18
鐘の音が終焉を告げ、それぞれがその戦いの傷を抱えながら仲間に寄り添っていた。剣士さんは傷の手当てを進言する船医さんに、先にシャンディアの彼を見てやってと声をかける。シャンディアの少女も、彼の様子を心配して寄り添っていた。彼女のように、あの子もまたシャンディアの彼の元に寄り添っていると踏んでいたのに、横たわる戦士さんの近くに彼女の姿はない。これから私のすべきこと、生きる意味。そんなことも考えながら、様子を伺いつつ腰を下ろしていたけれど、今、私のすべきことはもう一つあるはず。
「ナマエ‥!」
エネルの船が空へと飛んだ後彼女の姿を見たのは、きっと私だけ。私が剣士さんたちを上に運んだ時、入れ違いで下へと身投げした彼女が苦しそうな顔を引きつらせてまで私に笑いかけた意味を知る必要がある。
「ロビンちゃん、どうした?」
「コックさん‥この都市のどこかに、あの子がいるはずなの」
「あの子って‥」
「ナマエか」
「ナマエが?あいつ真っ先に出てきそうなのにな」
「多分‥どこかで苦しんでるはず」
「「何?!」」
咄嗟に立ち上がった私にコックさんが声をかける。続いて、船医さんと剣士さん、長鼻くんも私の声に反応する。皆がエネルの前に倒れた時、彼女がしてくれたこと、体温の上昇の話、そして、この都市で一人確実に何かをしていたこと。私は探さなくてはならないと、彼らに伝えた。
「よし来た!」
「おれ達も探すぜ、ロビンちゃん」
「ゾロ、お前はチョッパーの手当てが終わってから来いよ。結果的にそっちのが早えんだからな」
「指図すんな」
「おれも、手当てが済んだらすぐ行くよ!」
四方に分かれ、彼女を探す。どこに居るの、いるなら返事をして。得体の知れない誰かを探すのに、こんな風に大きな声でその名を呼ぶ日が来るなんて、先日までの私が想像しただろうか。
「ナマエ‥!」
異様なほど綺麗に形を保ったままの一際大きな神殿の脇。その身をさらに小さくするように蹲るナマエを見つけた。けれど彼女に近付くにつれ、まるで海に浸かったように力が抜けて近づけない。彼女が海に愛されているその能力なのだろうか。近くにいたコックさんに声をかけ、私は他の人と船医さんを探しに走った。
「ナマエ、おい、ナマエ!!」
「ナマエ、こんなにボロボロで‥どうしちゃったんだよ!」
「‥サンジ‥ウソップ‥‥皆、は‥?」
「人の事心配してる身体じゃねえだろ!!」
「‥やっぱり、体温上がってんじゃねえか」
「体温が何だよ?」
「説明はあとだ!早く体温を下げてやらねえと‥おいチョッパー、来てくれ!」
苦しそうに息を吐く彼女の小さな両掌は固く握り閉められてたまま。右腕には歯形が三つついている。一つはまるで大蛇の牙が刺さったかのように彼女の腕に深い穴を開けているのが見える。優しく抱え上げるコックさんも声を上げて船医さんを呼ぶけれど、彼もまた能力者。
「あれ、力が抜けて‥ナマエの所、行かなきゃいけねえのに‥おれ、おれ‥!」
あと数十センチのその距離が、私達には水平線のように遠い。悔しさに涙を流す船医さんの気持ちが痛いほど伝わってきて、私も胸を締め付けられた。そんな彼の帽子に手を当て、剣士さんが彼を抱えて少し距離を取ってやる。
「お前が泣いてもこいつはよくならねえぞ、チョッパー」
「うん、うん‥!」
「ウソップとぐる眉に指示してやれ。多少は手当ても出来んだろ」
「そうだ、おれのやれることをやるんだ‥!傷の手当とそれから、体温を出来るだけ下げなくちゃ!」
船医さんの指示に沿って処置が進み、ゆっくりと剥がすように彼女の小さな掌が開かれる。指の跡をつけて固まった血液が、その掌を真っ赤に染める光景は言葉を奪い、脳裏にこびりつくように焼き付いていく。
「こんなに‥、傷跡が見えねえじゃねえか‥!!」
少し触れればその血の塊は割れ目からポロリと剥がれ、その下にくっきりとついたその両掌の四つの爪痕がどれほどの力で握りしめていたかを物語っていた。
「‥ごめんね、ロビン、チョッパー‥力、抜けちゃって‥」
「そんなの良いよ!!こんなの、何ともねえよ!!」
治療と、時間と共に少しずつ緩和されていく彼女の体温に比例して、彼女の能力もいくらか緩んでいた。船医さんは、漸く動くようになった身体で一直線に彼女に駆け寄って、やっと止まった涙をまたぽろぽろと零しながら言葉を返す。
ボロボロで傷だらけのナマエは、ゲリラだけに飽き足らず能力者である私達の心配をしていた。そしてまた、優しく温かい笑みをこちらに向けるのだ。どうしてこんな時にまで私たちに笑いかけるの、どうしてこんな時にまで。
「チョッパー、ワイパーのこと、ありがと」
ひひひ、と力なく笑った彼女は、安堵の表情を見せながらそのまま静かに眠りについた。私たちも、穏やかな彼女の寝顔に、胸を撫で下ろしその場へと腰を下ろした。