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「叫びもしないのか。案外つまらんな」
エネルが、金棒を通して間接的に一気に熱を送り込む。体温の上昇と共に彼の能力も消えたけれど、金棒に残る余熱が充分すぎるくらいに体温を上昇させていく。
「体温の上昇は、その能力を制御できなくなるらしいな」
「‥そっちこそ、もう、能力使えてないじゃない」
漏れ出した能力を直で感じ取ったエネルの、何かを企む不敵な笑み。こちらも奥歯を噛んでぐっと堪えるのが精一杯で、言葉は返せどお腹の底で悪魔が笑っているようにすら思えてくる。
「この島を青海に還すくらい、造作もないのではないか?」
軽く吐き出された挑発的な言葉が、また一つリミッターをカシャンと外す。
「ひひヒ‥!!!」
胸元の金棒を握り、へし折った拍子に近づいた距離で彼を蹴り上げる。爆風と共に辺りの雲に穴が開き、転がるゾロやロビンの身体が数十センチ飛ばされるのが見えた。
‥ミンナ、転ガッテル
遺跡に打ち付けたエネルの身体の真上に飛び、左の胸を狙ってかかとを振り上げた。
「ナマエ!!」
ナミの声が、手を引くように静止をかける。
そうだ、壊シタら駄目、消シタら駄目。
火山のようにグツグツと煮え返る身体の奥底に、石を投げ込むように落ち着けと長く息を吐く。空高く舞い上がったエネルの姿は、もう見飽きた青白い閃光となってこちらへ舞い戻ってきた。
「ヤハハハ!それがお前の力の本性か!やはりお前には、強き者が相応しい!」
耳障りな高笑いが、私の中で波紋を生む。何かに引っかかれば、もう一度波が立てば、すぐに大波になりそうな水面の棘。それを育てぬよう、一歩一歩を慎重に足を踏み出して。
エネルの横を通り過ぎ、大きな穴の中で倒れこむワイパーの元へと滑り降りる。僅かだけど、まだ声はある。少しの安堵を潜り抜けて、抑え込んでいるものが溢れ出す。ワイパーや、みんなを、守らないと。
「私の勝ちだから」
「分かっている、多少の手加減はしておいた」
「‥もう、行って」
穴の縁から覗き込むようにこちらの様子を見物していたエネルは、それ以上何も言わなかった。そうして、何もなかったかのようにナミに声をかける声がした。自身の脈打つ音が聴覚を支配し始めていて、彼らが何を話しているかは分からない。ただ、ナミの無理に明るくしている声はぼんやりと耳に入ってきた。そして穴の中へと降りてきたナミは、ワイパーの目元の涙を拭うと、その雫を私の頬にそっと置く。
「 」
「‥もう、行って‥」
何かを言ってくれたけど、聞こえない。早く戻らねば、いよいよナミまで酷い目に遭ってしまう。私の短い言葉の意味を受け取ってくれたかはわからないけれど、ナミは何か言葉を残して去って行った。エネルがナミを連れ離れていく気配を確認してから、重くなった身体を叩いて気を持ち直す。誰か一人でも、目を覚ましてくれたら良い。そのうち来てくれるであろうルフィに、誰かが声を届けてくれさえすればいい。
右手でワイパーの掌を握り、左手には御守りにしたワイパーの羽を握って、すうっと意識を集中させる。コンマ零何度ずつの体温の上昇も敏感に感知するこの身体では、一人だけでは難しいけれど、今はワイパーがいてくれる。力を貸してねと一つ息を吐いて、私は自身の能力で辺りを囲った。ロビンやチョッパーは能力者だから、身体の力が一気に抜けてしまうかもしれない。慎重に、慎重に。
大丈夫、仲良くすればいい。怖がらないで、少し身体を貸せばいい。代わりにその能力を少しだけ貸してくれたら、きっと次もまた仲良くなれる。
制御の螺子が緩まぬように、拳を握りしめて。お風呂に入った時よりも、身体が熱い。吸収できる量はとうに超えて、力はあっという間に制御範囲を越えて漏れている。ワイパーの気合を見習って、あと数秒だけその囲いを保った。
「皆、ごめんね‥」
此処にいたら、皆を危険に晒すことになる。ふらつく足では一つ上の層へ飛び上がるのもギリギリだけれど、それでもなんとか距離を取ることが出来た。これ以上力が漏れ出ぬよう、心臓の音を鎮めるよう、持っていた海楼石を抱えるように身体を出来るだけ小さく丸めた。
「ニューゲート、助けて‥」