06
「あれ、ワイパーは?」
村に戻っても、ワイパーたちの姿はなかった。代わりに出迎えてくれた酋長は、彼らが島へ向かったきりまだ戻っていないと教えてくれた。戦いを続けている気配はないのに、何をしているんだろう。早くワイパーに伝えないと。再び出ようと踵を返すと、酋長が待ちなさいと後ろから声をかけた。
「慣れない者の前で喧嘩をしたようだな」
穏やかに笑う酋長の陰から、背を押されるように姿を現したアイサ。島へ行く前に相当怖がらせてしまったのは、表情からも酋長の服を握るその掌からも見てとれた。多少説明はしておいたと言葉を足してくれたけれど、きっとその身で感じた戦慄を短時間で拭い去るのは難しい。
「怖い思いさせちゃって、ごめんね」
衝突した時の加減を、空ではあまり考えていなかった。ワイパーたちがこの力も含めて対等に身を置いて接してくれていたからだ。それに甘え続けていたツケが回ってきた。酋長に間に入ってもらって漸く貰えた謝る機会。深く、深く頭を下げるしかなかった。
「あたい、怖かった」
アイサの震える声。どんな顔で、どんな気持ちでいるのかと思うと、直視出来ず頭があげられない。そんな私の名前を呼び、私の肩に彼女の手が触れた。
「一人で島に入って、ナマエの声が消えちゃうかもしれないって思ったら、すごく怖かった」
そのあまりにも幼く、どこまでも優しい声にゆっくりと顔を上げる。目の前には、その大きな目元に涙をたっぷり溜め込んだアイサが待っていた。
「アイサ‥」
「ナマエが無事で、よかった」
そう言って笑うアイサの瞳から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。同時に、何も知らないことは幸せだと言ったエネルの言った言葉を思い出す。やっぱり私もそう思う。何も知らないアイサが、他の仲間にするのと同じように私のことを心配してくれる。本当に、私は幸せ者だ。
「ありがとう、アイサ」
無事に仲直りだなと言う酋長の言葉に、2人で上向きの笑顔を向けると、酋長も優しい笑みを返してくれた。
「ガンフォールは、どうだった?」
「大丈夫、心配いらないよ。‥私はワイパーに伝えることがあるから、ちょっとまた行ってくる」
「ワイパー達なら北東の離島にいるよ。でも気をつけて‥!」
「え、じゃあすぐ行けるね!気配辿るのが大変だったんだ、ありがとうアイサ!」
身を案じてくれるアイサ。酋長も同調するように私の名を呼んだ。
「酋長も私が心配?」
「少なからず、な。しかし、ここにはカイグンがいないからな」
そう言って笑った酋長は、アイサにも心配はいらないとその小さな背を撫でる。分からないながら少し緊張の糸が緩んだアイサの表情。自分が頭を撫でられた時も、あんな感じなのだろうなとふと感じた。
「皆、お前がナマエだと知っている。怖がらず、行ってきなさい。但し、無理はせんようにな」
「ひひ、行ってきます」
じゃあと手を振る私を、酋長は心配そうな表情で見送っていた。アイサの前だから明るくしていてくれただけで、心配していないわけではない。海軍がいない代わりに、いつもは無いしがらみが新たに生まれているからだ。私はお守りがわりの石を右手に握って、ワイパー達の元へと向かった。