14
辿り着いた巨大豆蔓の下から、いくつかの気配を感じる。ワイパーとガンフォールと、エネルと。それから、ルフィの仲間が何人か。
空にも海はあるけど、私には不向きな地形、不向きな環境で。こちらへ来てこんな風に戦うことがなかったから、今回ばかりは動き辛いと感じている。陸地を行くのもはるかに時間がかかるし、息が上がるのも早い。逸る気持ちを押さえつけ、ただひたすらに足を進め辿り着いた場所は、その威厳を保ったままの巨大な都市。ここが、シャンディアの聖地。
「ワイパー‥!」
「ヤハハ、遅かったじゃないかナマエ」
都市の中心部で膝をついているワイパー。そして、それを見下ろすエネル。ワイパーが私の名前を呼ぶ声をわざと掻き消すように、エネルは言葉を飛ばす。憎悪の念を向ける私の表情に、満足気な笑みをたっぷりと含ませながら。辺りを見れば、ガンフォールとロビンもその地に横たわっていた。どうしてか、船にいたはずのナミもいる。‥チョッパーは気絶しているようだ。
「ラキの言葉、聞けた‥?」
「‥聞いたさ」
「‥じゃあ、ラキは、?」
ワイパーからは言葉がない。ただ、苦虫を噛んだように険しい顔つきになっただけだ。それを嘲るように説明したエネルは、女と言えど戦士だ、逆らった人間は皆等しく黒焦げだと上を指す。
「海楼石など、お前の入れ知恵か?」
「ワイパーが自分で用意した」
「そうか」
一度は倒されたが心臓マッサージを自ら施したとエネルは言う。頭の悪い奴じゃないと思っていたけれど、その傷のほとんどない身体を見れば、その能力への理解が深いのが良く分かる。
対極的に、ワイパーは排撃の反動で身体が震え、血を吐いている。それでも、そのギリギリの身体から目の前にいる敵へおれの名を呼ぶなと声を絞り出す。
「‥八百年前、この都市の滅亡を賭けて戦った‥誇り高きシャンドラの戦士達。その末裔が、おれ達だ。」
いつか、おれが鳴らすんだ。ノーランドの為に戦った、先祖のためにも。
「故郷を奪われた大戦士カルガラの無念を継いで四百年‥先祖代々、ただこの場所を目指した‥!」
その時お前がこの地にいなくても、シャンドラの鐘の音は青海にもきっと響くから。
「やっと、辿り着いたんだ‥!!」
お前も生きて、聴いていろ。
「ワイパー!!」
誰よりも強くなって鐘を鳴らすのだと。誰よりも強くならなくては、大事な仲間も大事な意志も守れないからと。もう何時倒れたっておかしくない身体を、気力だけで立て直すその姿に、決意を宿した瞳でそう話してくれたいつかのワイパーの言葉が灯された蝋燭のように灯りを燈す。
「手は出すな。約束だ」
彼の言葉に、その場に縫い付けられるように動かなくなった足。
「友の言葉だ、許せよナマエ」
エネルは手に持った棒で、その背から出る太鼓の1つを軽快に叩いて見せる。ドドン、と低い音と共に雷鳥が生まれ、囀りのような音をしきりに鳴らしながらワイパーの身体を通過した。その雷鳥が役目を果たして影を消すまでを、コマ送りの映像を見るようにただただ目に映していた。
「お前はそうやって、見殺しにすんのか」
立ち尽くす私を横目に見たゾロが、敵う敵ではないと理解しながらエネルへと立ち向かう。今度は雷獣が牙を剥き、呆気なく二人が地に倒れた。戦場の隅で、ナミの怯える声が頭に響く。コイツには、誰も敵わないと。
そんな彼らの言葉が、私の足枷を外した。
「手出し無用じゃなかったのか」
もう十分、身体は温まっている。準備運動すら必要ない。余裕そうに腕を組む彼の横腹に、重い一蹴を落とし込む。衝撃はそのまま届き、腕を崩すことなく左の遺跡に衝突する。その姿を追いかけ、彼の首元に足を置いた。
「手は、出してない」
「ヤハハハハ!やはりお前は面白い!お前は女で、子供で、強い。此処にいる誰よりも、な!」
不気味な程に響き渡る彼の声が、頭の中をぐらぐらと揺らす。彼が声を上げる度足裏に伝わる喉の振動に、吐き気がしそうだ。
「お前が、欲しい」
「勝てたらね」
台詞と共に地を蹴り彼の背を取ろうとしたが、その背の向こうに立ち上がる姿が私やエネルの動きを止めた。
「‥何故立ち上がる」
その姿に問いかけるエネルに、意識もほぼない中で力強く声を上げるワイパー。
「先祖の為!!」
誇りである大戦士の想いを守るためここまで立ち上がる彼の姿を、ご先祖様は見てくれているだろうか。容赦なく、塔のように立ち昇る青白い巨大な閃光が彼に向けられたその瞬間、私は気付けばエネルに殺意を向けていた。
「‥約束だ、ナマエ」
ワイパーのその言葉を聞いて喜んだのは他でもない、エネルだっただろう。動きを止めたワイパーに、神の裁きが下される。
「あまり、失望させんでくれ」
台詞を吐いたエネルは、持っていた金棒と共に私の胸元に当てると、表情を消して私の名を呼んだ。