09

長い間探していたとはいえ、こんな場所で出会うとは思ってもいなかった。細く柔らかそうな髪を風に揺らしながら足を投げ出して屋根の上で腰を下ろす少女は、私の気配に気付いて真っ直ぐに私の目に焦点を合わせてきた。

「お姉さん、夜のお散歩?」
「ずっと貴方を探していたのよ、巡遊さん」
「私を?」

重たそうな頭を傾げて腕を組む姿はまるで大人の真似をする子供のようで、つい笑みが溢れる。その姿を堪能しながら、私は彼女の問いに答えることとした。

「幼い貴方の手配書に親しみを持った時からね。沢山調べて、いつか会いたいと思っていたわ」
「お姉さんもお尋ね者なんだ」
「ふふ、そうね。」
「ひひひ」

まさか、手配書の姿と全く変わらないとは思っても見なかったけれど。それにしても不思議な子。一切の敵意を感じない、盾も鎧も纏わない雰囲気。それどころか屈託ない笑顔を見せて、何も知らない無垢な子供そのもの。

「貴方はこんなところで何をしているの?」

彼女は近くに置かれた葉巻が少しずつ燃えていくのを見つめながら、星とお話していたと優しく笑った。

「お姉さんこそこんな所まで探しにくるなんて、何か用事?」
「ええ。ボスからの指令で来たの。」
「ボス?」
「そう。Mr.0、サークロコダイルのね」
「ああ」

彼からこの指令が降りた時は耳を疑った。彼女の存在を疑うことはおろか、交渉までするなんて。そして今、彼女は彼の名を聞いても驚くことさえない。一体どんな関係なのか。思考を巡らせていることも見透かすような怖いくらいに真っ直ぐな瞳に見つめられ、私は指令に基づき彼女に一枚の写真を差し出した。

「Mr.2というのはこの写真の人物よ。そして、私がミスオールサンデー。それをあなたに伝えるようにと。」
「そっか、大事なことだ。ありがとう!」

彼の計画のために私とMr.2に手をかけないと言うのは理解はできる。けれど、彼女はどうしてそれに首を縦に振ったのか。

「‥何か質問はあるかしら?」

今みたいに、首を横に振ることができない状況だったのか。他人を信用しないような男が何重にも策を打っていることを予測しているのだろうか。もしかすると、私はクロコダイルという男を甘く見すぎているのかもしれない。

「私より、お姉さんの方が聞きたいことありそうだけど」
「‥聞いても?」
「もちろん。」

彼女と私の間に夜風が細く吹き抜ける。何を聞かれても平気と言わんばかりに両手を広げる様からも、後ろめたさなど一切無いのだろう。どうしてか、手綱を引かれるように私も素直に聞きたいことを口にした。

「彼と手を組んだの?」
「ひひ、まさか。」

違うよと笑いながら、ただの交換条件だと言った。条件の内容を聞いても躊躇いなく答えを口にする。移動手段として七武海を使ったこと、その代わりに自分たちを手にかけないと約束したこと。あまりに不公平な取引。聞けば聞くほど彼女の意図が分からなくなった。

「何故そんな交渉を?」
「なぜって聞かれてもなあ‥砂漠の移動は大変だしどうしよかなあと思ってたら、こうやってね、ばって出てきたの。丁度いいから乗せてって頼んだんだけどやだって言うから、じゃあ私も言うこと聞いてあげるよ、って。それだけ。」

身振り手振りで大きく表現しながら、あったままを伝えてくる。きっとそこに嘘はないのだろう。

「沢山調べてくれたなら知ってると思うけど、面倒な決まり事のおかげで味方も何も、なーんにもできない。そもそも子供だからね」

後に続いた言葉も、嘘はないのだろう。引っかかりばかりの言葉の羅列に、それ以上は答えがないと拒絶されたようにも思えた。

「お姉さんこそ、なんでクロコダイルについてるの?」

質問はないと言ったのに良い?とこちらを伺うその姿さえ真っ直ぐで、偽りを口にすることを躊躇うほどの揺るぎない視線に、意図せずとも心の奥底の言葉が漏れて出る。

「私の探し物に辿り着くためには、彼の力が必要なの」
「ふうん、そっか。」

淡白な返答に、いつの間にか強張っていた身体の力がふわりと抜けた。言葉にすることで彼女に責められると思っていたのか。それとも別の言葉を期待していたのか。考えても答えの出ない自問に、ふ、と息が漏れる。

「そろそろ行くね」
「ええ。話が出来てよかったわ」
「ひひ、私も。」

小さな掌を豪快に振ったかと思えば、軽やかに屋根を駆ける。そうかと思えば慌てるように引き返して、私の目の前にふわりと着地した。

「言い忘れた!」
「何かしら?」
「そっちのボスに伝えて。送ってくれてありがとうって!」

とびきりの笑顔でそれだけ言うと、彼女は屈伸をして、遠く、高く飛んで行った。あのクロコダイルにさえあんなにも無垢な笑顔を向けるなんて。

「こちらも、もうじき揃う頃かしら」

アジトへと戻る途中はずっと、ボスへの伝言はどんな顔で伝えればよいのかそればかりを考えていた。