06

「四億だと?!」
「正確には、懸かっていたと言った方が良いかしら。今は彼女に懸賞金が懸かっているかさえも、定かではないから」
「なんかややこしいな」
「でも、懸賞金が取り消されることなんてあるのか?」
「七武海はないんだろ?」
「じゃあナマエが七武海だって言うのかよ!」
「でもほら、全部本当というわけじゃないんだから‥!」
「そ、そうだよな!あくまで憶測だ憶測!」

一気に騒がしくなった船内は、渇いた笑いと共に徐々に静まりかえっていく。気まずい沈黙と追いつかない情報処理。ロビンはなんて事ないように手配書をしまい、おどかしてしまったかしらと微笑んでいる。

「ナマエは昔っから強かったからな。そんくらいあっても不思議じゃねえけど」

ははっと軽く笑うルフィに力を抜かれて、私たちも次第に落ち着きを取り戻していった。結局は自分たちの見てきたナマエが全てだということに変わりはない。それを信じるだけだとそう言わんばかりのルフィの笑顔は、私にはすごく救いの笑顔だった。

「ルフィとの遊びも余裕だったもんな」
「アイツはいつも力制御してるからな」
「ルフィと勝負した時も抑えてたって言うのか?」
「悔しいけど、そうだ」

ウソップ、サンジ、ゾロ、ルフィと彼女の戦闘に興味を持った彼らが思ったことを口にしている姿は、この話にも少しずつ光が差したようで少し嬉しかった。ルフィも分かる範囲で答えてくれるし、皆もただの興味だけではない感情がそれぞれに芽生え始めているように思えた。

「ナマエがさ、別れ際に言ったんだ。」

どういう流れか、ウソップが話をその時の話をしてくれた。ウソップは気付かなかったらしいが、近くで見ていたチョッパーはその時の雰囲気というか匂いがいつもと違っていて心配したという。それを聞いたルフィやサンジくんが、何をしたとウソップに詰め寄ったのは言うまでもない。

「誤解だ、おれは何もしちゃいねえよ!」
「言ってみろ、聞くだけ聞いてやる」
「聞くだけな」

はあ、と長いため息をつく私に気づいたチョッパーとロビン。ロビンは笑って、チョッパーは慌てて二人に声をかけている。勢いのままこちらを向いた二人にニッコリ笑顔を返すと、すぐに椅子を戻して話が戻ってきた。

「ルフィと遊ぶ時、出来るだけ傷つけないように戦ったって言ったんだ。だけど、もしかしたら痛い思いをさせたかもしれないからおれに見てやってくれって‥」
「何でお前に言うんだよ」
「そうだ、傷ならチョッパーに言えばいいだろ」
「おれは無傷だけどな」

次々重なる言葉を遮るように立ち上がったウソップが言ったことに、きっと全員が言葉を奪われた。

「ルフィの事じゃない、メリーの事さ」

誰も何も言わないのを見て、ウソップが更に言葉を重ねていく。

「ナマエとルフィが勝負をすると言った時、おれはあいつが勝てるわけねえと思ったから戦う気かって聞いたんだ。けど、それを傷だらけのメリーの上で戦う気かってとったのかもしれない。おれはずっと見てた。ルフィもナマエもメリーに攻撃は一度も当てなかった。あいつはルフィもメリーも、おれの事も傷つけねえように戦ってくれたんだ。」

ウソップは、涙を堪えながら言葉を紡いでいた。彼女がウソップに言った言葉に、その気遣いに、気付けば私の頬は緩んでいた。サンジくんも、新しいタバコに火を点けるその口元が嬉しそうに上を向いている。

「それなら、わざわざ船に来て勝負しなくてもよかったんじゃねえか?」
「来るよ。おれと約束したからな」

ゾロの疑問にルフィが答える。交わした約束は必ず守る、そういう子なのだと。

「昨日、ナマエと約束したんだ。アラバスタを出たら勝負しようって。あいつは、約束を守るために勝負してくれた」
「ルフィとの約束を守って、メリーとウソップも守ってくれたんだな。ナマエはすげえな!」

そう微笑んだチョッパーの言葉に、どこか力なく話をしていたルフィにも笑顔が戻ってくる。そして、ナマエはすげえ奴なんだとまた彼女の話を楽しそうに話し始めるルフィ。

「また会えるかな?」
「ああ。こんだけ会いてえ奴がいる船だ、また会えるさ」

ウソップは、出来るだけ優しくその言葉をチョッパーに伝えようとしているように思えた。少しだけど、あの子のことが分かっていく。分かってきたことがどれも信じられないようなことばかりでも不思議と受け入れられるのは、自分がこの目でその力を見たこと、何よりルフィがすげえすげえとありのままの彼女を受け入れているからなのだと思う。私があの笑顔を守りたいと思ったのは本当だし、ナマエはナマエよ。

「航海士さんところで‥ログは大丈夫?」

ロビンに言われて、ログを確認する。西北西を指す指針の先に、またナマエがいたらいいな。そう言えば、あの子はログポースをどこに置いているのかしら?今度会ったら聞いてみようと、彼女にまた会えることを期待してロビンの言葉に元気よく頷いた。