02
「あー‥、我輩夢でも見ておるのか」
「夢じゃないよナマエだよ!ほっぺ引っ叩く?」
「うーむ、夢ではないようじゃ。相変わらず強引な幼子である」
引っ叩こうかと問いながら、もうすでに背中を叩いていたらしい。むせる途中で優しい笑みを見せながら、いつもそんなに元気よく入ってきていたのかとツッコまれて少し恥ずかしくなった。今後もやるね、と一応宣言だけはしておいた。空になった如雨露を持ったガンフォールが、私にカボチャのジュースを分けてくれる。
「変な鎧着て、今日は神様お休みなの?」
身に纏っている重そうな鎧を横から後ろから、身体の周りをくるくる回ってその姿を眺める私にガンフォールが言った。
「吾輩、今は神ではなく空の騎士をしている。」
「へえ、空の騎士!かっこいいねえ!」
お家を見れば「騎」と書かれていて、ものすごいアピールだ。かっこいいじゃない、ガンフォール。凄いねえいいねえと、心のままに飛び出す声。それを止めたのは、お茶のみ友達のぽかんとした表情だった。
「あ、ごめんなさい」
一人で浮かれていて申し訳なかったと頭を下げると、おじさんお茶友達もなぜか謝った。そしてもう一人、天使のような女の子が困惑した様子で私に微笑みかけてくれる。
「この幼子はナマエという。青海人じゃ」
「青海の方でしたか。私はパガヤです。はいすみません」
「私はコニスです。この子はスー。父上とともに、神様に助けていただきました。」
「助けて‥?」
言葉に引っかかり話を聞けば、突然悲しそうにするのコニスの背を優しく撫でてやる。見かねたガンフォールが、吾輩が話をしようと事の成り行きをかいつまんで話してくれた。何やら想像以上に物騒な話だった。それにルフィたちと知り合ったというからこれまた驚きだ。あの子たちは本当に騒動に巻き込まれるのが好きだな。此処もまた、ルフィが強くなれる地なんだろうか。
「へえ、随分様変わりしちゃったんだね」
その言葉に、コニスが以前も来たことがあるのかと尋ねる。それに答えてくれたのはガンフォールだった。
「先ほど話した海賊と同じ二十年前にこの地に来た」
「二十年前にですか?この子が?」
「誠に不思議なことだが、ナマエはいつ見ても容姿が変わらぬままなのだ」
「なんと!驚いてすみません」
面白い人だな、パガヤさん。私が子どもで、二十年も前にここにきていると知って驚きはすれどもそれで終わり。そしてコニスも何の疑念も持たないでいてくれる。そこまで矛盾を重要視していないのか、ただ気付いていないだけなのか。そこまでの余裕が、今はないのかもしれない。いずれにしても、ここの住民は皆やっぱりいい人だ。
「彼女もまた、吾輩の友である」
友、と紹介してくれたガンフォールの持つ如雨露は虹を作り、私に言葉を運んでくれる。随分伸びた髭に手をやる彼の如雨露を借りて、野菜の水やりを交代した。
「ロジャーの話をしたの?」
「青海の、”海賊”というものを教えるために少しな。今は、島の歌声について話していたところだ。」
「あら、邪魔した?」
「はは、少しばかりな」
「ひひ、かたじけない」
このやり取りを聞く空の民もまた愛らしく優しい笑みを零して、そこはまるで雨上がりの晴れた日のように心地よい風が通り抜けた。ロジャーを友と呼び、懐古するガンフォールの表情はとても穏やかだ。それにつられて、あの頃はしゃいで回ったことも思い出す。そう言えば、あの時も空に来てからロジャーの気配を辿って空に来たんだっけ。そんな私たちのやり取りを見て、コニスが微笑みながらハープを奏でてくれた。 野菜に水やりをしたり、ハープを弾いたり、ちょこんと座ってカボチャジュースを味わっていたり、一件匿われているとは思えないほど穏やかに過ごしているけれど、それは意図してガンフォールがこの空気にしようとしているのだろう。
「ナマエさんは、」
「ナマエでいいよ、コニス」
私の名を呼ぶコニスに笑顔で告げると、ではと微笑みながらもう一度私の名を呼んでくれる。
「今のスカイピアを知っても、この国がお好きですか?」
「うん、大好き!」
「ふふ、それは良かった」
その笑顔は、何を感じ取ってくれたのだろうか。コニス達もここにいればとりあえずは安心だ。少なくとも狙われる可能性はぐっと低くなる。
「ねえ、神様が替わったんだよね?シャンディアはどうなった?」
「ああ、彼らも大打撃を受けた。戦いは以前よりも‥」
声を遮るように、ピエールが大きな声を上げる。同時に、ガンフォールの顔つきも急に引き締まった。
「どうなさったので?!」
「留守を頼む、仕事だ!行くぞピエール!!」
それだけ言い残すと、ガンフォールはピエールと共に飛び去っていった。シャンディアの事、中途半端に聞いてしまった。気が気じゃなくなっちゃったじゃない。
「なにかあったんでしょうか‥」
「仕事だってさ。どっかで育ててるカボチャが一大事なのかもね」
「まさか、私たちの‥!」
「大丈夫、心配いらないよ。やるときはやる男だもん。神様だった頃を、知ってるんでしょ?」
ね、と念を押せば、険しい表情ながらも首を縦に振る。
「じゃあ、私も急ぐから!またね、コニス、おじさん!」
「はい、また」
「危ないからここを離れたらだめだよ!私の船をここに置いていくから、一緒にいてあげて!」
「船、ですか‥?」
「そう!パスミーっていうの!仲良くしてあげてね!」
船と仲良くとは‥と立ち上がろうとする彼女らに座っていてとジェスチャーをすると、少しだけ笑って、今度は笑顔で首を振ったコニス。わたしもひひひ、と歯を見せて笑って見せた。