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ペルの姿が光の中心で見えなくなったと同時に建物は壊れ爆発音が轟き、視界が晴れた。そこに見たのは、空の青さではなく戦いの手を止めることのない人々の姿。そんなことを知る由もなく、ペルの羽がひらりと近くに舞い降りた。誰かの足がそれを踏むことは、余りにも残酷だ。誰かの伸びた足を突き飛ばし辺りを一蹴し、その羽を拾った。

「足元見る余裕なんか、無いよね」

目の前に広がる異様で見慣れた"戦争"という光景も、涙を流すこともなく民衆に声を届けようとする様も、心動かされ奔走する様も、国を揺るがす戦いというのはいつも似通ったところがあるものなのだなと思う。張り裂ける思いという言葉通り文字通り、風船が圧に耐えられず割れるように衝撃と痛みが血液に流れ込み、全身を駆け巡る。悪意を持って裂く者は、パンを千切るくらいあっさりと痛みもなく千切っていっているのかもしれない。

「ごめんよ、邪魔するぜ!」

ここで揺れていても何も始まらない。半分意識を失ったように武器を握り向かい合う彼らの武器を蹴り、ごめんねと首の後ろをトン、トンと叩いていく。こういう時はニコロビンの技が使えたらみんな気絶させられて便利だな。ぽっと浮かんだ余計なことを考えながら、再び傾れこんだ人の群れをかき分けて目の前の衝撃で忘れかけていたルフィの帽子を探し始めた。私が見つけて、ちゃんと文句言ってやらないと。そのためにも、私は帽子を探さないと。

「‥ん?」

その時ふわり、まだ遠い場所にある雨の匂いが砂に混じって鼻を掠めた。

「コーザ!」

声のする方を振り返ると、若い男が腕を伸ばして倒れこむ姿が見えた。その人がコーザなのだろうか。掌を見つめ僅かに身体を震わせながら言葉を失うその様に、何が起きたか予想がついた。

「わかるか‥?」

サングラスの下の黒目を丸くさせて空を見上げた彼は、戦いが終わると言葉を続けた。

「ルフィの、三度目の正直だよ」

つい声をかけてしまったけれど、すぐにそんなことはどうでもよくなった。

「もうこれ以上、戦わないでください!!」

王女の声が、広場に響き渡ったからだ。
それから、私の少し後ろの辺りに雨と共にクロコダイルが降ってきたからでもある。戦いの果て、待ち侘びた雨。雲が覆う灰色に染まったその空を見上げる人々の手に武器はなく、静かに降り注ぐその雨とは裏腹に音を立てて地面に叩きつけられたクロコダイルの姿に視線が徐々に移ろいで行く。声を張り上げずとも人々の耳に届いた少し震えるその声に手繰られるように、ビビの元へと視線が集まった。
視線を戻して帽子探しに辺りを見渡す私と、広場を後にするルフィの仲間たち。歓喜の声ではない国民の声の合間から見えたお尋ね者の姿もまた、そう大差ないのだなあと少し気が抜けた。終戦後の国民の本音は、当然と言えば当然のことなのかもしれない。裏にある真実を知らない彼らにとってはこれまでの三年が全て。枯れていく故郷、戦いでの別れ、助けを待つ日々、届かない援助。そこへ拍車をかけるようにここ数日に目の前で起きたそれぞれの事。悪夢の一言で片付けるには、あまりにも辛い日々だったのかもしれない。私には、計り知れないことだ。

「武器を捨てろ、国王軍!」

広がった声の先には、傷だらけのチャカが立っていた。彼の視線の先を辿れば、やはりそこにあるのは王女の姿。ここでもみられるとは。国を、王家を守る守護神の姿が、これまで見てきた戦いとは少しだけ違う色を付けてくれた。それからもう一人。子どもを抱えたイガラムが現れた。‥思ったより元気そうだ。それが私の心の内の第一声。彼の姿は敵味方関係なく警戒心を捨てさせ、先ほどのコーザと呼ばれた男もイガラムの言葉に続く。そして、彼らの口から真実が語られた。