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副官一人が手負いと知れば不安が一気に広がることは明白だ。ペルを抱えて宮殿に戻るより、ここで休ませた方がいい。王女とあの人がこの場を離れてからどのくらい経ったか、漸くペルが目を覚ました。

「ペル、おはよ」
「ナマエ!なぜここに‥ッ」
「随分やられたね」
「‥ああ、我ながら情けない。それより、ビビ様を見なかったか」

傷の痛みを堪えながらそれでも王女を気に掛ける姿に、まあまあとその両頬を勢いよく叩くように両手で挟む。副官だとて自分を大切にしてほしいと思っている主の想いを、怒りで忘れてはいけないよ。

「何、を‥!」
「ビビのことは、心配いらないと思ったから止めなかった」
「大丈夫だという保証があるのか?」
「少なくとも、ぼろぼろの怪我人よりは頼りになる子がいる」
「‥しかし、私もじっとしてはいられない」

立ち上がろうとするペルの怪我を治す力は私にはない。大事にしてよ、気を付けないとすぐ死んじゃうんだから。大事にしてよ、皆同じくらい大事な命なんだから。その背を撫でながらせめて一緒に行くよと低すぎる私の肩を貸せば、それは心強いなと彼は足に力を入れて立ち上がった。
ふらつきながらの飛行は危うくて、砂漠に着く頃には剣を支えに自身の足で確実に彼女との距離を縮めていた。辿り着いた砂漠の脇、麦わら帽子がふわりと飛んでいく。その帽子は、導かれるように白いコートの彼女に捕まった。

「あら、もうお目覚め?」

それが誰なのか、私もペルも流石に検討がついた。声を上げたペルに反応して振り返ったのは、想定通りの彼女だ。ポト、と麦わら帽子が落ちた先にはルフィが倒れていて、ペルも再び立ち向かおうとする。冷静であってほしいと願って彼の手を握るけれど、それは優しく振り解かれた。私は下から上へと視線を移しながら、クロコダイルとは対照的なその真っ白いコートを見上げた。

「‥無理しないで。重症のはずよ‥」

屋上で会った時とは違い、随分余裕そうに笑みを浮かべながら言葉を吐く。きっと嘘じゃない。そう感じると同時に彼女は背を向けた。ルフィがビビを送り届けたことやアルバーナに向かっていることを告げ、彼を助けてあげたらと言う提案を残してワニに乗って去っていく。数分だけの、呆気ない再会だ。ペルも気力でやっと立っていたのだろう。土煙が晴れるころには膝をついて、もう影さえ見えない彼女の姿に眼差しを向けていた。私たちが来るより先に、ルフィを助けてくれたように見えた。メリットもないだろうにどういうつもりだろう。何を期待したのだろう。見えなくなった背中に、少し興味が沸いた。

「くっ‥!!」
「無理しないで、ってあの人にも言われたよ」
「しかしビビ様が‥!」

気持ちは痛いほどわかるが、今行ったところでさっきの二の舞になるだけだ。少しでも体力を戻してからにしようと焦る彼の手を握れば、同時にルフィが彼の服の裾を掴む。血眼でペルを掴み、食料を求めるルフィ。目を丸くしながら、私に何かを求めるようなペル。ペルが気にかけたルフィの容体もまた、治療と休息が必要だ。

「肉食って、早くワニの所に行かねえと。」

ビビと約束したんだと続ける彼の言葉に、若干の警戒を解いて肩を貸そうと自身の傷も厭わずにルフィを支えるペル。満身創痍の彼らと、傷一つない自身の身体。交代して上げられたら、などと彼らの奮闘を侮辱するつもりはないけれど、申し訳ない気持ちに私も押し潰されそうだ。

「少しだけ、待てる?」
「待てねえ!」
「‥ルフィくん、と言ったか。ナマエを信じよう」

即座に応えるルフィの焦りもわかる。同じ気持ちであろうペルは、言葉と同時に優しく頷いた。大丈夫、すぐに連れてってあげる。私はルフィの帽子を拾って、いつものように砂地をトントン、と叩く。トントン、トントン。いつもよりも多く地面を叩けば、いつもよりも大きなサソリが顔を出す。飯だと勢いよく飛び出すルフィを容赦なく踏んづけ、そんな私をペルが持ち上げる。なんだか変な絵だ。

「ご飯じゃない」
「驚いたな。ナマエはこいつらを手懐けているのか」
「ううん、仲良しなの。サソリ、お肉が食べられるところまで超特急で運んでくれる?」

いかにも毒のありそうな尻尾でその背中を指す。きっと了承の合図だ。

「カルガモ部隊よりは遅いけど、揺れもないし乗り心地は良いと思う。すぐに着くけど少しでも休んで」
「食おうとしてごめんな」
「今回だけね。」

怪我人二人を乗せたサソリの背中を撫でてやると、少しだけスピードがアップする。早く肉を、早く休息を。痛々しい彼らの身体の傷に、私はそっと目を逸らした。