02

「どこ行ったァ、ナマエ!!」

ニコロビンの咲かせた腕との遊びが一段落ついたルフィは、私が隠れているみたいな言い方で船いっぱいに声を響かせた。ルフィ以外のみんなは、私が柱の横でずっと座ってケーキを食べていることを知っていたから、居場所を視線で示したり、船長さんのいつものそれに呆れたように溜息を吐いたり、そんな様子に小さく笑みを零したり。それなのに仲間の出してくれているヒントを拾いもしないで何度も名前を呼ぶから、残りのケーキを柱の脇に置き、またあとでと手を振ってから声の主へ声をかけた。

「ここだよ、ルフィ」

彼の後ろからズボンの裾を引っ張ってやると、気付いたルフィがくるっと向きを変え両腕を空に突き上げる。どこに行っていたとご立腹な様子で尋ねられ、そこにいたよと指差せばあちらこちらから助け舟がやってきた。

「ずっとマストのとこで待ってただろ」
「あんたが遊んでる間、ちゃんと大人しくしてたわよ」
「うん、おれもずっと見てた」


言われたい放題の船長さん。そっかごめんなとすぐに謝ってくれた。ルフィは、ニューゲートよりシャンの方が似てるかな。シャンよりもっと似てるのは‥ひひ、まあいいや。
この船はいつもこんな感じなのかと慣れたやり取りに、私もいえいえと頭を下げる。

「そう言えば、ナマエは何しにここに来たんだ?」

ウソップの声に目を向ければ、そもそも船のみんなが何故私が来たかをわかっていないと言った。

「えっ」

ルフィに聞けば、皆に言うのを忘れていたという。笑いながら、おれが勝ったら仲間になる約束したんだとさらりと言ってのけるから、私は開いた口が塞がらない。周りのクルーの表情を伺うも、慣れきっていると言わんばかりの表情だ。寧ろみんなが私の心配をしてくれているくらいだ。

「ほら、皆も良いってよ」

早速やるかと船の上、ひつじちゃんのすぐ後ろでルフィはやる気満々の戦闘態勢だ。

「おいおい、勝ったらって本気で戦う気かよ?!」

見ていたウソップが慌てて声を上げた。そりゃあそうだ、子供相手に船長が拳を握っているのだから。

「ひひ、大丈夫大丈夫」

いろんなことひっくるめて、ぜーんぶ大丈夫。両手をパンッと重ね合わせると、昔遊んだ時にもやっていたそれを合図と気付いたルフィも口の端をニッと上げる。ルフィと、遊びの始まりだ。
前に会った時とは違って、伸縮性の強い身体を盾に、矛に、バネにと、すっかり強くなっている。悪魔の実との付き合いも10年くらい経つとあって、身体にも随分馴染んでいるらしい。なるほどなるほど。ゆらりふわりと避けながら、足をついた船縁をキュッと蹴り、見張り台の上の元へと体を浮かせる。少し早いけど、許してねルフィ。

「もーいいかーい」

下から腕を伸ばすルフィが、まだだと叫んで一気に私の頭を越えていく。気配の残るルフィの通った線を滑るように降りて、既に方向転換をして私に向かってきているルフィを待ち受けるように、一秒もないその僅かな時に集中する。伸びた腕が私の顔の横を通り過ぎて、ルフィの身体が私の短い攻撃範囲に入ったその一瞬が、終わりの時だ。

「「「!!!」」」

傍から見ればとても静かな、予想とは少し違う幕引きだっただろう。伸びた腕が主の元に戻った時には、その主は甲板に仰向けになっていた。

「私の勝ち」

言葉と一緒に顔のすぐ隣にトン、と拳を置くと、ルフィが空に向けて高らかに声を放つ。

「‥くそっ、負けた!!!」
「ひひ、また今度ね」

勝ったご褒美をねだると何でもいいと言うから、試しにルフィのお肉を一つちょうだいと言ってみる。途端に嫌そうな顔をするのが予想通り過ぎて面白すぎて、ルフィのお腹の上で、転げるように笑った。冗談だよとルフィの上を退き、私は柱のそばに置いてきたケーキを取りに戻って、勝利の味を口にした。