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「ナマエ、バギーとはどこで出会ったんだ?」
バギーは結局おれ達に部屋を用意してくれていた。ナマエと寝るのは寒いだろうからと沢山の毛布を貸してくれる辺り、やはり気のいい奴なんだなと思う。ナマエのことをよく知っている奴との出会いを疑問に思って問いかければ、ナマエは嬉しそうに笑って話し始めた。
「前に話したのを覚えてる?船が壊れちゃって困ってた時に、助けてくれた船の事」
「ああ、グランドラインでオヤジに再開するより前の話だろ?」
「うん。バギーもその助けてくれた船に乗ってたの」
「それじゃあアイツの‥」
その船と言うのは、海賊王と呼ばれた男の船だ。ナマエはその話をした時も妙に奴の名前を隠していた。だけどオヤジの息子である仲間達はその船が誰のものかを知っているから、彼女がアイツと友達だったことを嬉しそうに話してくれた。悪気がないのは分かっているし、ナマエもその話をする時はとても嬉しそうだった。だからこそ自分の中で燻る気持ちが、憎くもあった。
「船にいる間、バギーはいつも私を笑わせてくれたの。ニューゲートもバギーのことを知ってると思うよ」
「へえ、オヤジが‥」
「バギーも本当は、シャンとも仲良しなんだよ」
シャンというのは四皇の赤髪のことで、二人はよく一緒に居たらしい。赤髪のこともバギーに話したかったともらす彼女は、バギーがその話を嫌がると思っているんだろうか。嫌がる理由は流石にわからないが、バギーへのささやかな気遣いならわかる気がした。つまりそれは、多分おれにも同じようにしてくれているということ。
「なあ、ナマエ‥お前はおれの出生を知ってるのか?」
その船の船長の話を聞きたいような、口にしてほしくないような。どうしたらいいのか自分でもわからない感情に、気付けば妙なことを口走っていた。ナマエはその問いかけに、ロジャーもガープも友達だからとだけ返してくれた。
「そうか」
ナマエの口からロジャーという言葉を聞いたのは、初めてだったように思う。おれが憎んでいると知っていて言わないでいてくれたとしか思えない。ナマエも言葉を探しているのは分かるのに、返す言葉が見つからないまま少し気まずい時間が時を重ねていく。
「昔ね、ニューゲートが言ってくれたの。皆海の子だって」
オヤジに話したあの日、同じようなことを言われて救われた。
誰から生まれようとも‥人間みんな海の子だ!!グララララ!
それを告げれば、ナマエは優しく笑った後に慌ててオヤジからは何も聞いてないと念を押す。いくら相手がナマエとは言え、簡単に口を割る人ではないと信じられるだけのものを十分すぎるほどもらっているから、そこは心配していない。それを聞いたナマエは、オヤジこそ海みたいな人だと、だからみんなオヤジの子供だと、あの豪快な笑い方を真似しながら無邪気に笑った。オヤジの前では泣いてばかりだとマルコに聞いたことがあるけど、一人で海を渡っている間に見るナマエはいつでも笑っている。オヤジに会うまで、全部抱えているんだろうか。
「オヤジとはいつもどんな話して寝るんだ?」
「旅の話だよ!ニューゲートの旅の話はいつも短いの。本当はもっと話したいことがあるんだよ。でも自分は息子と共有してるからって、私の旅の話を全部聞いてくれるの。」
ナマエからオヤジの話をこんな風に聞くのも、初めてだった。きっとおれの知らないあの人を、ナマエは沢山知っているんだろう。おれは彼女と共有できるオヤジの姿を、どのくらい知れているだろうか。彼女が知らないオヤジの姿を、どのくらい知れているだろうか。たしかにオヤジはおれの話もよく聞いてくれる。口は悪いし、見て習えの背中で語る人だ。それから、真っ向から受け止めてくれる人だ。
「なあ、今日はおれにも聞かせてくれよ」
「うん!そしたらニューゲートもびっくりしてた千年竜の話してあげる」
「千年竜?」
「一年くらい前かな。東の海に動物と喋れる女の子がいてね‥」
寝そべりながらも、身振り手振りで表現しながらその旅の話をしてくれた。竜と喋れる少女が優しかったこと、竜ジィと呼ばれたその竜も嬉しそうにしていたこと。竜の身体は想像より柔らかかったこと。その島のおじいさんの話が長かった話に入った途端、話の勢いは徐々に欠伸混じり、途切れ途切れで遂には寝息に変わってしまう。相当長かったんだろうな。表情豊かに話をしてくれるから、聴いてるこちらも一緒に旅をした気分だ。オヤジはどんなことを思って聞いてるんだろうな。顔にかかる細い髪を指で退かしてやれば、その指を小さな掌がキュッと掴む。
「おやすみ、エース」
意識を戻したナマエは、おれの額をふわりと撫でて再び規則正しい寝息を立てる。おれも他の仲間も皆、お前のことを妹だと思ってるよ。お前がくれる優しさを、少しずつでも返したいと思ってる。その愛らしい寝顔をずっと見ていたかったはずなのに、いつの間にかおれも身体の力が抜けていたようで、気付けば朝を迎えていた。