15
「せっかく一緒に歩いてるのに、手も繋げないね」
「この状況では仕方あるまい」
「まあそうね」
先ほどの麦わらの子と言い、とても緊迫した状況下にいるとは思えない発言。それに驚くこともない彼もさすが国王と言ったところだ。この状況で一人糸を張っているのも馬鹿らしく思えるほどで、少しだけ糸が弛んでいく。それを敏感に感じ取ったのか、無邪気な笑顔と少し冷たい掌がふいに私の空いた左手に触れた。
「ニコロビンの手もあったかいね。コブラと一緒」
体温を受け取るように優しく重なるその掌に、思わず肩が揺れる。
「離しなさい」
「まあまあ、今だけ今だけ」
屈託のないその笑顔に、とても捕虜とは思えないほど穏やかに国王も笑みを浮かべた。
「嫌でなければ、私の代わりに繋いでやってくれないか」
もうずっと手を繋ぐことなどなかった私の手を、いとも容易く握るこの小さな掌。どうしてか許してしまいたくなるような心地良いその手を振り解こうと力を入れてみたけれど、私の手からそれが離れる事は無かった。
「‥おかしな人ね」
「ひひ、よく言われる」
抵抗を無くした私の指が、彼女に触れようとゆっくりと曲がっていく。それを止めるかのように海軍が群をなして立ち塞がり、彼女に触れることなく指を真っ直ぐに戻した。急いでいると言っているのに、若い女性は国王のことを誰だと思っているのだとか、国の現状を今聞いたとか、終いには道を譲らないなどという。国王が砲撃予告を受け止めてほしいということを伝えたというのに、私から国王を守り、国民も守るなどと甘えたことを言う。
「邪魔をしないで!」
三十輪咲のために自身から離したその小さな手は、簡単に解かれた。ただ、隣で私を見上げる彼女の目は揺らぐことなく真っ直ぐで。私はその眼から逃げるように立ちはだかる海兵の首をへし折る。その光景から何かを思い出したように、僅かに残った海兵の一人が私を指してニコロビンだと言った。
「紹介してくれるって」
手の代わりに服の裾をキュッと握った彼女はその裾を少し下に引いて、私を指さす男をその細く短い小さな指で指した。誰の許可を得たのか私の過去をぺらぺらと話し始めたその男は、二十年前わずか八歳の少女を第一級危険因子と定め、かけた賞金が何と七千九百万ベリー、と私の過去をたった数行で説明した。彼らにとって私の人生はその数行程度でしかない。そのことが今は無性に心をささくれ立たせた。ごちゃごちゃと騒ぎ立てる彼の言葉を掻き消すように声を荒げた私の隣で、服の裾を握ったままの少女がわざとらしく大きな声をあげて笑う。
「何がおかしい!」
「やめなさい、時間がありません!」
「今の説明が四十秒。爆破まであと六分。‥喋ってていいの?」
大人をからかうようにお腹を抱えて笑っていた姿はすっと消え、核心をついた冷たい彼女の言葉に海兵たちの中で苛立ちと冷静さが複雑に混ざり合っているのがよく分かる。そして、女性海兵一人を残して爆破阻止に回る海兵たちの姿に、違うなあとポツリ言葉を落とし地面に落書きを始めた彼女。酷く、詰まらなさそうに見えた。
「さあ、その人を離しなさい」
一人で対峙するなんてわからない人ね。私も焦っていた。先ほどの話でも苛立っていた。こんな子一人に構っていられないと、両肩に手を咲かせて口を塞ぎ、刀を彼女のその首に突きつける。
「わあお」
その様子に落書きの手を止めてそう言葉を落とした少女は、海兵が倒れると国王にここに残ると告げた。快諾した国王に、その子が言った。
「昨日、このお姉さんによくしてもらったからさ」
仮にも曰くつきの賞金首。先ほどの海軍とのやり取りを見ても、海軍と、ましてこの街に来ている大佐の部下と面識があるなんて思いもしなかった。それならば、昨夜の彼女が持っていた葉巻は‥点と点が繋がって、あれは海軍大佐のものだったと知る。
「コブラのこと、よろしくね。ニコロビン」
もう何度目だろうか。向けられた笑顔に背筋が凍るのは。国王に振る手を当然のようにこちらにも向けられたけれど、振り返すことはしなかった。‥出来なかった。