ白な煙が彼の背中を捉えようと迫っていた。その煙を先導する握り拳がルフィに届くよりも先に、その拳にエースの陽炎が衝突した。
「やめときな、お前は煙だろうが、おれは火だ。おれとお前の能力じゃ勝負はつかねェよ」
「エース‥?!」
「変わらねえな、ルフィ」
海に出てから初めての兄弟の再会だ。呑気に会話をする間にも海軍は続々と集まってきている。私はそれよりも海兵さんが煙だったことに驚いている。
「ねえエース、煙の能力だって!おじさんの能力だからグローブが煙吐いて飛んでたんだ!」
格好よく登場が決まったエースのベルトの端を後ろからちょいちょいと引っ張る私に、エースはあの時のように見せ場をくれよといたずらっ子のように笑った。エースの足元に張り付いている私にも海軍と海賊たちの視線がぽつりぽつりと集まっている。その中で真っ先に声をあげたのが、ルフィだった。
「お前、ナマエか!なんでエースといるんだ?」
「ひひ、久しぶりだねルフィ」
あのちびっこは誰だ、そもそもエースってのは誰だとがやがやし始める背中側と、いつでもその一歩を踏み出せる準備の整っている正面の海軍と。間に挟まれているエースは、私を自身の方に少し寄せて後ろを振り返った。
「コレじゃ話もまともにできねえな。こいつらはおれが止めといてやる。行け!」
「ルフィ、またね!」
ルフィとのお喋りまであと数分となって、エースの能力と煙の能力がぶつかるまではあと数秒だ。いよいよ楽しくなってきた。
「ナマエ、相手も能力者。お前の能力が怖がると厄介だ、攻撃されねえよう離れとけ」
大丈夫だと帽子の鍔を指で押し上げたエースの口角が、太陽の方に向かっている。その背の誇りも、彼の言葉に力を添えるように太陽の光を一身に浴びて。私も言われた通り建物の陰に移動して、大人しくその様子を見ることにした。そうして始まったエースとケムリさんの戦いは相性が良いと言うか悪いと言うか。なるべく技が見たいと思っていたけれど、希望も虚しく拮抗するせめぎ合いもすぐに幕引きとなる。大きな炎を立ち上げたエースは、追いかけるぞと私を肩車して海岸まで一気に加速した。肩車なんて何年ぶりだろう。嬉しくて、エースの頭に乗るオレンジ色の帽子を拝借。
「‥エースの帽子、くさい」
「くさくねえ」
そう言うなら返せよ、と髪の隙間から見える彼の耳がちょっと赤くなっている。私は彼の言葉は聞かなかったことにして、嬉しさが零れ落ちる自分の顔をお天道様に見えないよう自分の頭に深く被せ隠した。
・
「あ、あれじゃない?あの船」
海岸に出て辺りを見回せば、ひつじの船首をつけた小さな船が一隻すぐに見つかった。
「私のパスミーよりストライカーの方が小さいね。繋いで、引いてあげる。」
「お、悪いねえ」
ランナバウトという小型ボートとよく似た造りの、広々一人乗りに仕立てて貰ったパスミー。そのサイズもあっていつもは繋がせてもらう側だから、誰かの船を引いて走るのは随分久しぶりだ。片手で数えるほどしかないパスミーの先導を楽しみだと、私の欲しい言葉を真っ直ぐに返してくれるエースはやっぱり優しいなと思う。いいとこ見せてあげようね、パスミー。縁を撫でて、私はすうっと大きく息を吸った。
「へえ、こりゃ快適だな」
「もうちょっと早く走れると思ったんだけど‥」
「いや、十分だ」
ストライカーに飛沫がかからないように。それでも髪を靡かせ風を切る速度でパスミーが海の上を滑るように進んでいく。帽子を押さえながらその風と潮の香りを楽しむように目を閉じたエース。ひつじ船と並走するように減速すると、上から楽しそうな話し声が降ってくる。それに気付いてゆっくりと目を開いたエースは、パスミーに手を伸ばしてお礼の言葉をかけてくれた。
しきりに聞こえる昔話と希望的観測がたっぷりのルフィの説明に耳を傾けていたけれど、そろそろ乗り込みますか、と顔を見合わせひつじちゃんの船へと飛び移る。
「誰が勝てるって?」「誰がちびだって?」
「「ルフィ」」
ルフィが腰かける縁にスタンと着地したエース。高く飛び過ぎた私は、エースの登場にひっくり返ったルフィのお腹めがけて着地した。