01

「パスミー、ゆっくり、ゆっくりね‥!」

早る気持ちを自分に言い聞かせながらパスミーに声をかければ、呼応するように波が静まっていく。凪いだ海に白い切れ目を描きながら、大きく佇む島を目の前に心が躍っているのがよくわかる。
シャボンの中に飛ぶ無数の小さなシャボン玉。やっぱり、何度来てもこの景色が好きだ。

「さてと、ご挨拶ご挨拶。」

何時もの場所に船を停めてお店へと向かえば、店主がガラの悪そうな男の人達を下敷きにしていた所だった。

「あら。また呼び出し?相変わらず忙しいのね」
「ひひ、シャッキーも忙しそう」
「今日はもう終わりにするわ。少し待ってて」
「私も手伝う!」

お代はきちんともらう事。シャッキーの言いつけ通りお代を頂戴したあと、足の下に転がる人を隣のグローブまで投げ飛ばして、辺りが綺麗になったところでシャッキーにハグをする。

「会いたかったわ、ナマエ」
「私も!」

シャッキーは私と同じ、見た目が変わらない人だと思って訊ねたことがある。何年経っても、ずっと綺麗なままだから。けれど、鏡の前に綺麗に並ぶお化粧道具一式を見せてくれ、毎日のお手入れの賜物だと言っていた。

「あの人ならまた遊びに出てるわ。探しに行ってきたら?」
「明日行くよ。今日はシャッキー一人占めする」
「ふふ、可愛いこと言うのね。旅の話を聞かせて」

お店のカウンターに腰掛けて、シャッキーが私のグラスを用意してくれる。オレンジジュースとブルーキュラソーを各手に持って、どちらが良い?と聞いてくれた。右手に持つ青い瓶を指せば、そうだと思ったと既にグラスに入る真っ青なカクテルがテーブルに置かれた。マリンブルーのカクテルの名前は、そのままマリンブルーというらしい。シャッキーが選んでくれた私のカクテル。これを出してくれる時は、彼女も身体を動かしたい時。私も、シャッキーと遊びたい時。何杯か飲みながら旅の話をして、前に皆で飲んだ時は誰が一番先に潰れるかで朝になったね、なんて昔々の懐かしい話をしたりもした。

「シャッキーが聞き上手だから、いつも喋り過ぎちゃうよ」
「ふふ、ナマエは情報の宝庫だもの」
「ね、代わりにまたニューゲートの話聞かせて」
「あなたも飽きないわね」
「ひひ、アキナイワネ」

シャッキーは私が知らない頃のニューゲートを知っていて、おねだりするとその頃の話をしてくれる。シャッキーに限ったことではないけれど、誰かが見たニューゲートは全くの別人のような時もあれば私が知ってるニューゲートのままの時もあって、その一つ一つを知るのが面白い。会えなかった時間の分だけ誰かがニューゲートを知っていてくれるから、その思い出をいっぱい集めれば、私は"白ひげ"エドワード・ニューゲートを知ることが出来る。そして、その話をニューゲートにすれば彼がその頃の話をしてくれるから、それは私にとっても共通の思い出になる。その瞬間を求めて、私の旅は続いているのかもしれない。いつの間にか、それもこの航海の目的の一つになっていたみたいだ。

「そろそろ身体も温まってきたし、遊びましょ」
「うん!」

シャッキーとの遊びはいつも夜を跨ぐ。楽しい時間はあっという間に、それこそ知らない間に過ぎていた。





「起きたかしら、お嬢さん?」
「おは‥‥ん、?」

陸の上で熟睡することなんてほとんど無かったのに、どうしてだろうか。

「いつから寝てたかな?」
「日付が変わってすぐかしら」
「‥‥‥本当?」
「ええ、スイッチが切れたみたいに突然ね。よほど疲れてたのかしら。」

何か夢を見た気もするけれど、それがどんな夢だったのか全く思い出せない。それどころかシャッキーが遊んでくれたことも朧げで、なんだかすっきりしない、寝覚めの悪い朝だ。

「お酒の飲み過ぎ‥は、あなたには無縁よね。何か身体に変化が?」
「ううん‥あ、背が大きくなってるとか!」
「残念だけど、それは違いそう」

隣に並ぶ椅子の背丈とちょうどの頭の先を確認して、背は伸びてないことを改めて報告すると、小さく微笑みを溢したシャッキーがするりと頭を撫でる。シャッキーの掌はそのまま頬へと降りてきて、そっと優しく添えられた。

「ん?」
「ふふ、なんでもないわ」
「‥レイリーがいなくて寂しい?」
「まあ、そんなところかしら」

本音を隠した言葉はその表情に少しの緊張を添えて、それでも優しく降りてくる。

「ご飯を食べたら少し遊んできたら?億越えのルーキーちゃん達が集まって来てるわよ」

シャッキーの言うルーキーとは、最近話題になっているらしい若い世代の海賊たちの事らしい。それは、私にとって嬉しい知らせだった。

「手土産になる?」
「遊び相手くらいにはなりそうよ」
「へえ‥‥遊んでくれる子いそう?」
「ふふ、それは自分で確かめて」
「行ってこよ!」
「あ、こら。情報は持っていきなさい」

シャッキーが九枚の手配書を見せながら細かく教えてくれる。何人かは知った顔がいたけれど、この子たちが億越えの賞金首になってたとはびっくりだ。それに、ここにルフィとゾロもルーキーとして入るらしい。流石、情報収集能力が高いだけのことはある。ここに来れば世界情勢も大抵わかるから、私はすっかり新聞いらずの生活だ。

「‥それとね、ナマエ。一つ、言わなきゃいけないことがあるわ」
「‥嫌な話?」
「そうね」
「ひひ、それなら嫌でもセイフに聞かされる。シャッキーがそんな顔しないで」

ニッと笑って見せれば、それ以上は尾も引かず気をつけていきなさいと手配書をまとめて私のカバンに入れてくれた。用意してくれたおにぎりを頬張ってからレイリーへの手紙も預かって、ひらりと手を振りお店を後にした。