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エースが一緒に寝てくれたおかげで、気持ちの良い朝を迎えた。バギーに急かされながら、ストライカーに繋いでもらっていたパスミーで荷支度を整える私の元に、バギーが上半身だけ降りてくる。
「約束通り、麦わらの居場所を教えてもらうぜ」
約束通り、私はルフィの気配を地図で探す。不自然な移動をしているそれが何を指すかは、すぐに分かった。予想外だけれど不思議なことは一つもない。
「空に向かってるみたいよ‥?」
「なにぃ?!」
「追いかける?」
「おれにハデに飛び散れって言うのか?!いや待てよ、あそこにゃ確か‥いやいや‥」
上半身を胴体に戻してどうしようかと真剣に悩むバギーに、戻ってくるまで待つ方が賢明だよと告げて彼に手を振ると、それなら用はないからさっさと行けとちょっと涙目になっている。隣で見ていたエースは少し驚きながら彼の顔を覗き込んでいた。
「‥泣いてんのか?」
「汗だ、この素っ頓狂」
からかって盛り上がる二人の後ろが次第に騒がしくなって、遂にはピエロ号の甲板を駆け回る足音がドラムロールのように鳴り響いた。
「船長!怪しい船が近づいてきます!」
「なにぃ?!」
「待てバギー!ありゃ確か‥」
「あ、私のお客さんだ」
「「「なにぃ?!」」」
「役人か?!誰も来ないと言ったろ!」
そう思っていたのだけど、近づいてきた船から顔を出したのはスーツを着た知らない男だった。
「‥バギー、あれ誰?」
「おれに聞くなよ」
その男は私やバギー、それからあちらの船からの待ったも聞かずに、パスミーの船首‥つまりボートのバウデッキに土足で着地しようとこちらに降りてきた。
「‥やっちまったな」
「ああ、ありゃとんだハデ馬鹿だ」
船縁に肘をついてこちらを見下ろす二人の声の通りだ。そいつの足が着く前に襟元を掴んで元いた船まで投げ飛ばし、下降していく男の腹に肘鉄を三発入れた後、足首を掴んで近くの岩場に叩きつける。そして、彼の代わりに私がその船へと土足で足をつけた。ここまでして漸く知った顔に挨拶だ。
「躾がなってなくてごめんなさいね。こちらで始末しておくわ」
始末する、の一言で彼はこの場にいなかったことになる。ステューシーちゃんは政府の中でも特に凄い諜報部員らしい。時々政府のお遣い事でこうして会いに来てくれる。彼女の実力を見込んでの政府の判断だろうし、毛嫌いしている政府の中で彼女は数少ない話が出来る人だ。彼女にとっては諜報活動の一環だったとしても、彼女の優しさに触れてからは嫌悪感を抱かなくなっている。
「何も知らない奴もいるんだね」
「そんなに拗ねないで。貴女の為にわざわざこんな所まで船を出して来たのよ。それなのに私以外の所で楽しんでいるなんて。」
「確かに、ステューシーちゃんがこっちに来るなんて珍しいね」
「今日は貴女に嬉しい手土産よ」
微笑む彼女は、綺麗にネイルが施されている細い指で仮面を付けた白いスーツの人にパチンと合図した。
「電伝虫でセンゴク元帥と繋がっております」
「センゴク?ステューシーちゃんが?」
「こちらの用事のついでみたいなものよ」
彼女は言わば天竜人御用達。てっきり政府絡みの面倒事かと肩を落としていた私は、彼女の手土産に笑顔で電伝虫の受話器を受け取った。耳元から聴こえる声は私の表情とは対照的にいくらか深刻そうだけれど、友達の声が聞けて嬉しいことには変わりない。センゴクからの用件を聞き受話器を置けば、彼女アイスティーを用意してくれた。
「センゴク元帥もあなたに振り回されるのね」
「海軍だし当然、って思ってる?」
「どうかしら?ただ、今の電話で私のいつものお土産は貴女の笑顔を奪ってるんだなって実感したわ」
「ステューシーちゃんだってお仕事だもん、仕方ないよ」
「ふふ、それもそうね。それなら私の用件も一つ。こちらも五老星がお呼びよ。」
「それじゃあ近いうちに行くねって伝えて」
「それなら二週間以内には来ると伝えておくわ」
「二ヶ月にして」
「それだと今すぐ連行になるわよ?」
「やだ!せめて一ヶ月!」
二週間よと押し切られ、すぐに船を引き返す準備を始めた彼女と別れのハグをしてパスミーへと戻る。スカートの裾と襟元、それからいつの間にかパスミーにも取り付けられている黒電伝虫を全て外して彼女の船に投げ返せば、ステューシーちゃんがひらりと手を振った。
「ごめんね、パスミー。嫌な思いさせて。」
船首を撫でてから皆に謝りにバギーの船に上がれば、皆が顎を外したようにこちらを向いている。
「何だお前‥」
「強いのか‥?」
「あの、えーと‥ひひ」
どうすんだよと鼻先をくっつけてバギーが言うから、余計と何者だ船長とどういう関係だまさか白ひげと、とざわつき始めていて、エースも交じって三人お揃いでひひっと笑って誤魔化してみる。
「船長の妹分ってことは、さっきの身のこなしも船長が教えたんですか?!」
「子どもにまであんな事出来るようにさせちまうなんて」
「やっぱりおれたちの船長は最高だぜ!」
誤魔化される以前に勘違いしてくれるんだから、この船の人たちはなんていい人なんだろうか。キラキラした笑顔で私の肩を叩く人もいるし、バギーを胴上げしようと話している人もいる。
「バギー、大体どこの船も皆船長に似るんだよ」
「ひひ、そりゃおれがこんな能天気だって言いてえのか?」
「まあでもお前もこんなもんだぞ、ひひ」
「何だと?」
歯を見せたまま喋っているから聞き取りづらいけど、ともあれ何とかなってよかったとほっと胸を撫で下ろす。バギーが胴上げされたのを見届けてから、私は約束通り船を出ることになった。また少し涙目になっているバギーの背中に手を置いたエースに気をつけてねと声をかければ、大きく手を振ってくれた。すっかり仲良くなった二人にもう一度手を振って、私は急いで目的地へと向かうことにした。