05
「あ―こいつぁどうも皆さんうちの弟がいつもお世話に」
「「「「や、まったく」」」」
エースの挨拶に、素直な言葉を返すルフィの仲間たちが面白くて仕方ない。
ロジャーが被っていた、シャンが被っていたそれをルフィも同じように被っている。うん、やっぱり似合う。心の中だけでは収まりきらない嬉しさに、ルフィの胸元に頭をぐりぐりと擦り付ける。くすぐったいのか、ぶっひゃっひゃと笑う様子を、鼻の青いトナカイがじっと見つめていた。
「エース、なんでこの国にいるんだ?しかもナマエと一緒に」
「ん?なんだお前ドラムで伝言聞いたわけじゃねえのか」
「なんだエース、ドラムに行ったの?」
まあとにかく会えてよかった、とさっぱり話を済ませたエース。私ともこの近くで偶々会っただけだと説明してすぐ、ルフィに白ひげ海賊団に入らないか、という突拍子も無い話を振り、当然のように断られていた。
「白ひげってやっぱその背中の刺青本物なのか?」
ウソップが少し慄きながらエースに声をかける。惜しげもなく曝け出しているそのマークについてのエースの返答を、私はどこか楽しみにしていた。
「ああ、おれの誇りだ」
だから余計と、頬が緩むのを抑えられなかった。そんな私の顔を見てニッと笑い、エースはそのまま言葉を続ける。
「“白ひげ”はおれの知る中で最高の海賊さ。おれはあの男を海賊王にならせてやりてェ。ルフィ、お前じゃなくてな」
「いいさ、だったら戦えばいいんだ!」
サァ‥と、柔らかく風が吹く。その優しい風は緩やかに波を作って、私の心を映すように朗らかに唄う。本当に、良い兄弟だ。
「おい、話なら中でしたらどうだ?茶でも出すぜ」
彼の言葉に、エースはお構いなくと遠慮していた。私も遠慮した方がいいかと首を横に振ったけど、お腹の虫は素直にぐうと鳴る。いっぱい走ったからね。仕方ないね。
「はは、待ってな。おにぎりでも握ってやるよ」
「わあい!」
手に持っていたタバコを口に銜えて、その空いた手を私の頭にポンと置く。間もなくして小さく握ってくれたおにぎりたちが、お弁当箱の中に六個。一つ一つ味が違って、大好きな塩おにぎりも入っていた。
「ありがとう、お兄さん」
「サンジだ。いっぱい食えよ、ナマエ」
「ありがとう、サンジ!」
早速おにぎりを頂いていると、エースと話しているルフィの手が伸びてきた。ダメだと言っても二個目に手を伸ばそうとするルフィに左の拳を握って見せると、持ったおにぎりを口に入れてごめんと頭を下げた。
「‥ルフィの今食べたおにぎり、出す」
「もう食っちまったもんよ、出ねえって!」
人の船の上でも構わずルフィに馬乗りになって彼を叩く私を、エースがよいしょと抱き上げる。
「ナマエ、人の船で暴れんなよ」
「エース、ルフィがおにぎり取った!」
「‥こいつの方がルフィと兄弟って言われて納得出来るな」
「悪いな、弟だけじゃなくこっちの連れまで騒がしくて」
「いつもと変わらないわ、気にしないで」
頭を下げるエースとむくれる私に、温かい眼差しを向けるルフィの仲間。みんないい人だ。そろそろ行くかとエースが私を下ろして、ルフィの名を呼んだ。
「ほら、お前にこれを渡したかった。」
「ん?」
「そいつを持ってろ。ずっとだ。」
なんだ紙切れかとその意味を知らないルフィだったが、いらないかと聞かれてもエースからのもらい物だ。当然いると言い張った。
「出来の悪い弟を持つと、兄貴は心配なんだ。おめえらもこいつにゃ手え焼くだろうがよろしく頼むよ」
そう言ってストライカーに戻るエースにルフィも別れを惜しむ。あいつを追っていることを説明したその言葉は一見軽く、けれど真意はとても重い。一緒に降りてその背中にギュッとしがみつく私に、エースは何も言わずただ優しく微笑んだ。
「次に会うときは、海賊の高みだ」
その言葉をルフィに残して、繋いでいたストライカーの紐を解いたエースは、片手を挙げて風に乗せるようにひらりと手を振った。
「エース、気を付けていってらっしゃい!」
「おう!いってくる」
「エース、またなー!」
ルフィの声にも手を振って、エースはストライカーを飛ばした。決着がついたら、ちゃんとニューゲートのところへ戻るんだよ。そしたら、その時は皆と一緒にお帰りって言うからね。くじらちゃんの船で、お土産話をいっぱい聞かせてね。
「‥ところで、こいつ置いてかれてんじゃねえか」
「まさか一人で行くつもりか?」
「でもこの立派な船はこいつのだろ?」
「バカ言わないでよ、子供が一人で海を行くなんてとてもじゃないけど危険だわ!」
少しだけ感傷に浸る私にお構いもなく、ひつじちゃんの上からは私がこれから一人旅になることへの小言がいくつも降ってくる。下を覗き込んだ青い髪の子も、止めないの?とルフィの肩を揺らしている。
「ナマエなら大丈夫だ、心配いらねえよ。」
な、と言うルフィに元気いっぱい頷けば、周りも皆それ以上は何も言わなかった。砂の国の王女様まで乗せているのはびっくりだけど、彼女の表情を見れば彼らを信用していることはよくわかる。ルフィも、ちゃんと船長さんなんだね。
「ひひ、友達が待ってるから行くね」
「おう、またな!」
「ルフィたちも、気を付けて」
それぞれの方角へ、それぞれの思いを馳せて舵を切る。ルフィ達と別れてから三十分程サンドラ川を北上すれば、アルバーナにより近い砂漠へと到着した。大きな船では入ってこられない所まで船を進め、人目につきにくい場所へと泊めておけば誰かに持っていかれることもない。いつもの上陸場所だ。砂漠はサソリの背に乗せてもらうのがお決まりで、街が見えたら尻尾の先を砂中に埋めて安全に滑り降りれるようにしてくれる。
「さて。ひとっ走りしますかね。」
屈伸をして足を横に伸ばし終えたら、グッと力を入れる。何時ぞや少しお稽古してもらったこの六式とかいうのはすごく便利だ。屋根を伝い、あっという間に中心のアルバーナに着いてしまう。忙しい時間かなと思いつつも、整然と聳え立つ宮殿の階段に足をかけた。