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待ち侘びた雨をその身に浴びながら広場へ向かうと、既に海軍が件の海賊を連行していった後だった。これは大佐がやってくれたのかな?少なくともきちんと仕事をしてくれる海兵が集まってくれているようだ。よかった。
‥けれど、当事者達はそう簡単な話では終われない。イガラムによって知らされた真実に言葉もなく項垂れる広場の人々の姿に言葉を探すビビ。そんな彼女の肩に手を置く父。私も繋いでいた手をそっと解くと、離れたその手を私の頭に置いたコブラは、この場を離れることを受け入れてくれるように優しく頷いた。
国を治める男の、全てを受け止めるその大きさと彼らを奮い立たせるその力強い言葉は、降りしきる雨のように彼らの身に降り注ぐ。その偉大な背中はどれだけのものを背負っているんだろう。その姿は一人ひとりにどう映っただろうか。
「この戦争の上に立ち、生きてみせよ アラバスタ王国よ」
広場だけでなく国中に響いたであろうその言葉は、広場を離れる私のもとにも突き刺さるように届けられた。
「‥こちらに来たのか、ナマエ」
「かっこいいねえ、コブラ。」
主の言葉を聞いて涙を流す、傷だらけの身体の隣。人の想いは十人十色だと分かっているけれど、この瞬間はこの国の人が皆、チャカと同じような想いを抱き、涙を流し、笑顔を零すのだろうと思った。
「チャカも、お疲れ様」
「私は、何もできなかった」
強くならねばと悔しさを噛みしめる横顔。戦いは終わった。それでもこの先にあるもしもに備えて、前を向く。
「何もできなかった人がそんな大怪我しないよ」
彼の戦いは見ていないけれど、コブラと似た覚悟を持っていたはずだ。だからこそ、生きていてくれてよかった。この降り注ぐ雨に己の涙を隠して、声もなく静かに感情を零した彼もまた、この国を守ったのだ。
国を守ったペル。国を守ったチャカ。国を守ったコブラ、ビビ。彼らの守った国というものは、少しずつ形が違うように思える。けれど、全て同じ線の上だ。
国の存亡に関わるべからず。
私を縛るあの言葉が指す国とは、彼らのどれとも違う気がする。
「守ってくれて、ありがとう」
視線を同じ先に伸ばして、今はこの雨が渇いた大地を潤すその様子を一緒に見よう。雨が上がれば、その時はきっと虹が出るはずだよ。
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宮殿で会おうと分かれた皆は、重くなった身体を引きずるように戻ってきた。ルフィは背負われたまま起きる様子がない。チョッパーは宮殿のドクターと一緒に皆に治療を施してから自身の傷を処置して、これで大丈夫だと安心したように一息ついた。
「ありがとう、チョッパー」
「おれは船医だからな。ナマエは怪我無いか?」
「うん、見ての通り何にも。チョッパーも早く治ると良いね」
その毛並みに沿って背を撫でると、気持ち良さそうに目を瞑ってそのままこてんと夢の中に誘われていった。チョッパーを抱いてベッドに運び、帽子の下の丸っこい頭をもう一度そっと撫でる。その身をベッドに投げ打って休息に全身を浸す彼らにも同じようにその頭をゆっくりと撫で、ゆっくり休んでねと声をかける。その後チャカたちの元を回りコブラの元へと行けば、案の定遅くまで起きていた。
「お前も休みなさい」
「コブラが寝たら、私も寝るよ」
「では、早く眠らねばな」
「今日くらい、ゆっくり休んでね」
「‥ああ、ありがとう」
半ば強制的にベッドへ押しやり、誰より疲労の溜まっているだろう彼の頭を何度も撫でながらゆっくり微睡みその力みが抜けていくのを見届け、そっと部屋を出る。それからビビとルフィとチャカとイガラムと。月明かりと一緒に皆の部屋を静かに覗いて回ったあと、コブラの部屋に戻り彼がベッドに全てを預けゆっくりと眠る姿を見ながら朝を迎えた。