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いつもはペルが送ってくれていたけれど、今は宮殿にいないし、いたとしても傷だらけだ。カルガモ部隊を出してくれるというから、お言葉に甘えることにした。初めて乗るカルガモ。早すぎて手綱に捕まりながら身体が浮きそうだった。地を駆けるこの感じもたまには悪くないけれど、私はやっぱりそよ風を受けながらこの国を見渡せるペルのあの大きな背中の上が好きなんだなあと思った。触り心地はカルガモちゃんもペルもちょっと似ているね、と送ってくれたその黄色い毛並みに手を滑らせた。

「ありがとね、カルガモちゃん」
「クエ!」
「これ、コブラに渡してくれる?」
「クエ!」
「頼むね」

その首元をすりすりと擦ると、気持ちよさそうに目を細めてからもう一度元気に鳴いて、土煙を立てて俊足で戻って行った。降りて見るとその速さはまた格段で、カルガモちゃんもあの国が大好きなんだなと黄色い姿が砂の向こうに消えるのを見送った。
さて、あの子は寂しがっていないかな。岩陰に置いたパスミーの縄を解くと、ぷかぷかと小さな波に揺られてこちらに身を寄せる。

「一人にしてごめんね。寂しかったね」

撫でてやると、少し大きな波に揺られて嬉しそうに身体を揺らす。私は早速飛び乗ってその船首に額をぴたりと近づけた。

「パスミーもまたルフィに会えるよ。行こう」

その声に答えるように、ゆらりゆらりと波に乗って東へと進んでいく。久しぶりの海の上が待ち遠しい私に同調するように、パスミーも大きく広がる海まで駆け足気味に川を抜け、大海原に身を浮かべるとその感覚を味わうように徐々にスピードを緩めた。久しぶりの波の音、風に乗ってすり抜ける潮の香り、心地よい揺れ、輝く水面と見渡す限りのこの青。

「やっぱり海はいいねえ!」

大浴場のように響き渡ることはないけれど、誰に邪魔されることもなく高く遠くまで広がっていくこの場所が、やっぱり私は大好きだ。海に手を近づけて、その水面に手を滑らせる。楽しそうに揺れるパスミーもその身を一度静めて、私にその時間をくれた。

「ひひ、ありがと」

水面に掌を垂直に置いて、溶けるようにゆっくりと手を沈めていく。心地よい水温と柔らかい触り心地をゆっくりと掌に感じながら、全身の力がふわりと抜けていくのが分かる。思ったより疲れていたのかもしれないな。もう片方の掌も同じようにその海に溶かして、疲労も一緒に溶かしていく。誰かの餌になるのかな。どこかに沈んで化石になるのかな。全身の力が抜け、逃げ場のなかったものも全て阻まれることなく浄化されていく。優しく包まれた掌が全て受け止めてくれ、それが終わるともう大丈夫よというように水面へ戻してくれる。いつもそばにいてくれて、ありがとう。

「ねえパスミー、ゆっくり行こう」

ゆらりゆらゆら、言葉に沿うようにゆっくりと揺れながら友達の元へと向かうことにした。東の港が見える頃、ビビの式典の挨拶が国を抜け、海の上にも聞こえてきた。少しの時間の冒険を強く明るく、そして気品ある声で一つずつ思い出すように始まるその物語に、私も瞳を閉じて耳を澄ませた。的確に表現されるその比喩がすべて、ルフィたちを指しているのだとわかる。どんな出会いだったのか、どんな旅だったのかはわからない。心の痛みも計り知れない。それでも、ルフィたちがビビにあげたもの、ビビが彼らに贈ったもの、一緒に共有したもの。それらは、この水面のようにキラキラと輝いていたのだと分かる挨拶だった。

「みんなー!」

響き渡る声。そして、お別れの挨拶。

「この国を愛しているから」

そう区切りをつけた言葉を乗せて、風が優しく頬を撫でる。
私には、一番嬉しい言葉だった。私以上に嬉しいのはこの国の人々なのだろう。そして、コブラも。残るビビ、またいつか会えたら仲間と呼んでくれますかと声を震わせる。どちらに別れの手を振るか、人生を分岐する選択はきっと12時間でも足りないくらいだったはずだ。答えのない数秒に目を開けると、まだ少し遠いひつじちゃんの船の上、彼らが並んで皆一様に左の腕を天に突き上げるように掲げていた。

仲間の印につけたんだ。かっこいいだろ!

戦いの終わりにルフィが見せてくれた×印を思い出す。彼らだけが分かる、彼らだけの仲間の印。ビビも返すようにその腕を上げている。

「離れても、ずっと仲間だね」

私の友達と一緒、離れてもずっと友達。大丈夫だよ、きっとまた会える。砲撃を飛ばす海軍の船の横を通りながら、その船の上に見える友達に声をかけた。

「おーい、ヒナちゃーん」
「あら、ナマエ。」

船縁からすっと飛び降りて、私の船に乗り込んだヒナちゃんは海軍だ。クロオリと呼ばれこの辺りの海を守ってくれている。前に、悪さばかりする海賊がコブラの国に入りそうになった時、その前に捕まえてくれたのを見てからすっかりお気に入りの人なのだ。

「国王に会いに来てたのね」
「うん、今朝バイバイしたとこ。」
「今回の事、あなたが仕掛けたわけじゃないわよね?」
「約束したもん、私じゃないよ」

彼女の縄張りで私が一騒動起こす事になったらその時は彼女の許可を得る。そう約束したから、私は慌てて首を振る。

「忘れていないのならいいわ。時間があるならお茶でも飲む?」
「ジュースはあるかな!」
「ないわ」
「ひひ、じゃあここでいい」

ヒナちゃんとの会話はいつもポンポンとテンポが速い。会えてよかったわとすぐに船に戻ろうとするその手を掴むと、長居はしないわよと言いながら船縁に腰掛けた。

「ヒナちゃん、けむりのスモーカーさんって知ってる?」
「ええ、同期よ。会ったそうね」
「ひひ、正体すぐバレた」

呆れたように息を吐きながら、彼はそういうところがあると言う。ヒナちゃんの同期ならばあの鋭さも納得だ。その口調から、彼女自身も彼を認めているのだということは見て取れる。

「ヒナちゃんとちょっと似てるよね」
「私はもっと賢くやるわ。」

気に入らなかったのか、心外よ、といつもの口癖を可愛く披露してくれる。

「あの人に、ありがとうって伝えてくれる?」

オレンジジュースごちそうしてくれたから、と付け足して彼女にお願いしますと頭を下げると、手袋を外した手が頭にぽすんと乗る。

「ええ、必ず伝えるわ」

ヒナちゃんのその優しさが、私の頬をふにゃふにゃにする。顔を上げる頃にはすっかり緩み切った笑顔でお礼を伝えると、ふ、と小さく笑みを零したヒナちゃんはすぐにまた船に戻って行った。