13
身体を休められそうな場所を探して我々を一旦降ろしたナマエは、大きな荷物を背負ってすぐに戻ってきた。広げられた大量の食糧にすかさず手を伸ばすルフィくんは、お望み通りの肉をたらふく食べると見る見るうちに元気を取り戻していく。私も少しでも体力を取り戻さねばと、出来る限りの食事を口に運んだ。ここに来る道中でルフィくんの身に何があったのかを聞いた限りでは、このまま素直に戻っても勝機は少ない。それはナマエも考えていたようで、少しでもここで体力を戻すことがその可能性を上げると言った。
慣れない手つきで消毒と包帯の処置を施し終えたナマエは、気の急くルフィくんに柔らかく言葉を贈って、彼の背を撫でた。素直に彼女の言葉を聞き入れ膨れた腹を擦りながら眠りにつくその姿は、彼女への信頼の証にも取れる。
「前にね、ルフィのいる村に行ったことがあるんだ。その時から仲間思いで、真っ直ぐな子だった」
懐かしそうにその姿を眺めながら、細い腕を伸ばして彼の額をさらさらと撫でるナマエが、優しい声色で言う。
「ルフィがいたから、ビビをレインディナーズに見送ったんだよ」
「彼はそこまで強いのか」
「んー、伸び代あり、かな」
零れる笑い声を聞いてか、ルフィくんがぱっちりと目を開ける。うるさかったかと謝ると、うるさくはねえと首を振る。
「ナマエ、おれは伸びるシロは持ってねえぞ。伸びんのは身体だけだ」
「ルフィ、もう少し寝ないと怪我治んないよ」
「そうだ!お前らも寝ろ!」
瞬時に眠りに落ちる見事な技に、彼の幼い頃が想像できてつい笑みが零れた。彼の言う通りにしようと私も目を閉じると、お休み、と温かい言葉が優しく舞い降りる。彼のように眠れるわけではないが、瞳を閉じている間中ずっと温度の低い掌がずっと頭を撫でていて、焦りや怪我の痛みも心なしか引いていくような気がした。
「ありがとな、ナマエ!おかげですっきりしたぞ」
十五分ほどの仮眠から目を覚ましたルフィくんの言葉の通り、少しの休息で得たものは大きかった。浅いなりにも数分の眠りに誘われた私自身も、身体が軽くなっているように思う。実感する感覚を、ナマエは嬉しそうに最近気付いた事なのだと胸を張った。
「私ね、撫でてもらうと嬉しいんだ。だから皆にもしてるの。痛いとか悲しいとか怖いとか、そう言う気持ちが減ったらいいなって。落ち込んだ時にちょっとでも気分が上に向いたらいいなって。今まで気にして撫でた事は無いけど、意識すると効果が上がるみたい。この能力のおかげで、ちょっとお手伝いできる」
躊躇うことなく自分の能力の話をしたナマエの姿からして、ルフィくんはナマエが能力者であることを既に知っているのだろう。彼女に手を伸ばしすげえなあと目を輝かせている。余計な一切を気取らせない彼女のあどけない笑顔に、その優しさが全て詰まっている。そしてこの、一見何も知らなさそうな少年もまた不思議な魅力を持つ者なのだということがナマエの表情から見て取れた。
「ありがとう、ナマエ。」
「ひひ、こちらこそ。さ、アルバーナに行こう」
「ああ、今度こそクロコダイルをぶっ飛ばす!」
「そのいきだ、ルフィ!」
「おう!」
さて行くぞと屈伸しているルフィくんに、ナマエは大きな樽を渡した。
「言ってたでしょ、戦うのに水がいるって」
「用意してくれたのか!」
「折角ルフィが気付いたんだもんね」
「すっげえー!これなら背負って戦えるぞ!ありがとな、ナマエ!」
ルフィくんに向けて小さなピースサインを掲げ、笑顔を向ける。その横顔は誰よりも気高く、強く、輝いている。共に時間を過ごすほどにその小さな体に宿した偉大さに頭が上がらない。
「ペル、飛べそう‥?」
それもまだ序の口だと言わんばかりに身体を労わってくれるのだから、翼を広げないなどという選択肢はあるはずもない。
「心配無用だ、ルフィくんも乗ってくれ。」
「おう!」
樽を背負い、ナマエを抱えたルフィくんが背中に乗る。小さな手が優しく背を撫でて、ありがとうと小さく呟く声が聞こえた。こちらの台詞だというのに、先には言わせてくれないのだな。戦いを終えたら、ビビ様と一緒に背に乗ってくれ。そして、この大地の上を共に堪能しよう。ビビ様とナマエ、それぞれの旅の話を聞いて飛ぶこの国の空はきっといつもに増して美しいに違いないから。
「さあ、ビビ様を助けに行くぞ!」
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全速力でアルバーナへと向かった。砂埃の立つ広場の様子は見えないけれど、宮殿の方から高らかに嘲笑う声が聞こえた。
「あそこ、ビビが!」
ルフィくんの指す先の、落下していくビビ様の姿。
「問題ない、必ずお助けする!」
「私降りる!ルフィ、先に私を宮殿の方に投げて」
「クロコダイルはおれが倒すからな!」
「大丈夫、取らないよ」
それなら、と遠慮なく放り投げたルフィくん。ナマエの身体は軽く、砂塵に軽く煽られながらも宮殿へと飛んでいった。