07

ルフィたちの頭上からガレオン船が降ってきていることなど知る由もなく、いつも以上に静まった海の真ん中でルフィのことを考えていた。遊びという名の力試し。ワニ坊との戦いの中でもぐっと成長したんだとわかるくらい、強くなっていた。そう思えばワニ坊との出会いも彼の糧になっているし、人の縁はどんな時代でも不思議だ。ルフィの仲間の顔触れも、割と近い所で繋がっている。だからこそ、私は自分の力について話しても良いと思えた。ただ、皆が少しずつ色んなことを知ってくれているからこそ、それ以上私に直接聞くことは躊躇っているような気もした。自分で話した方が良いのか聞いてくれるのを待とうか。悩む私の様子を、遊びの終わったルフィはちゃんと汲み取ってくれていた。

なんだ、困ってるのか?

実際ルフィが何をどこまで知っているのか、正直分からない。幼い頃の記憶はどこまで残っているんだろう。そもそもルフィって物覚えは良いんだろうか。他の人が何を知っているのかもあまり把握していない。‥考えてみれば、ルフィのこと何も知らないなあ。これから知っていけば良いか。

「パスミーは、ひつじちゃんのお隣どうだった?」

穏やかな気候に船に寝そべり澄み渡る空を見上げていたら、他の友達にも会いたくなってきた。パスミーも、ひつじちゃんに引いてもらったのが楽しかったみたいに陽気に波に乗り、船首を目的地から少し西へとずらす。

「近くにいる人、近くにいる人‥と」

意識を少し海中へと沈めれば、脳内に浮かび上がる大海原の地図。島の記載は無い代わりに、友達の気配が光となって浮かび上がる私だけの魔法の地図みたいなものだ。アラバスタを出る前日の夜に額を重ねたルフィの気配が一番近いことは勿論、西の方から不思議な組み合わせの気配が見つかった。それともう一つ、いくつかの気配がある場所に向かっている。面白そうなのは絶対に前者だ。

「ひひ、行っちゃおうか!」

そうと決まれば、目的地までは海に白い跡を残しながら一直線。程なくして見えてきたサーカスみたいな船。うん、もうワクワクしてる。その上どんちゃん騒ぎが外まで飛んできていて、より一層ワクワクをくれた。先客の小さな船が繋がれている紐にパスミーの紐も繋いで、帆柱の上まで飛び上がり船の様子を窺ってみる。どうやら誰もエースの存在に違和感を持っていないみたいに、楽しそうに宴が行われている。そして、エースが火拳だと分かってからはまた一味違う大騒ぎ。そんなこともお構いなしに鼻提灯を作って寝ているエースの近くで、赤っ鼻の船長さんはニューゲートのことを世界最強の海賊だと説明した。

「‥やけに詳しいじゃないか、アンタ」

船長に視線を向ける皆の後ろへふわりと着地して、その足元を潜りエースの元へ向かう。萎んでは膨らむ鼻提灯をつついてやれば、ぱちんと割れた拍子に目を覚ました。

「‥そりゃそうさ。昔‥おれはこのグランドラインで直に奴と遭ったことがある‥!」
「ほう、オヤジの事知ってんのか。」
「おはよ、エース」
「ナマエ!また会えたな!」
「起きとるーっ!」
「ガキも増えとるーっ!」
「ナマエ?!?!てめえ何でおれの船にいる?!」
「二人が一緒にいたから来ちゃった」

ひひっと笑う私の真似をするように、真っ赤な鼻の下に真っ白い歯を剥き出しにしたバギー。怒るんじゃないかとドキドキしたけど、久しぶりだなと片手を顔の隣にあげて私の手が重なるのを待ってくれている。パチン、といい音と一緒に本来の笑顔に戻ったバギーは、切り離れた両手で私の身体を持ち上げてエースの元へふよふよと届けてくれた。そして、腕を伸ばしたエースが私を腰骨に乗せるようにして抱えてくれる。

「おれでいいのか?」
「うん、バギーは抱っこしないから」

理由は知らないけど、バギーは昔からそうだった。大きくなった今もそれは変わらなくてちょっと寂しいけど、代わりに切り離れた腕で飛行機みたいに空を飛ばしてくれる。

「ちょっとバギー、そのガキは誰なんだい?」
「妹分みてえな奴だ。それより呼び方は気を付けろ。この船が粉々になっちまう」

そう言ってみんなに釘を刺すバギーの様子に、エースは詳しいんだなと笑っていた。彼の近くまで行ってもらい、その特徴的な赤鼻に手を伸ばす。バギーは鼻を触るなと怒るけど、手を払ったりはしない。真ん丸で優しさが詰まったその赤鼻が、私は大好きだった。

「ひひ」
「ひひ、じゃねえ」
「何だこの赤い鼻触ると良いことあんのか?」
「てめえは触んじゃねえ火拳!!」

別に御利益はねえと自分で言って自分で突っ込んでいるバギー。それでも触らせろよと手を伸ばすエースの鼻に私が手を伸ばすと、その指先を見るようにエースの瞳が真ん中に寄った。

「エース、面白い顔になってる」
「そうか?擽ってえな‥ぶえっくしょい!」
「よいしょー」
「‥アイツ、船長の触ったぞ‥」
「火拳のもな」
「いや、火拳のはいいだろ」

割と聞こえるくらいのひそひそ話。私の背中をぽんぽんとさすったエースが、そんな船員たちに陽気に声をかけた。

「何だおめえら、遠慮すんな。宴だろ?!ワーッとやろうぜ」
「はっ!!そりゃそうだ!折角の宴だった!!」
「わーっ!」

何日ご飯を食べなかったのかなと思うくらいの食べっぷりと相変わらずの自由度、それからバギーの仲間の個性的な芸を肴に、宴は夜通し続いた。