04
ワイパー達の会議は、すぐに再開された。私はテントの外で、アイサと一緒に中の様子を覗いて待つことにした。私がワイパーと話をしている間、アイサは外に出てきたラキに私について話を聞いたらしい。外に出てきた時、ちょっと怯えながらも私の名を呼んでくれたのだ。
「ナマエは、ワイパーの事が怖くないの?」
「‥アイサは怖いの?」
そのまんまるの瞳に問いかければ、少し俯きながらこくりと小さく頷いた。
「そっか。」
ブラハムがしてくれたようにとはいかないけれど、自身の小さな掌でアイサの頭を撫でる。困惑気味に私の名を呼んで、ひひ、と笑うだけの私に首を傾げている。
「‥!!」
突然アイサの顔が青ざめ、小さな肩を飛び上がるほど高く揺らした。そして声をかけるよりも先に、勢いのままテントに前のめりで入って行ってしまった。
逆に私は、アイサの恐怖に怯える表情に笑顔を瞬時に消去された。どれだけの恐怖が、あそこまで血の気を引かせるんだろうか。彼女にとって、どれだけの苦痛が襲っているんだろうか。そういう私は、あそこまでの恐怖を感じたことがあったっけ‥?
アイサを追いかけるようにテントの中に入ると、顔を上げたアイサの目の前に彼女が怖いと言っていたワイパーが見下ろす顔があった。二人の間に割り込むように身体を滑らせれば、その隙に逃げるようにラキの後ろに隠れたアイサが二つの声が消えたと言った。アイサの言葉に目を見開くワイパーと、それにまた怯えるアイサ。なるほど、アイサの恐怖は誰かの声が消えていく瞬間を嫌でも感じ取ってしまう事なんだ。
「多分ガンフォールと、神官が一人‥」
二つだなと確認するワイパーに返した彼女の言葉に、今度は私が肩を揺らすことになる。ガンフォールの声が、消えた‥?煩くなる心臓を静めるように、キュッと掌を握る。その手を、ワイパーが上から力強く握った。
「声が消えたからと言って、死ぬわけじゃない。お前はここに居ろ」
「‥約束は守るから、ごめんね」
跡がつくほど強く握られた手を振り払う私の背に、足を踏み出すより早く彼が担いでいた大きな銃を当てられる。
「止めてワイパー!」
「ナマエも落ち着け。アイサが怖がってる」
「とにかくそれ降ろせよワイパー!」
「全員落ち着け」
周りの声は、外の音にしか聞こえなかった。ただ一つ、背中で装填する音だけがやけに大きく聞こえる。
「‥邪魔はしないってば」
「そうじゃねえ」
アイサの前で怖がらせたくはなかったけれど、自分の目で確かめないと落ち着くなんてできなかった。一歩踏み出して床を押すように蹴り上がり、背に当てられた銃を真上から一瞬で蹴り落とす。目の前の光景と耳を裂くような音に、アイサが目を瞑った。ごめんね、後でちゃんと謝るから。後ろから名前を呼ばれたけれど、それで立ち止まれるならとっくに止まってる。絶対邪魔はしない、約束したから。私はスピードを一気に上げて、目的の場所を目指して島の奥へと乗り込んだ。
「‥ジャンディアではないな」
「しかし‥変わった子供だ」
さっきの会議の通りなら、ルフィたちが神のいる島へ入り込んで何かをしたと言うことだ。神官が待ち構えているのは、それに乗じて殴り込みに来るであろうワイパー達。私を待っているわけではないのなら、構ってはいられない。
「貴様、何者だ」
「ナマエだよ。邪魔しないで」
「こちらの台詞だ。これより先に入ると言うなら、そちらの都合で動く義理もない」
忠告したのに、遠くにいた奴まで攻撃しようとするから嫌になる。飛び込んできた彼らの中心で雲の川に思い切り拳を当て、生まれた大波が龍のように立ち上り彼らを一飲みする。と言ってもただの目眩し、時間稼ぎ。自分がその場から抜けられれば良かった。それに、目的のシャンディアの姿もじきに見えるだろう。追っては来ないと踏んで、そのまま島の奥へと加速させた。
「ガンフォール、どこ‥!」
空の島は制約がない代わりに身体はずっしり重くて動きにくい。いつも以上に息はきれるし、下の海と何が違うのか、魚たちも私にすぐに気付くらしい。ニューゲートに教えてもらった方の気配の辿り方は物凄く気力を奪われるけれど、こちらではそれしか頼れるものがない。蜘蛛の糸のようなそのか細い気配を辿り、どうにか祭壇へと辿り着いた。
「あれ、ナマエ?!何でここに!」
「チョッパー!」
チョッパーがいる。ただそれだけで十分すぎるほど安心出来た。よかった、彼が居てくれて。急いで二人の元へと駆け寄り、横たわるガンフォールの胸に耳を当てる。大丈夫、心臓は動いてる。
「よかった、無事で‥!!」
「すぐに手当てする、必ず助けるよ」
チョッパーはそう言ってくれた。優秀な船医の言葉は信用できるし、安心して任せられるのは何より心強い。とはいえ彼自身さっき意識を取り戻したばかりだそうで、見れば体のあちこちに火傷の跡が残っている。ガンフォールもチョッパーも、傷だらけだ。ガンフォールの傷だらけの身体を、傷に触れないよう撫でる。それから、チョッパーの逆立つ毛並みを直すようにそっと背を撫でた。
「守ってくれて、ありがとう」
「おれが、守ってもらったんだ‥」
「チョッパーだって、沢山守ったじゃない」
傷だらけでマストの折れたメリー。チョッパーは自分が折ったと言うけれど、折らなければ船は丸焦げだっただろうし、自分の命だって危なかったかもしれない。全て、チョッパーが居たから守れたものだ。そのままを伝えると、もっと強くなりたいと堪えていた涙を流しながらそう言った。
「それよりナマエ、お前さっき‥」
「ん?‥あれ、ルフィから話聞かなかった?」
「いや、聞いたけど‥でも、」
少し落ち着いたチョッパーが、思い出したように言った。自分の状況さえ朧げなのに他人の情報に処理が追いつかないのは当然だ。
「落ち着いたら、また話すね。約束」
今話しても余計に追いつかなくなるだけだ。私の言う約束の意味は聞いたみたいで、目を開いて、嬉しそうに約束だとチョッパーが言った。
「ねえチョッパー、ガンフォールをやったのは神官?」
処置の手を動かしたままただ小さく頷く彼を見て、心臓がドクンと痛みを持って音を鳴らした。
「ありがとう、ガンフォールを頼むね!」
「ナマエ、どこ行くんだよ!」
やったのは神官、それは今ワイパー達が戦ってる。ならば私の目的地は一つしかない。私も森の奥へと入り、神の社へと向かった。