25
ナミやビビと一緒にお風呂に入った夜、ルフィたちは宮殿を後にしていた。賑やかな彼らがこの場所に残した名残を明日から感じることになることに、誰もが少しの寂しさを覚えているようだった。コブラは王国の長ではなくビビの父親として彼らの旅立ちの背中を押し、その背に手を振ったという。チャカとイガラムは彼らに懸賞金がかかったことで落ち着かない様子だったらしく、それは次の日の朝も全く様子が変わっていなかった。
「あ、私もルフィの欲しい!」
いい笑顔で映っているルフィの手配書を貰って大事にカバンにしまうと、お前は何でもそうやって、と少し肩の力が抜けたように見えるチャカ。まあまあ、と私の前でしゃがむ彼の大きな肩を左右一杯に撫でて、私はまたねと声をかけた。
「ナマエは、ルフィくんと挨拶できたのか?」
朝早くから式典の準備で賑わう宮殿で、帰り支度を済ませた私に挨拶をしに来てくれたコブラ。うんと答えを返しながら、私はその時のことを少し思い出していた。
―――
「ナマエ、起きろよ」
お風呂の後すぐに眠りについた私の元にルフィが来たことはその扉が開いた時から気付いていた。勢い良く揺れたベッドに、眠気眼を擦って片目をこじ開ける。もう片方の目が開く前に、欠伸を堪えられない口が大きく開いた。
「なあに?」
言葉と一緒に出ているのかと思うくらいあっさりと二度目の欠伸が零れた私とは違い、嬉しさを抑えられない様子で私の肩を掴んだルフィ。
「明日の朝、ビビを迎えに行くんだ」
「へえ、ビビも海賊になるの?」
「ああ、すげえだろ!」
浮かれるように話すルフィは、ビビのことを他の仲間と同じように大好きなんだということが惜しむことなく前に出ていた。
「嬉しい船出だね」
「そうなんだ!それでさ!」
なんとなく、その後に続く言葉は予想できた。何度か、この顔を見たことがある。私も一度だけ、その顔をしたことがあるからだ。
「お前も一緒に行こう、ナマエ!」
何度聞いても、嬉しい言葉だ。幼い頃に会った時と変わらない真っ直ぐな所も、仲間を大事にしている所も、海賊王を目指して海を渡り始めたことも。その旅に私も乗せようと思ってくれることも、よく感じられる。
「私に進路を決めさせてくれる?」
「それはダメだ!」
「じゃあだめだ」
即答するルフィに私もすぐさま交渉決裂を告げてみたけれど、そんなことでは諦めがつかないらしい。誘ってくれる友達に必ず返す決まった言葉を、今回もまた告げてみる。
「私に勝てたら、その時仲間にして」
じゃあ今やろう、という流れもいつものことだけど今回は少しばかりいつもと状況が違う。今日が昨日に変わりそうな時刻を指す時計を見て、また更に一つ欠伸が零れそうになる。
「折角国が静かになったのに、ここでは出来ない」
正直、この気の抜けたルフィに参ったを言わせるのに一秒もかからないと思う。けれどそれは、漸く静かな夜を迎えた友達の家でやりたくなかった。身体を完全に起こして、ルフィをベッドに座らせ彼と身体を向き合わせる。
「明日、ビビを迎えに行くのは何時なの?」
「十二時だ。東の港って言ってたぞ」
「なんてとこ?」
首を傾げるルフィ。ルフィが知らないなら私にわかるはずもない。お互い向き合って、首を傾げるだけだ。鏡のように首を傾げながら、ちょっとおでこ貸してと言う私といいぞと言うルフィ。その状態で止まったままのルフィのおでこに自分のおでこをぴとりとくっつけて五秒待ってねと目を閉じる。カチ、カチ、秒針の進む音を一緒に五回聞く。
「これで、ルフィがどこに居てもわかる」
そっと目を開くと、まじまじと私の顔を見つめるルフィと目が合った。相変わらず首を傾げたまま、おでこ離していい?と聞く私と、良いぞというルフィ。離れた額の温度が残る自身のそこに触れながら、ルフィが私の身体に腕を伸ばして自分の元へと引き寄せその胡坐の上に私を座らせた。
「ナマエは、いっつもちょっとひんやりしてんなあ」
言いながら私の身体をぎゅっと包み込んで、気持ちいいなあ、とルフィの顎が頭に乗る。
「ルフィ、昔あげた小瓶まだ持ってる?」
「友達の印だろ?当たり前だ、ちゃんと船出の時に持ってきた」
「そう、良かった」
「それより、さっきので本当に場所分かるのか?」
ルフィの顔は見えていないのだけど、その優しい声にまあ見てなさいよと笑って返すと、シシシという笑い声と一緒にぱっと腕が剥がれ、そのまま私を元居た場所に戻したルフィ。
「まあ、絶対来るってわかってるけどな」
そんじゃ明日なと手を振って部屋を出ていく姿に、気を付けてと声をかけながら眠りについた。
――
「コブラともちゃんと挨拶出来るね」
「ああ。本当に、世話になったな。」
コブラは、その手を差し出した。手を取って握手を交わす。
「ビビも、ナマエと会えた事を喜んでいた」
「ひひ、またね」
「楽しみにしている」
「うん、私も。」
またねの言葉を渡して、繋いだ手が解ける。私が好きなコブラの優しい笑顔が視界一杯に広がったから、私も目一杯の笑顔で手を振った。