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「ナマエ、お風呂いかない?」
「パパが大浴場を用意してくれたの」

テラコッタが腕を振るった宴は随分と盛り上がったらしい。食事の席を存分に楽しんだ様子のビビとナミが私の部屋に顔を出した。雨季にしか使わない浴場は確かに魅力的だけれど、多分一緒には入れない。彼女たちの折角の誘いを無碍にもしたくないし、どうしたものか。

「まさかあなたも能力者のお風呂嫌い?」

うちの船長もお風呂は週一よ。返事を決めあぐねている私に飛ばされたナミの言葉を聞きながら、あの船はルフィとチョッパー以外能力者じゃないんだなと改めてその戦力の高さにビックリしてしまう。少数精鋭とはこのことか。ニューゲートの家族は大丈夫かな、今度いっぱい遊ぼう。

「お風呂は好きだよ。」
「ならいいじゃない。」
「もし誰かと入るのが嫌じゃなければ、私も一緒に入りたいわ」
「力が抜けちゃうなら私が抱っこして入ってあげるから」

ビビは私の気持ちを考えてくれて、ナミは能力者ともう決め込んだ口調で私の体質を気にしてくれる。

「二人とも、ありがとう」
「背中の流しっこ、楽しいわよ」

久しくしていないその言葉の誘惑に負けて差し出された二つの手を取ると、それいくぞと二人が私の身体を持ち上げた。あんたこんなに軽いのねといたずらっ子みたいに笑ったナミと、夕食が足りなかったのかしらとちょっとずれた心配をしてくれるビビ。廊下に三人の笑い声を響かせながらお風呂に向かった。

「あら、きれいに畳むのね」

ナミは、てっきりポンポン脱いでいくかと思っていたらしい。これはお母さんとニューゲートからの教えだと、綺麗に畳んだ服を誇らしげに見せる。

「ルフィのお兄さんとも知り合いだったみたいだけど、あなたもやっぱり白ひげの船の子なの?」
「ううん、私は海賊じゃないから。」

どういう関係?というもうお決まりのような言葉に、ビビが手を挙げた。

「私わかるわ。当ててもいい?」

好奇心の塊のような瞳を輝かせて手を上げるから、私もどうぞ、と回答権を譲る。

「私の、友なのだ」

三回目は、彼女が父親の真似をした。親子なのに似ていない。ナミはこれを私の真似だと思っているから、似てないわねえと別の角度から笑っていた。

「ニューゲートはね、特別なの」

畳んだ服を見る度に、頭を撫でてくれるニューゲートを目の前に思い出す。ひひ、と笑って見せ話をお開きにしてお風呂場の扉をバンと開ける。これはチャンスと、ここへ来て初めて決まりそうな「邪魔するぜ!」をやって鏡に映る自分に完璧だと親指を立てると、それを見ていたナミがそう言うところは想像通りね!とお風呂中に声を響かせた。お祭りみたいな賑やかな声が聞こえてきた男風呂を指すと、こんなのいつもの事よとこの賑やかな仲間の話を二人がしてくれた。カルーを餌に釣りをしようとしていたこと。チョッパーはビビが船に乗ってから出会ったこと。一番先に仲間になっていたのはゾロだったこと。背中を洗いっこしている途中、ビビも経験したウソみたいな本当の話をしてくれて、その声は踊っているようだ。海賊は数えきれないほどいるけれど、同じ船は一つとしてないのだ。船長によって色が出るのだとやはり実感する。いろんな形を見てきて、この船はまたルフィらしいのだなと彼女たちを見ていて感じた。

「ナミは、いつ私が能力者だって思ったの?」

ちょっとだけ気になっていたことを、今更聞いてみる。今知ったという顔のビビは一瞬話に置いて行かれてるのが見て取れたというのに、当のナミはあっけらかんとした口調でもう驚くことさえない。対極的な反応が、少し面白かった。

「私の足の心配してくれたでしょ。その時のことを考えたらそれが一番合点がいっただけ。」

どんな能力なのよ教えなさいよと肘で横腹をつつくナミ。あの時心なしか足の痛みが和らいでいったと穏やかな声で教えてくれた。優しい能力なのねとビビも脱力したように笑う。

「はい、交代。」

洗いっこの切れ目に、ナミが湯煙の向こうに見える男諸君を見つけ呆れたように立ち上がる。怒るのかと思い止めようとしたら、いいから、と見ているように言われた。

「一人十万ベリーよ」
「ナミさん!」
「ナミすごい!皆イチコロだ!」

幸せパンチは相当の威力らしい。高い壁から皆の姿が一気に消えた。私もやるねと二人の前で披露したけれど、どうやらこれは違うらしい。小さいルフィを見ているみたいだわと漏らしたナミと、とっても可愛らしくて私は好きよと言ったビビ。二人とも言いながらぷるぷると笑いを堪えている。

「私も小さい頃使った時は、こんな感じだったのかなあ」
「ナミさんの小さい頃もきっと可愛かったでしょうね」
「ナマエもう少ししたらできるようになるわ。」

堪えることも諦めて笑い出したナミは、涙を拭いながらそう言った。そうだといいけどなあと摺り足で湯舟へと足を向け、ちゃぽんと足先で触れた湯舟。水面が揺らいだのが見えて、そのお湯からすぐに足を引き戻した。

「無理して湯船につからなくていいわよ。力が抜けるって聞いてる」

言いながら二人が先に湯船に身体を沈めた。私の姿は湯煙に隠れてぼんやり映っているのだろう。怖かったら抱いていてあげようかと前に差し出されたナミの両腕に、私はぴとりと掌を当てた。